第六話「約束の時②」

​満天の星空の下、夜の海は五人だけの楽園と化した。

ルカは三ヶ月分の空白を埋めるように、グンとブリューの背に交互に飛び乗っては、飛沫を上げて遊泳し、深く潜り、岩場からダイブを繰り返した。波の音に混じって響くルカの笑い声と、神獣たちの歓喜の咆哮。それは過酷な戦時下において、奇跡のように切り取られた純粋な幸福の時間だった。

​やがてへとへとになったルカが、砂浜で大の字に倒れ込む。肺いっぱいに夜の海気を吸い込んでいると、ブリューがその巨躯を低くし、背に乗るよう促してきた。

​「もう……勘弁してよ、ブリュー。明日の分まで遊んだよ……」

ルカが弱音を吐いても、ブリューは濡れた鼻先を強く押し当て、頑として譲らない。「最高に面白いものを見せてやる」と、その黄金の瞳が語っていた。

​根負けして銀色の背に跨がったルカだったが、走り出そうとしたブリューをカミロが制した。

​「ちょっと待て。ルカ、ブリューと自分の体に結束魔法を掛けろ。それも最大強度だ。首に両手を回せ。腰と腹回り、それから自分の首もガチガチに固定するんだ。じゃねえと遠心力で頭が吹っ飛んで首の骨が折れるぞ」

​「なになに!? いったい何をしようってのさ! 首の骨が折れるってなに、即死じゃん!」

ルカが悲鳴を上げるが、カミロは至極真面目な顔で言い放った。

​「Vカットだよ!」

「Vカットってなんだよぉぉぉーーーーっ!!」

​絶叫と共にブリューが爆発的な加速を見せた。景色が筋となって消え、重力が横殴りにルカを襲う。

数分後、浜辺に戻ってきたブリューの背の上で、ルカは白目を剥いて気絶していた。

「ルカ! 大丈夫か!」

「ルカ! 起きろっ!」

カミロとレオンハルトが交互に強烈なビンタを見舞う。グンとブリューも、やりすぎたと反省したように心配げな顔でルカを覗き込んだ。

​「えっ……あぁ……僕、……気絶してた?」

ルカが意識を取り戻すと、一同は心底安堵した。その場で、ルカを乗せての「Vカット」は厳禁という新たな鉄の掟が制定された。

​洞窟への帰り道、東の空が白み始めていた。レオンハルトが一眠りしてから旅立つと告げる。

​「じゃあ、気持ちよく寝るために塩を洗い流そう!」

ルカが張り切って魔法で水を作り出そうとしたが、先ほどの気絶を懸念した二人が慌てて止めに入った。

「バカ、やめろ! 魔力使うな!」

「ルカ。気持ちは嬉しいが、今は安静にするんだ」

​ルカは不満げに顔をしかめたが、レオンハルトが穏やかな声で続けた。

「これからはずっと一緒だ。なにも急ぐ必要はない」

その言葉に、ルカの心は温かな幸福感で満たされた。

​洞窟の中、大きな二頭の銀色の体に挟まれて横になる。

ルカが愛おしさを込めて二人の頬に交互にキスを贈れば、返ってくるのは「ふわぁ」という、世界で一番平和な、大きなあくびだった。

​(そうそう、これだよこれ……!)

​三ヶ月間夢にまで見たこの「幸せの合図」。

五人は一つの大きな塊のように身を寄せ合い、深い、深い眠りへと落ちていった。

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