第六話 不快らしい

 


 実に、術学館らしい霊怪だ。


 術の展開が出来なくなった者から墜ちる。

 それ自体は真理だ。

 術というものは、発動している間だけが術師であり、途切れた瞬間に一般人へと戻る。


 そこに善悪はない。

 ただ、条件があるだけだ。


 だが―─

 あまりに作為的過ぎる。


 限界を迎えた瞬間だけを、正確に狙う。

 迷いも、揺らぎもない。


 自然発生の霊怪にしては、出来過ぎている。

 人工的な霊怪の特性だろうか。

 あるいは、そういう性質が発現しやすいよう、場を整えられたか。


 どちらにせよ、術学館向きだ。


 学生が限界を迎え、

 それでも致命的な被害が出ない程度に収まる。


 そう考えると、合点がいく。


 視線の先で、三年次が持ちこたえている。

 判断は速い。

 連携も成立している。


 だが、余裕はない。


 「霊怪。己はここに佇み続けるが、どう動く?」


 霊怪は応じない。

 応じる必要がないからだ。


 「後ろに、少々騒がしい者達がいるようだが」


 その瞬間だった。


 「─うっざ!」


 誰かが、はっきりとそう吐き捨てた。


 理屈ではない。

 評価でもない。


 ただ、不快だったらしい。


 三年次が、動いた。


 術が、遠慮なく重ねられる。

 順序も、形式も、もはや揃っていない。


 だが、数がある。

 勢いがある。


 紫雷が散り、

 形が崩れ、

 判断が遅れる。


 霊怪は押し切られた。


 最後は力技だった。

 整然とは程遠い。


 だが、結果は出た。


 霊怪は消滅した。


 美しくはない。

 後始末も雑だ。


 それでも、生き残った。


 場が静まる。

 術が解かれ、緊張が抜ける。


 己は、そのまま担任の元へ戻った。


 「手は出したが、口は出してない」


 事実だけを述べる。


 担任は一瞬だけこちらを見て、すぐに視線を外す。


 「お前な……まぁいい」


 咎めない。

 褒めもしない。


 「これにて三学年合同授業を終える。

 この場にて解散!」


 すべては授業として回収された。


 術学館らしい終わり方だ。


 人が散っていく。

 三年次の何人かが、こちらを見て露骨に顔をしかめる。


 ─うっざ。


 そう思われているだろう。

 それで構わない。

 全く気にしてはいない。

 決して。


 己は、何も得ていない。

 だが、無駄でもなかった。


 判断材料は増えた。

 三年次は対処できる。

 制度は歪んでいるが、機能はしている。


 ならば。


 明日も来てもいいかもしれない。


 ただ、それだけのことだ。




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