悪役ネクロマンサーに転生したけど、 シナリオが効率悪いので「指示通り」に行動して世界をバグらせます

@Ryukiro

【プロローグ】 ――電気工事士の裏切り――

カイトは、ごく普通の男だった。


本当に、どうしようもなく普通の男だ。


職業は電気工事士。

ショートした回路を直すことはできるが、

自分の恋愛が完全にショートしていることには、まるで対処できなかった。


かつては成績優秀、将来有望。

――今では、退屈で平凡な人生を送る、ただの社会人。


それでも、彼には「一応」すべてが揃っていた。

静かな生活。

家。

そして、ヨーロッパ系美人の恋人――ルーシー。


ただし、運だけが欠けていた。


毎日は単調で、変化も刺激もない。


仕事。

寝る。

食べる。


その繰り返し。


嫌気は差していたが、

もう戻れないところまで来ていた。


その日は――雨だった。


もちろん雨だ。

炎天下で振られる物語など存在しない。

悲劇には、最低でも湿度90%と、濡れたコンクリート色の空が必要なのだ。


カイトは、恋人の浮気を突き止め、

ついにその日、現場に踏み込んだ。


「……で、どれくらい?」


工具バッグを握りしめながら、カイトは言った。


ルーシーは息を呑んだ。

完璧なタイミングだった。


肩を震わせ、目に涙を溜める。

あまりにも早すぎて、逆に感心するほどだ。


「カ、カイト……ごめんなさい……!」

「こんなつもりじゃ……なかったの……!」


泣きながら一歩近づく。

涙と雨が混ざり合う。


「混乱してただけなの……ニックが、そこにいて……私、弱ってて……」


カイトは彼女を見ていた。


涙ではない。

唇でもない。


泣きながら、横目で“彼”を確認していることを。


ニックは、気まずそうに立っていた。

まるでスキップ不能のイベントシーンを眺めるNPCのように。


ルーシーはそれに気づくと、

泣き方を一段階レベルアップさせた。


「自分が嫌になる……!」

そう言いながら、無意識にニックの腕にしがみつく。


――その瞬間、カイトは理解した。


これは謝罪じゃない。

台本通りの演技だ。


鏡の前で練習していた可能性すらある。


ニックが咳払いをした。


「まあまあ、落ち着こうぜ」


一歩前に出て、

自然に――しかし確実に、カイトとルーシーの間に立つ。


守るように。

支配するように。

見せつけるように。


「気持ちはわかる。でもさ、こういうこともあるんだよ」


滑らかな声。

どこかで練習したような口調。


「人は成長する。感情は変わる。自然淘汰ってやつ?」


自信満々の笑顔。

――殴りたくなるほど、完璧だ。


「君はいい奴だよ。でも……“安定”なんだ」


工具バッグをちらりと見る。


「彼女は、もっと“夢”が欲しいんだ」


自分の胸を叩く。


「俺なら、それを与えられる」


カイトは気づいた。


ニックは、彼に話していない。

見えない観客に語りかけている。


雨の中、胸元をはだけたシャツ。

寒そうな素振りは一切ない。


イケメンは、体温調節機能を持たないらしい。


――ああ、NTRだ。

そう思った人、正解だ。


「半年か……」

「俺が誕生日ディナーを奢った頃だな。最高だ」


あまりにも完璧なテンプレ展開に、

カイトは自分の人生の観客になった気分だった。


(ここで逃げて、修行して、一年後に復讐するんだろ?

 ……みんな、それが好きなんだろ?)


その時、親友のジャンが近くで固まっているのが見えた。


彼は、嫌いなドラマの最終回を見てしまった顔をしていた。


「カイト……俺、知らなくて……」


その瞬間。


タイヤの悲鳴。


白いトラックが、濡れた道路を滑ってくる。


ナンバープレートなし。

おそらく神が運転している。


――トラックくん、到着。


カイトはそれを見た。


(運命は、俺の味方らしい)


彼は二人を突き飛ばすこともできた。

ヒーローにもなれた。


だが、彼は電気工事士だ。


壊れた回路は――抜くしかない。


「……そうだな」


静かに言う。


「この展開、泣いて終わるにはベタすぎる」


カイトは突進した。


ルーシーの腰を掴み、

ニックのシャツの襟を引っ掴む。


「地獄に行くなら――手荷物付きだ!」


「カイト!?やめ――」


――ドン。


闇。


最後に聞こえたのは、

親友ジャンがショック死する音だった。


そして、青い光。


【WELCOME, TRAVELER】

【Tutorial Completed: 電気工事士の裏切り】

【カルマ計測中……結果:極めて悪質】


(……は?)


闇の中で、進捗バーが動く。


【NEW LIFE LOADING…】


「待て。俺、今トラックで死んだんだけど?」

「なんでUIがあるんだ?」


【クラス決定】

【LEGENDARY NECROMANCER】


カイトの眉が引きつった。


「……ネクロマンサー?」


「ふざけんな!!死なせろ!!」


――しかし、システムは無視した。


物語は、もう始まっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る