第三話 霊怪
霊怪とは、科学的に説明の出来ない現象の総称だ。
幽霊や妖怪といった言葉は、その一部に過ぎない。
再現性がなく、観測者によって性質が変わり、記録に残そうとすると形を失う。
存在するか否かは重要ではない。
影響が出るかどうか、それだけが問題だ。
術師とは、その霊怪現象に対処する者を指す。
理解する者ではない。
解明する者でもない。
術師の役目は、霊怪を倒すことではない。
消すことでも、救うことでもない。
ただ、社会が破綻しない形に収めることだ。
説明できないものを、説明せずに処理する。
それが出来る者だけが、術師と呼ばれる。
術学館とは、そのための場所だ。
家系ごとに異なる術を、同じ空間に集める。
優劣を競わせるためではない。
事故を、表に出さないためだ。
学生という身分は、猶予でもあり、免責でもある。
未熟だから許されるのではない。
責任を個人に帰属させないために、学生でいさせられている。
ここでは、個人では出来ないことが行われる。
家系だけでは背負えない判断が下される。
そして、起きてはならない現象が、起きる前提で扱われる。
霊怪は、準備が整った時に顕れるものではない。
人が揃い、場が揃い、制度が揃った時に、初めて許される。
術学館は、そのために在る。
――だからこそ、今から起きることは、特別だ。
学生でなければ、許されない。
そして術師でなければ、直視できない。
今、この場で起きるのは、
科学の外側にある現象だ。
◇
総勢五十人ほどか。
術場に集められた者達は、それぞれ異なる手段を取っていた。
道具を並べる者。
言葉を整える者。
身体そのものを依代とする者。
統一はない。
揃える気もない。
再現とは、同じ形を作ることではない。
同じ結果に辿り着くために、各々が最適な経路を取るだけだ。
場が、整っていく。
風向きが変わった。
さっきまで感じなかった流れが、足元を撫でる。
暗い。
雲はない。
視界を遮るものもない。
それでも、光が落ちた。
そろそろか。
そう感じた瞬間、天から深紫の落雷が降る。
音は遅れて来た。
雷鳴というより、空間が裂けたような衝撃だ。
地に打ち込まれた紫電は散らず、
そこに、立っていた。
人の形をしている。
だが、人ではない。
影が濃すぎる。
輪郭が、確定しない。
視線を向けると、こちらを認識しているのが分かる。
敵意ではない。
理解でもない。
ただ、在る。
霊怪は、そういうものだ。
誰かが息を呑む音がした。
誰かが言葉を紡ごうとして、止めた。
術は、まだ完全には発動していない。それでも場は、もう引き返せない位置にある。
――顕れたな。
そう判断する。
己と同じく霊怪は、
静かに佇んでいた。
次に動くのは、
人の側だ。
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