祟り転生

雨士郎

第1話 最恐怨霊転生

ここは日本国内のとある山の中、自然が豊かなこの土地に似つかわしくない人工物、一面を覆う金属の壁が存在していた。壁には奇妙な絵や文字が描かれ札も張られていて不気味で近寄りがたい雰囲気。決して侵入しないようにと書かれた立札が置かれている。ここにはかつて大きな街を一瞬にして壊滅させた凶悪な怨霊が封印されている。誰もが眠る丑の刻、静寂を打ち破るように草原から足音が聞こえてきた、多数の人間達が閉じられた門の前に集結する。


「始めるぞ」

「ハッ!」


深夜なのに付近が明るくなるほど無数の火が焚かれる。清められた衣服で身を固めた男達が経典を読みだす。すると先程まで生ぬるかった風が冷たく凍えるような風に変わり、炎が大きく揺れ草や落ちた枯れ木などが空に舞いあげられていく。負けじと声を荒げながら読み上げ、お札を剥がし扉を開ける。男達が扉の中に入っていくと中には小さな小屋といくつかの木々、そして奥には祠が。小屋に荷物を運び作業を終えた男達は先に出ていく。


「いくぞ」

「はーい(まったく、幽霊なんているわけないってのに。さっきの風もただの自然現象でしょ)」


意を決した中年の男とけだるそうな若い男の二人が祠に向かう。


「言いつけ通り新しいPCをご用意いたしました」

(幽霊がそんなお願いするわけないだろ)

「……」


欠伸をする若い男。


「あわっ!?」


突如として体が固まってしまい直立不動に、口を開けたまま金縛りかかる。まさか本物なのかと若い男の顔が青ざめる。隣で冷や汗を流す中年の男。そしてこの緊迫した空気の中、携帯電話の着信音が鳴る。


(こんな時間に誰から、電源を落としてあるはず。いや、そもそも携帯は持ってきていない、ハッ、まさか)


呼吸を荒くする中年の男。震える手で懐に手を入れると携帯電話が入っていた。確認すると相手は非通知、なんとなく予想はついただろう、男は電話に出る。


「……わかった」


低いしゃがれ声が聞こえてきた。


「し、失礼します」


返答したとみなし電話を切りしまうと、涙目になった若い男を抱え祠から離れていった。


「ちょっとやりすぎたかな?」


俺は尊(たける)、怨霊をしている者だ。一部始終を木の上から見ていた。霊の存在を全く信じていない人間を連れてくるよう指示したのは俺。本当は実際にいるんだよと少し脅かす程度の予定だったけど、少々なめた態度だったのでちょっと強めの心霊現象を与えてしまった。まあ、そろそろ元に戻るから問題はないはず。おっと、携帯を返してあげないとな、呪術を使い若い男のポケットに向かって飛ばしこっそりと入れる。男達が封印を施し去っていくのを見送った後小屋へ。


「ネットやるかー」


PCを立ち上げインターネットに接続。仕事も兼ねて主にホラー関係のサイトを巡回している。ネットは楽しく現在怨霊生活を満喫している。


「平和で楽しい時代になったものだ」


昔の日本は魑魅魍魎がばっこする地獄のような世界だった。そんな中俺は神官として術を使ったり神に力を借り人々のために戦っていた。しかし仲間だと思っていた者達に裏切られ、敵の悪神たちに体を喰われてしまう。その恨みから怨霊となり、また力を借りていた神も闇に落ち、この時凄まじい怨念の力が俺の体からあふれ出した。制御不能になった俺は悪神を取り込み怒りのままに街を破壊。復讐を遂げたことで意識を取り戻し力を封印、そして現在に至る。神を取り込んだ影響か不老不死になり見た目は青年のまま永遠を生きることになってしまった。すでに恨みは消えているが力は自由に使える。呪術に怨念の力、そして神の力も。長年この世界に居続けてきた、日本の成長をこの目で見てきた。


