秘めた力の勇者、黒の森を超えて
塩塚 和人
第1話 「最弱の勇者、黒の森へ」
山下浩はいつも通りの朝に目を覚ました。
しかし、目の前の天井は見慣れた高校の部屋とは違っていた。
光沢のある白い天井に、王宮の装飾が施されている。
「……ここ、どこだ?」浩は目をこすった。
自分以外に誰もいない。部屋の静寂が不自然に感じられる。
その瞬間、天井から降り注ぐ光の束に包まれ、空気が震えた。
眩しい光の中、長身の男が現れた。白髪で金色の瞳を持ち、
深い青色のローブには王国の紋章が輝いている。
「君こそ、この王国が選んだ勇者だ」その声は重厚だった。
浩は一瞬耳を疑った。勇者?何を言っているのか理解できなかった。
「え、ぼ、僕が……勇者って、冗談でしょ?」声が震える。
男は笑わず、真剣な表情で頷いた。
「ステータスを確認する」魔術師は手を掲げ、空中に魔法陣を描いた。
光の中に文字が浮かぶ。浩のステータスだ。
――レベル:1
――スキル:なし
――体力:12
――魔力:0
――力:1
「……な、なんだこれ……スキルなし?」浩は目を丸くした。
王宮の周囲に侍女や廷臣の視線を感じる。冷笑が小さく漏れる。
王までが眉をひそめ、低くため息をついた。
「これが勇者……?」王の声は冷たく、軽蔑に満ちていた。
「山下浩、貴様はこの国に不要だ。森へ送れ」
その言葉に浩は耳を疑った。森……?どこかもわからない場所だ。
魔術師が手をかざすと、床に魔法陣が浮かび上がった。
「ちょ、ちょっと待ってください!」浩は必死に抗う。
だが光に包まれた体は浮き上がり、抗えないまま宙に引き上げられる。
次の瞬間、視界が白く染まり、強い風に体が揺れた。
気づけば、そこは黒の森の入り口だった。
高くそびえる樹木が空を覆い、暗い影が地面に落ちる。
「ここが……黒の森……?」浩は息を詰める。
周囲には落ち葉と苔が生い茂り、奇妙な湿気が肌を刺す。
遠くで低く唸る声が響き、森の奥に潜む何かを感じた。
手に握るのは、追放時に与えられた短剣だけ。
ステータスは最低、魔法もスキルもない。戦う力はほぼゼロだ。
逃げるか、それとも生き延びるか。浩の胸は不安でいっぱいだった。
風が木々を揺らし、葉が舞う。影が森の奥から迫る。
「まずは……生き延びるしかない」浩は自分に言い聞かせた。
踏み出す足は震えていたが、黒の森の奥へ進むしかなかった。
数歩進むと、小川が流れる場所に出た。
水のせせらぎが心を少し落ち着かせる。
手を浸すと、冷たさが体に染み込み、森の生命を実感した。
しかし安心は短かった。茂みの中から赤い光が瞬く。
「えっ……」振り返ると、小型狼型魔物「黒牙ウルフ」が現れた。
鋭い牙と赤い瞳、筋肉質な体に威圧される。
「うわっ、逃げ……」反射的に後ずさる浩。
短剣を構えるが、攻撃力はほとんど期待できない。
だが、逃げるだけでは森を突破できない。戦うしかない。
黒牙ウルフが跳びかかる。速さは尋常ではない。
浩は地面に身を伏せ、かろうじて攻撃を避けた。
森の落ち葉と枝が飛び散り、視界を一瞬奪う。
「……避けるしかない!」呼吸を整えながら、森を走る。
小石を蹴り、魔物の注意を引く。短剣でわずかに切りつける。
赤い瞳が驚き、ウルフは一瞬後退した。
息を切らしながらも、浩は冷静さを取り戻す。
「僕にも、やれるかもしれない」初めての手応えが胸に湧いた。
しかし、森の奥にはさらに強力な魔物が待っている。
そのとき、空中に光の粒が現れた。小さな炎が揺れる。
火の精霊フレイラだ。小さな体が森の闇で光を放つ。
「人間……?」フレイラの声は風に乗り、森に響く。
浩は息を整え、短剣を握り直した。
「お願いします、仲間になってくれませんか?」
フレイラは微笑むように体を揺らし、浩の肩に寄った。
ステータス画面に変化が現れた。
――レベル:2
――スキル:火魔法(初級)
――体力:15
――魔力:5
「これで、戦える……!」浩は喜び、手の震えを抑える。
火球を試しに放つと、森の茂みが一瞬明るく光った。
黒牙ウルフが再び飛びかかる。
フレイラの炎で視界を奪い、逃げる隙を作る。
浩は短剣を振り、魔物は倒れた。森は再び静かになる。
「やった……」息を切らしながらも、達成感が胸に広がる。
森の奥、未知の魔物たちが潜む場所へ、浩は慎重に歩みを進める。
黒の森進行度:1%。
――レベル:2
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