第1話 全ての始まり
リュウキ「そうか。ケイジュって言うのか…。じゃあよろしくな!ケイジュ!」
ケイジュ「うん…よ、よろしく…。」
今さっき初めて会った二人は、相手に対して、全く別の感想を抱いた。
リュウキ(なんだか暗くて元気のない奴だな!なんか血だらけだし。)
ケイジュ(なんか明るくて元気がある人だ…。)
リュウキ「ところで、どうしてこんな森で蹲って泣いてるんだ!」
ケイジュ「………」
ケイジュは、今さっき会ったばかりの、おそらく同じくらいの歳の子供に、すぐに心を開く人間では無い。
二人の間に沈黙が流れる。
何とか会話をする為に、リュウキは口を開いた。
リュウキ「俺はさっき通った村の人達から追いかけられてさ。逃げてたらいつの間にかこんな所に来てたんだ。」
リュウキ「さ!次はお前だぞ!俺は話したんだからお前も話してくれよ!」
リュウキは相手に話をさせる為に、自身の事を話し、その話を聞かせた対価として、ケイジュに話を要求した。
ケイジュがこれを受ける必要などは全く無かったが、リュウキの明るい性格に押されたのか、ゆっくりと口を開き始めた。
ケイジュ「…俺はモンスターに追いかけられて…そしたら何か身体が変な感じになって…それから…」
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半刻程だろうか、ケイジュは行く宛ても無く歩いていると…
クレイジーウルフ「ガルルルッ!!」
ケイジュ「ひっ!な、なに!?」
ケイジュの目の前に、「モンスター」と呼ばれる生物が現れた。
ケイジュ「も、もしかしてモンスター!?」
この世界には、人間や動物、虫と魚、鳥などの他に、「モンスター」と呼ばれる生物が存在する。
モンスターは、人に似た形をしたものも存在すれば、動物や虫に良く似ているものもいる。
しかし決定的に違う所と言えば、体内に「魔力」という物を持っており、似ている生物とは掛け離れた力を持っていた。
ケイジュは知らなかったが、このモンスターは、クレイジーウルフと言い、本来ならば、群れで行動するモンスターだ。
しかし、群れから追い出されるものを、一匹狼と呼ぶ。
ケイジュ「な、なんで…森の中とかじゃないのに…!」
その一匹狼の中に、群れで行動しなくても、自信だけで獲物を狩ることができる程の強さを持つものが、自ら群れを出ていく、狂狼と呼ばれるものも存在する。
一匹狼ならば、武器を持った大人一人で倒せる程の強さのモンスターである。
しかし、なんの武器も持たない、しかも子供であるケイジュとっては、恐ろしい生物に見える。
そして不幸なことに、ケイジュの目の前に立っているのは、狂狼だった。
クレイジーウルフ「グゥルアァ!!」
ケイジュ「わああああ!!」
ヨダレを撒き散らしながらこちらへ向かってくる狂狼に対して、なんの抵抗のすべも無いケイジュは、背を向けて逃げるしかなかった。
ケイジュ「やめてえええ来ないでえええ!!」
さっきまで静かに歩いていた少年は、死にたくないと、泣き叫びながらも、一身に走る。
それを追いかける狂狼は対照的に、さっきまであった荒々しい雰囲気は鳴りを潜め、涙を流しながら自身に背を向け離れていく獲物を、静かに追い詰めていた。
ケイジュ「あっ」
ここ数日、何も食べていなかったからか、それとも逃げる事に精一杯で、足元を見ていなかったせいか、ケイジュは転んでしまった。
その隙を、狂狼は見逃してくれるような生物ではない。
何とか立ち上がろうとするも、怖さで腰が抜けてしまい、仰向けになりながら後ろを向くしか出来ない。
ケイジュ(食べられる?いや!痛いのは嫌だ!死にたくないよぉ!)
