ポチッとコーギー
橘 静樹
第1話 ひょっこりコーギー
私にも、きちんとお迎えは来てくれるのかな。
ビルの屋上から飛び降りるシーンはドラマや映画で何度も見たことがある。けれどいざ自分がその立場になると、足が前に動かなかった。
怖かったからではない。右足から踏み出すのか、左足から踏み出すのか、それとも両足でぴょんと飛び降りるのか、どれが一番行儀の良い作法なのかを考えてしまったからだ。
足を止めたまま悩む私を尻目に、風に煽られた制服のスカートはパタパタと羽ばたくように行動を促してくる。
「まぁ、いいか」
どうでもいいことだ。足は揃えたまま、踏み出さないことにした。
バンジージャンプの要領で、まっすぐピンと伸ばした体を前に傾け、そのまま両手を広げて空中へと身を投げる。
ビルとビルの間、路地裏のアスファルトに向かって軽やかな自由落下が始まった。昼間ではあるが、下に誰もいないのは確認済みだ。人に迷惑をかけることもないだろう。
目を閉じ、引力なのか重力なのかよく分からない自然の力に身を任せる。
束の間のひと時を味わいながら、私は待った。
地面まではたったの数秒──のはずなのに、不思議なほどその時が来ない──これは……来たか、と思った刹那、すぐ近くだ、真横から話しかけられた。
「ワンダフル! ワンダフルだワン! その若さでこの世に見切りをつけられるだなんて、なんてワンダフルなお嬢さんだワン!」
目を開けると、世界は灰色に染まっていた。落下も止まっている。
けれど制服のスカートは捲れていなし、髪も逆立ったりはしていない。ただ、逆さまなだけ。時間の流れが止まっているのだ、と感覚として分かる。
頭のてっぺんが地面を向いたまま声のした方を向くと、犬のおまわりさん──としか呼べない生き物──がいた。
警察の帽子を被ったコーギーが空中でお行儀よく静止している。おそらくオスであろうコーギーは、潤んだ瞳で私をまじまじと見つめながら話しかけてきた。
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