第七話「奇襲作戦」
快晴の昼下がり、洞窟の外を眺めるグンの耳に、遅れて起きてきたブリューの足音が届いた。ブリューが甘えるように首元に鼻を寄せてくると、グンも顔を寄せて静かな挨拶を返す。
ふと、ブリューがルカのリュックをクンクンと嗅ぎ始めた。わざとらしく尻尾を振り、「隊長ぉ! ここから凄まじく美味しそうな匂いがするでありますっ」と言わんばかりの報告の視線を向けてくる。グンは呆れて「知っとるわ。いたずらするなよ」と視線で諭すが、ブリューは止まらない。
再びクンクンと嗅ぎ、全く同じ報告を繰り返す。
「だーかーらー、知っとるって」
グンが鼻を低く鳴らすと、火がついたブリューはその場でグルっと一回転した。その地面を蹴る硬い音で、ルカが目を覚ました。
「……どぉしたの?……二人とも……お腹……空いたの?」
寝起きのキス。そして、待ちに待った昼食の支度が始まった。食欲をそそる香ばしい匂いに、レオンハルトとカミロもようやく泥のような眠りから這い出してきた。
久しぶりの家族団欒。食卓に並ぶのは、ルカが三ヶ月かけて収集し、魔力で保存していた豪華な料理の数々だ。
鶏の甘辛煮、クビナガカイリュウの竜田揚げ、モツの甘味噌炒め、牛肉のリゾット、白身魚のスープ。
「美味しい、美味しい、これも美味しい、全部美味しいっ!」
五人は笑みを湛え、奪い合うようにして皿を空にしていった。
食後のデザートとしてルカが満を持して取り出したのは、アイスクリームを乗せたスフレだった。
「ジャーン! 武功を上げてきた二人のご褒美だよっ」
ルカの手から直接差し出された冷たく甘いスフレを、グンとブリューは夢中でペロリと平らげた。見栄えの良い皿盛りもいいが、愛する人の手から直接食べる味は、やはり別格なのだ。
親愛のキスを贈れば、二頭は「ふわぁ……」と大きなあくびをした。それが伝染したように、レオンハルトとカミロも大きく口を開ける。
「お腹いっぱい……わしゃ満足じゃぁ~……」
カミロが至福の声を漏らし、レオンハルトもまた、平和な司令を下した。
「すぐに動くと体に悪いから、ちょっと休んでから出発ね」
鬼神の如く戦場を蹂躙してきた騎士たちの、あまりにも間の抜けた幸福な姿。それを見てルカは心から満足そうに頷いた。
「王子、この後はどうするの?」
ルカの問いに、レオンハルトはこれまでの経緯と、次なる作戦を詳しく説明し始めた。
幹部からの雷攻撃で絶体絶命の窮地に陥ったこと。愛する「我が子」を傷つけられた痛恨。そして、二度と敵の土俵で戦わないという鉄の教訓。
「まずは城塞に戻り、倒したワイバーンの肉を解体して保存食を作る。」
明日からは大木を切り倒して城塞の周囲に無造作に配置し、「鳥さんごっこ」のコース、すなわち敵は動きづらくて、こちらは縦横無尽に加速できるフィールドを作り上げる。
偵察隊のワイバーンを全滅させた以上、次は本格的な大軍勢が送り込まれるはずだ。あるいは、北部の支配地域からの援軍と挟み撃ちを仕掛けてくる可能性もある。
「城塞の中に閉じこもって待ち構えることはしない。森の各所に潜伏用の拠点を築き、奴らが城塞へ入り込んだところを外側から叩く」
一日で片がつく軍勢ではないだろう。森の拠点から拠点へ神速で移動しながら奇襲を繰り返し、敵の戦力をじわじわと削り取る。
「敵には不利で、こちらには有利なフィールド。城塞の周りも、広大な森一帯も。すべてを我らの『土俵』に作り変える」
レオンハルトの瞳には、かつての冷徹な王子としての鋭さが戻っていた。しかしその手は、穏やかにグンの銀色の毛並みを撫で続けている。
守るべき家族がいるからこそ、彼らの戦法はより狡猾に、より確実に、そしてより残酷に研ぎ澄まされていく。
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