その後の話

 彼と彼女が正気を取り戻した数日後、あの廃城で起こった殺人事件に関する問題は一旦落ち着きを見せ始めた。

 ライアーバードは事態が落ち着くまで一旦王城に滞在することになった、彼とともに。

 彼は表向きは謹慎という扱いになり、しばらく休養することになった。

 彼は殺人事件の犯人であるものの、そもそも彼が殺した魔女は大罪人であり生死問わずの賞金首でもあった。

 そのため彼が殺人の罪に問われることはなく、それどころか普通に懸賞金が支払われそうになった。

 とはいえ、自分の母親を殺した報酬なんていらないと、彼はその賞金を受け取ろうとはしなかったが。

 それでもひとまず彼は殺人の罪に問われることにはならなかった。

 ただ、その事件の後に錯乱状態となり大暴れして城の人たちに迷惑をかけ怪我人を出したことは事実だったため、謹慎扱いになり、しばらく城で経過観察を見ることになった。

 彼が正気を取り戻したその日、ライアーバードは彼に償いをしたいとそう言った。

 彼の、彼らの大切な母親を死なせてしまった、彼に殺させてしまったその償いを。

 しかし彼は首を横に振った、お前は何も悪くない、と。

 それでも、と言い募ったライアーバードにそれでもというのなら、と前置きして彼は小さな声でこう言った。

 そばにいてくれ、と。

 それだけで十分だと彼は言った、こんなことを言う資格は本来自分にはないが、とも。

 そんなことでいいのか、と問うたライアーバードに彼は首を縦に振った。

 それならば、それでいいのだろうかとライアーバードは思った。

 いずれ、彼が、彼らが考えを変えてどうしてもライアーバードを許せなくなる日が来るのかもしれない。

 それならばその時にちゃんと罰を受けられるように、逃げずにに彼のそばにいよう、とライアーバードは決意した。

 そんなやりとりがあった翌朝、ライアーバードの兄と父が彼に殴り込みに来た。

 ライアーバードは自分の身内を必死で止めた、そんなライアーバードを彼が止めようとしたので事態は泥沼化していき、最終的に国王と王妃が「おやめなさい」と出張ってくるまで醜い言い争いと罵倒の応酬をすることになった。


 また、彼の『父親』に関しては不問となった、その方が王家にも都合がよく、『母親』があの魔女であるという世間的にはあんまりいい顔をされない事実だけが認められた。

 その事実は認められはしたものの、緘口令が敷かれたので今その事実を知る者も少ない。

 世間では第一王子の暗殺未遂を引き起こしたあの魔女が討ち取られた、と騒ぎになっていなかった。

 原因は主にライアーバードだった。

 彼を誘き寄せるためにライアーバードが行った物真似芸、そこに現れたやたらと目立つ謎のハッピ集団の効果もあって、世間では今あの謎の声真似芸人は一体なんだったのかという話題で持ちきりらしい。

 ライアーバードは大したことはしていないが、やはりあのハッピ集団が目立ちすぎたのだろう、あと唐突にあの場から消えたことも。

 ついでに先陣を切っていた少女が王女様だったのではという疑惑も出ているらしく、なら尚更あの声真似芸人何者だったんだよ、と。

 そして今、その声真似芸人の正体にめざとく気付いた者が今、ライアーバードの元に殴り込みに来ている。

「モリオンちゃーん、そこにいるのはわかっているんだ、怒らないから出ておいでー」

 どん、どん、どん、とやけに正確なリズムを刻むノックの音とともに、そんな声が聞こえてくる。

 怒っていないわけがない、銭ゲバ支配人の声だった。

「だから、そいうわけで私は逃げます」

 片手を上げて窓から飛び降りてこの場から脱出しようとしたライアーバードだったが、彼に手を掴まれ阻止される。

「そんなとこから逃げようとすんな馬鹿。……付き合ってやるし何かあったら守ってやる。だからいい加減覚悟を決めたらどうだ?」

 彼にそう言われるが、ライアーバードは小さく首を横に振った。

「モリオンちゃーん、そこにいるのはわかっているんだ、怒らないから出ておいでー」

 先ほどと全く同じ声が再び聞こえてくる、先ほどからずっとこれだけが何度も何度も繰り返されているのだ。

 ライアーバードは支配人に神竜の鱗一枚で手打ちにしてもらおうと思っていた。

 しかし声を聞いた時点で理解した、多分無理だと。

 単調な声から滲み出る凄まじい怒りのオーラに、ライアーバードは気圧された。

 神竜の殺意にすら耐えたライアーバードならただの人間の怒り程度どうってことないと思っていたのだが、どうにもこれと対峙するのはすごく疲れそうだ、と。

 逃げた方が無難と判断したライアーバードだったが、窓からの脱出は危ないからと彼に止められている状態だった。

「モリオンちゃーん、そこにいるのはわかっているんだ、怒らないから出ておいでー」

 声とノックがいつまでもいつまでも続いている、今度これを幻術に取り入れようかとライアーバードは現実逃避気味にそう思った。

「ライ」

 名前を呼ばれる、俯いていた顔を上げると困った顔の彼がライアーバードの顔を覗き込んでいた。

「…………わかりました……腹を、括りましょう」

 嫌だなあと思いつつそれでも覚悟を決めたライアーバードの手を、彼が繋ぎ直す。

 正確なリズムでノックされるドアに向きあったライアーバードは掴まれた手を握り返した後、ゆっくりとドアに向かって歩き出した。

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