「電話やテレビも驚いたけどネットとの出会いはそれらを越える衝撃だったね」


その場にいながら自在に情報が入手できる。こうしてネットをたしなむ現代に対応した怨霊が誕生した。怨霊だけど質問あるとかもやったっけ。楽しさのあまり加減を忘れ祟ってしまったことがあったな、気を付けないと。ネットに書いた俺の半生をつづった作品が好評のようでうれしい。皆実話だとは思ってないだろうな。


「ゲームでもやるか」


一人用からネットゲームまで様々なゲームでよく遊ぶ。最近は待っているのは相手を捕まえるもしくは逃げる、いわゆる鬼ごっこのゲーム。今回は俺は鬼、五人をこれから捕まえる。本職に追いかけられるんだ、楽しませてやるぜ!


「YOU LOSS!」


全員に逃げられてしまった。言い訳ではないがそんなにゲームはうまい方ではない。ぼろ負けだからと煽ってくる奴がいる、呪っちゃおうかな。いやいやいけない、そんな安易にすることではない。でもお前の名前は覚えたからな! ゲームを終了して今度はSNS等で情報収集。


「新作のお菓子が出てさ」


良い情報を入手。気になるな、よし。


「ちょっとコンビニ行ってくるか」


ネットをやめPCの電源を切り小屋から出て壁へ歩いていく。そしてよじ登りそのまま出ていった。残念ながら札やその絵は全く効果がなく自由に出歩いている。効いているふりをしているだけ、そうすることで彼らは安心できる。先ほどの携帯電話は彼らが来る前の準備からすでに俺が動きを見ていて、出ていったときに忍び込んで入手していた。毎回何かしら驚かす手を考えてはいる、怨霊をするのも楽ではない。そのまま森に入っていく。人が踏み入ることができない深い深い森の奥、そこに隠れ家がある。中には現代物の服にお金、黄金が積み置かれている。昔金を貢物として頂いていたことがあり、それを売っては欲しい物品を買うということをしていた。服を着替えて帽子を深くかぶり街に繰り出す。山の中に明かりがついたコンビニを発見、中に入って目的の物を購入、イートインで食す。


「エナドレうま、氷菓子うま!」


五感があり人間と同じように食を楽しむことができる。実際は食事をする必要はない便利な体。ただたまに人と同じことをしてみたくなる。ごみを捨て満足して山奥へ帰る。


「これからどうしたものか」


今後について考える。長らく居座ったがもう悪さをするつもりはない。元々裏切り者を粛正した時点で冷静さを取り戻していた。たまに俺と似たような立場の怨霊の先輩が遊びに来る。抑止力として動くことが俺達の役割じゃないかなと先輩たちが助言をくれた。俺のような被害者を出さないために。小屋に戻りまたネットを始める。


「おや?」


翌日の昼頃に異変が発生。瞬時に小屋が光に包まれたと思っていたら電源が切れたテレビのようにブツりと視界が途切れ急激にブラックアウト、意識も薄れていく。


「まさか死か? 急ではあるがいいさ、十分生きた」


ここで消えても悔いはない。散々楽しませてもらったからな。


「ああ、新作ホラーゲームだけが心残りだ」


ここで意識が完全になくなる。


(むっ、ここは?)


次に意識が戻ったのは同じく暗闇の中、水で満たされた場所にいるようだ。ここはどこだ? 天国ってことはないだろうから地獄だろうか。どこかからか薄っすらと声が聞こえる。すると突然俺の体が足元に向かって流れ始める。むぎぎっ狭い、こういう責めなのか。少しずつ下に降りていく体。そして次の瞬間、滑る様に狭所から抜け出すと急激に視界が晴れ大人たちが俺を見守る様に立っていた。


「やった!」


喜ぶ大人たち。これは、状況から察するに、俺が赤ちゃんになってこの女性から生まれたってことか? まさかこれは転生ってやつか。ならすることは一つ。息を吸い込み腹に力を入れ口を大きく開ける。


「おぎゃあ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

祟り転生 雨士郎 @nagasare

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