気づくと狂狼は大口を開けて飛びかかってきていた。
もはやできる事が無いケイジュは、無意識に向かってくるそれを、拒絶する為に手を突き出した。
狂狼「ギャオッ」
さっきまでケイジュに向かっていた狂狼は、断末魔か分からないような事を叫んで、反対側に吹っ飛んだ。
ケイジュは目を瞑っていたので、何が起きたかは分からなかったが、自身の身体に何かが巡る感覚があった。
ケイジュ「な…に…?」
辺り一面が黒焦げになっている…
男性「大丈夫か!?もう大丈夫だからな!」
女性「大きい音が聞こえてきたんだけど、一体何があったの?」
ケイジュは呆然としていた。
自身が犬を突き飛ばそうと、手を突き出した途端、何かが起き、犬が吹っ飛んでピタリとも動かなくなったのだ。
大きな音を聞いたであろう、おそらくこの辺に住んでいる大人達の集団が、農具などの武器を持って駆けつけた。
男性「大丈夫だぞ。何があったかは落ち着いてから話せばいいからな。」
女性「この子汚れてるし少し痩せてる…助けてあげないと…」
ボロボロのケイジュを一目見て、心配した大人達は、ケイジュに対し、温かい言葉をかける。
ある女性は、自身の身体を優しく支えてくれる。
すると、集団の中でも、一世代は歳をとった老人が、犬の遺体を見て、大声でこう叫んだ。
老人「この焼け跡…間違いない、魔術じゃ…!」
男性「何だと!?それじゃこの子供は魔族か!?」
女性「あの恐ろしい魔族!?ああああ神様!私達はこの子供を助けようとした訳ではありません!どうか!どうかお許しください!!」
さっきまで優しくしてくれていた大人達が、途端に自分を恐ろしいものを見る目で見てくる。
さっきまで自身の身体を優しく支えてくれていた女性に関しては、手に力を込め、ケイジュの身体を思い切り地面に突き飛ばした。
大人達の一人「こいつは人間じゃない!こいつを放っておいたら俺達の村は終わりだ!」
大人達の一人「人間の皮をかぶった化け物め!殺してやる!」
大人達が武器をこちらに向け、今にもケイジュを殺そうとしている事が言葉からも、態度からも分かる。
さっきまで呆然としていたケイジュは、突き飛ばされた衝撃と痛みで、我に返り、今にも自身を殺そうとにじり寄ってくる大人達を見上げた。
ケイジュ(なんで…?)
この状況では、ケイジュの頭の中はそれで埋め尽くされることは当たり前であった。
だが、ボロボロだった筈のケイジュは、さっきから何故か、体内から溢れる様な力を使い、立ち上がった。
老人「!逃げられる前に殺せ!殺した後に彼等に死体を持っていけば、謝礼が貰えるぞ!殺すんじゃ!」
ケイジュはまた逃げた。
自身に向かって走ってくる集団は、さっきまで逃げていたモンスターよりも恐ろしいモンスターに映った。
ケイジュ(逃げないと、逃げないと、逃げないと、逃げないと、何処に?)
逃亡の事だけを考えていたケイジュの脳内に、ふとそんな考えがよぎる。
ガッ
そのせいか分からないが、自身の頭に何か硬いものがぶつかった。
ケイジュ(痛っ…!!)
ズリッ
ケイジュ(!?)
痛みに気を取られたケイジュは、目の前が斜面である事に気づかず、生えている木にぶつかりながら、斜面を滑っていった。
ケイジュは必死に痛みから逃れたい為に、頭を抱えながら目を瞑った。
どれくらい経っただろう。
自身がもう滑っておらず、目を開けると木以外無い光景が広がっていた。
ケイジュはどこかに行く気力も湧かず、ただずっと蹲って泣き続けた。
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リュウキ「そんな事があったのか。確かにお前血だらけだもんな!」
半笑いでリュウキは続ける。
リュウキ「まぁ今はちょっと俺も余裕あるからさ、一回だけならご飯ご馳走してやるぜ!」
ケイジュ「え…?」
今さっき会ったばかりの人間に、飯をくれると言う言葉が、ケイジュには信じられなかった。
リュウキ「ほら!早く来いって!」
ケイジュの事など見向きもせずに、軽快なステップを踏みながら、どんどんリュウキは前に行く。
ケイジュ(どうしよう…でも行く所無いし…お腹も空いてるしな…。)
また襲われるかもしれないと思いながら、元々行く宛ても無く、もはや死を待つだけの存在であったケイジュは、どうにでもなれと思いながらも、自身の目の前を楽しく歩く少年に、少しだけ期待をしながら着いて行くのだった。
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