第8話
「殿下、これが学園長から預かった書類になります」
衛兵隊隊長オスカー・グレイが、王子に分厚い封筒を手渡す。
その中には、ティアラがいなくなった経緯を学園側がまとめた報告書と、学園長の正式な要請状が入っていた。
「なるほど。ティアラは、母親あてに短い手紙を残して姿を消しただけ。学園長も当初は静観していたが、状況が思った以上に悪くなってきたわけだ」
王子は封筒から書類を取り出し、素早く目を通す。
噂による学園内外の混乱、そして貴族家同士の微妙な軋轢――
王族としても、放っておけば国全体に影響を与えかねない事態だ。
「オスカー、捜索の手配を頼む。表向きは“大事ではない”という公爵家の意向があるだろうが、俺が許可する。できる限りの手を尽くせ」
オスカーは胸に手を当てて深く礼をした。
「承知いたしました。私の部下にも極秘で捜索を行うよう指示します。ただ、場所を絞り込むための情報が必要ですね」
王子は少し考え込み、やがてうなずく。
「ティアラの取り巻きたちや、彼女に近しかった人物から話を聞きたい。彼女は決して自ら騒ぎを大きくするタイプではない。何かきっかけがあったのではないか」
その瞬間、ノックの音が響いた。
部屋に入ってきたのは、マリアだった。
「殿下、お話中でしたら後ほどに……」
王子は手で制し、「入ってくれ」と声をかける。
「マリア、ちょうどよかった。君もティアラのことで何か分かることはないか?」
マリアは目を伏せる。
彼女自身、ティアラと実際にそこまで多く話したわけではない。
ただ、あの気高い令嬢が理不尽な噂で追いつめられていたことは、誰よりも痛感している。
「ティアラ様は……恐らく、あの噂に深く傷ついていました。私自身、周囲が勝手に“殿下と私”を盛り上げているのを見て申し訳ない気持ちで」
王子が小さく息をつく。
「やはり、あの噂が原因なのか」
マリアは続ける。
「殿下、私にも力を貸してください。私のせいでティアラ様が学園を去ることになったように思えて……何とか探し出して、お話ししたいんです」
王子はマリアの真っ直ぐな瞳を見つめ、静かにうなずいた。
「もちろんだ。まずは学園内で証言を集めてくれ。ティアラの取り巻き、教師、同級生――誰でもいい。些細な情報でも構わない。俺とオスカーは、街での手がかりを探す」
オスカーも微笑んで応じる。
「私の部下に聞き込みをさせます。あの方ほどの身分が宿屋に滞在すれば、それなりに目立つはずですから」
そうして、王子とマリアたちは動き始めた。
ティアラが消えた事実を、ただ黙って見過ごすのではなく、必死に探し出そうとする。
今、ようやく誰もが遅ればせながら、ティアラの“本当の姿”と向き合おうとしていた――。
【9時更新】断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。 パリパリかぷちーの @cappuccino-pary
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