第3話

「ティアラ・カーライル……さん、ですよね」


放課後、図書室で参考書を探していると、不意に声をかけられた。


振り向くと、そこにはマリア・レインが立っている。


「ええ、そうだけれど」


その答えに、彼女は少し戸惑いながらも微笑んだ。


「はじめまして。私はマリア・レインと申します。もしよろしければ、一緒に資料を探していただけないかと思いまして」


どうやら魔力の制御方法をまとめた古書が必要らしい。


私も同じ分野を探していたので、自然と二人で目当ての本を探すことになった。


「……あなたとは、ゆっくり話す機会がなかったわね」


そう言うと、マリアは控えめにうなずく。


「はい。私も貴女に直接ご挨拶しようと思っていたのですけれど、なかなか……。貴族の方って、やはり近寄りがたくて」


その言葉に、思わず私は苦笑する。

自分が誰かと打ち解けにくいのは事実だろう。

けれど、それは私の性格の問題か、あるいは周囲の先入観なのか。


「貴族でも、あなたと同じ学生よ。お互いに学ぶことは同じだし、敬遠される理由はないはず」


それを聞いたマリアは、ほっとした様子を見せた。


「そう言っていただけると嬉しいです。けれど私、平民出身でこの学園に来て、少しずつ慣れるまで精一杯で……」


彼女の表情には、確かに学園生活への不安がにじんでいた。

優秀であるがゆえに、一目置かれる存在なのだろう。

だが、それは時に孤立を生む。


「私もあまり友達がいないの。取り巻きはいるけれど、本当に私を理解してくれているのか分からない」


そう打ち明けると、マリアは意外そうに目を見開いた。


「ティアラ様ほどの方でも、そんなお気持ちになるのですね。失礼と思われるかもしれないけど、少し安心しました」


私は頭を横に振る。


「失礼なんてことはないわ。誰だって悩みはあるわ」


その瞬間、図書室の奥からクスクスと笑い声が聞こえた。

同級生らしき貴族令嬢二人が、こちらを見ながらひそひそ話をしている。


「悪役令嬢と、ヒロインの密談? うふふ、面白い組み合わせ」


その声がはっきりと耳に入り、私は思わず眉を寄せた。

マリアは気にしないふりをしているが、少なからず動揺しているのが分かる。


「……ヒロイン、というのはあなたのこと?」


小声で聞けば、マリアは困惑したように首をかしげる。


「私もよく分かりません。ただ、“平民出身でありながら王子殿下に気に入られている”という話が変に広まってしまって……」


私の胸に、得体の知れないモヤが広がる。

王子が私と婚約する可能性がありながら、マリアと親しげにしている――

それが“恋愛物語のヒロイン”のように扱われているのだろうか。


「私に何かできることがあれば、いつでも言ってちょうだい。あなたにも、学園生活を楽しんでもらいたいから」


そう言うと、マリアははにかみながら礼を言った。


「ありがとうございます。ティアラ様も……お困りのことがあれば、遠慮なくわたしで良ければおっしゃってくださいね」


ぎこちない会話だったが、マリアは確かに悪い子ではない。

それどころか、周囲の“噂”という渦の中で、同じように孤立しそうになっている存在なのかもしれない。


ただ、その噂がこれからどう膨らんでいくのか――

私には、不安な予感しかなかった。

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