草食系男子ですが、肉食系の美少女たちから狙われています
マイルドな味わい
プロローグ 肉食系に囲まれる草食系
自分が争いの最中に立つなんてもってのほか。
見知らぬ人同士が喧嘩しているところを見るのでさえ、動悸が止まらなくなってしまう。
いつだったか、そんな勇馬のことを「草食系」だと呼ぶ人がいた。
その言葉には少なからず侮蔑的な意味が含まれていただろうけど、勇馬はそれを好意的に受け止めていた。
いいじゃないか、草食系。
それってつまり、争いごとを嫌う平和主義者っていうことだ。
実際、勇馬は非常に温和で利他的な性格だった。
雨に濡れているお年寄りがいたら傘に入れてあげる。小さい子供が泣いていたら泣き止むまで励ましてやる。
中学生の時には、財布を失くして病院で待つ母の下に行けず泣いていた子に、自分の財布をまるまる手渡したこともあった。
たとえ自分が多少の不利益を被ろうとも、周りの人が救われるならそれでいいという考え方なのだ。
そんな風にみんなお互いを尊重する気持ちがあれば、この世はもっと平和になるだろうに――。
そうは思うのだけれど、勇馬は現在高校二年生。多感な時期ということもあって、周りはそんなのほほんとした人間ばかりとは限らない。
みんな仲良く付き合えるのならいい。だが彼ら彼女らは、その有り余る若さが故に、頻繁に衝突し、互いを傷つけあう。
そしてその最たる原因は――「恋愛感情」にあるのではないかと、勇馬は考察していた。
一年生当時、勇馬のクラスには大層モテる男子がいた。
彼はイケメンで話が上手く、おまけに学内で一番足が速かった。
欠点を挙げるとすれば、超がつくほどの浮気性で、非常に軟派な性格をしていたことだ。
気に入った女子は彼氏持ちだろうとお構いなしに食ってしまうような男だったから、その分よくトラブルになっていた。
痴話喧嘩の中心には必ず彼がいると言っていいほどのトラブルメーカーっぷりだ。
そんな感じだから、彼は『俺、いつか女の子に刺されるかもしんねぇ』なんて冗談めかして言っていることもあった。
当然、平和と平穏を重んじる勇馬は自クラスでの刃傷沙汰なんて見たくない。
そういうわけで、当時は彼が起こした恋愛絡みの揉め事をよく仲裁していたものだ。
おかげで勇馬はその男子からは妙に懐かれてしまったが……それはさておき。
やはり、人間における最大の関心事と言えば恋愛なのだと思う。
そしてその恋愛が人を狂わせる。
好きな人を自分のものにしたいという欲望が競争を生んでいるのは自明である。
そういうわけで、勇馬は恋愛というものに対してもまた、少なからぬ苦手意識を覚えていた。
人の心を揺さぶり、理性を崩壊させ、争いの火種となる恋愛を、心のどこかで避けるようになっていたのだ。
だからこそ、
(きっと僕は、今後も誰かと深い関係になることはないんだろうな……)
そう、思っていたのだが――
*
「見て見て
「はぁ⁉ 勇馬はアタシと帰る約束してたんだよ! なあ勇馬、アタシと一緒に帰ってくれるよな……?」
「二人とも、生活指導の先生が呼んでいる。早く指導室に向かった方がいい。それでユウマ、この後のショッピングの件だけれど――」
同じクラスの女子三人が、自分の周りを囲って
パリピ系陽キャ黒ギャル――
オラオラ系ヤンキー女子――
クール系ミステリアス才女――
彼女たちは全員、街を歩けば誰もが振り向くような美少女だ。
普通の男子なら有頂天になってしまいそうなシチュエーションだけれど……勇馬は困惑極まれりといった様子だった。
「ええと……そういうことなら、みんなでショッピングして、その後スダバで新作フラッペを飲むってことでどうかな……?」
そんな風に勇馬は折衷案を提示するが、
「ま、アタシはそれでいーぜ。どうせその後、勇馬と一緒に帰れっし」
「待って、それって玲音だけズルくね⁉ あーしも縞田っちと帰りたい~!」
「はぁ? 仕方ねーだろ。勇馬と最寄り駅一緒なのアタシだけなんだからよ」
「クロミの意見に同感。一人だけ得をするのは健全ではない。ここは公平に、持ち回りで勇馬と一緒に帰る人を決めるべき。まずは今日、私が勇馬と一緒に帰る」
「恵那、お前ん家、勇馬の家と真反対だろ。一緒に帰ったところでその後どーすんだよ」
「ユウマが私の家に泊まればいい」
「その案が一番健全じゃねーよ」
といった感じで、三人の美少女は勇馬を巡って延々と口論を続ける。
(みんな、仲良くしてくれないかな……)
そうは思うが、勇馬が何を言ったところで無力だ。
……一体どうしてこんなことになってしまったのだろう。
そのきっかけを語るには、少しばかり時間を遡る必要がある――。
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