『俺達のグレートなキャンプ230 ハイテクすぎる眼鏡を開発しよう』

海山純平

第230話 ハイテクすぎる眼鏡を開発しよう

俺達のグレートなキャンプ230 ハイテクすぎる眼鏡を開発しよう


「はいっ!というわけで今回の『奇抜でグレートなキャンプ』はこれだぁっ!」

 石川が両手を大きく広げて叫んだ瞬間、キャンプサイトに設営されたタープの下で、千葉が目をキラキラと輝かせ、富山がテーブルに額を打ち付けた。

 ゴンッ、という鈍い音。

「痛い……」富山が呻く。「まだ何も聞いてないのに、もう嫌な予感しかしない……」

「富山さん、そんなこと言わないでくださいよぉ!石川さんの企画は毎回最高じゃないですか!前回の『焚き火で人工衛星を作ろう』も、前々回の『テントを気球にして空に飛ばそう』も、めちゃくちゃ楽しかったし!」

「いや、どっちも消防と警察呼ばれたでしょうが!!」富山が顔を上げて千葉に向かって叫ぶ。その目は疲労と諦めが混ざり合った、何かを悟った修行僧のような輝きを放っていた。

「細かいことは気にしない気にしない!さぁさぁ、今回の企画を発表するぞぉっ!」石川が腰に手を当て、胸を張る。その姿は妙に誇らしげで、まるで人類の未来を救う発明を思いついた天才科学者のようだった。

「今回はなんと……『ハイテクすぎる眼鏡を開発してプレゼントしちゃおう大作戦』だぁぁぁっ!!」

 石川の叫び声が、初秋のキャンプ場に響き渡る。近くのサイトでBBQをしていた家族連れが、こちらを不安そうに見た。

「眼鏡……?」富山が眉をひそめる。「普通の眼鏡なら別にいいけど……まさか普通じゃないわよね?」

「当たり前じゃないか!普通の眼鏡なんて作ったって面白くもなんともない!俺が作るのは、この世の全てを凌駕する、究極のハイテク眼鏡だぁっ!」

 石川が勢いよくテーブルに広げたのは、謎の設計図だった。A3サイズの紙いっぱいに、細かい回路図やら部品の配置図やら、よくわからない数式やらがびっしりと書き込まれている。

「うわぁ、すごい!本格的ですね!」千葉が身を乗り出して設計図を覗き込む。

「本格的というか……これ、どう見ても兵器の設計図じゃない?」富山が青ざめた顔で指摘する。設計図の端には『HEAT RAY EMISSION SYSTEM』という不穏な文字が踊っていた。

「ふっふっふ……よくぞ気づいたね、富山くん!この眼鏡に搭載される機能はこれだ!」

 石川が指を一本立てて宣言する。

「その一!視力増強機能!最大で望遠鏡並みの倍率で遠くのものが見える!」

「おぉー!」千葉が拍手する。

「その二!眼精疲労自動回復機能!目が疲れたら自動的にマッサージ波が発射され、疲れが吹き飛ぶ!」

「便利ですねぇ!」

「その三!赤外線・紫外線・強い光を自動でカット!さらに見たくないものを自動認識して視界から消去する機能付き!」

「それって……どういうこと?」富山が恐る恐る尋ねる。

「例えば嫌いな人の顔とか、グロテスクな映像とか、そういうのが自動的にモザイクになるんだ!」

「いや、それ社会生活に支障をきたすでしょ!」

「その四!スコープ機能搭載!十字線が表示されて、距離や風速まで計測可能!」

「何に使うんですかそれ!」富山のツッコミが切れ味を増す。

「そしてぇぇぇっ……」石川が両手を天に掲げる。その表情は恍惚とした笑みを浮かべており、どこか狂気じみた輝きが目に宿っていた。「その五!熱線発射機能ぅぅぅっ!!眼鏡のフレーム部分から高熱の赤外線レーザーが発射できるぞぉぉぉっ!!」

 瞬間、キャンプ場に静寂が訪れた。

 遠くでカラスが鳴いている。

 風がそよそよと吹いている。

 隣のサイトの家族が、荷物をまとめ始めた。

「……石川さん」富山が震える声で言った。「それ、眼鏡じゃなくて兵器よね?完全に兵器よね?」

「何を言ってるんだ富山くん!これは眼鏡だよ!ただちょっとハイテクなだけさ!ハッハッハッハッ!」

「いやいやいや!熱線って!熱線って何!?サイクロプスじゃないんだから!」

「富山さん、石川さんの作るものにケチつけちゃダメですよぉ。どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる!それが俺のモットーです!」千葉がニコニコしながら言う。その目は純粋な好奇心で満ちあふれていた。

「千葉くん、あなたそのモットー、そろそろ見直した方がいいわよ……」

「さぁさぁ!早速作るぞぉっ!」

 石川が手を叩くと、テントの中からゴロゴロと何かを運び出してきた。それは大きな黒いケースで、まるでスパイ映画に出てくる秘密兵器の入れ物のようだった。

 パカッとケースを開けると、中には見たこともないような機材がぎっしりと詰まっていた。

「うわぁ、これ全部持ってきてたんですか!」

「当然だろう!今回のキャンプのために事前に全部揃えておいたんだ!」

 石川が取り出したのは、小型のレーザー加工機、精密ドライバーセット、半田ごて、各種センサー、謎の基板、レンズ研磨機、そして何故か軍用っぽい暗視ゴーグルだった。

「ちょ、ちょっと待って!この機材、どこで手に入れたの!?」富山が焦った声で聞く。

「秘密のルートさ!ふっふっふ……」石川がニヤリと笑う。その笑顔は実に不気味で、まるで闇サイトで違法な取引をしている犯罪者のようだった。

「秘密のルートって!?まさか……」

「大丈夫大丈夫!全部合法だから!たぶん!」

「たぶんって何よ!!」

「さぁ、作業開始だぁっ!千葉くん、手伝ってくれ!」

「はいっ!」

 石川と千葉は早速、テーブルの上に機材を広げ始めた。富山は頭を抱えながら、チェアに深く沈み込んだ。

「はぁ……どうしてこうなった……」

 作業が始まると、石川の様子がどんどんおかしくなっていった。

「ふふ……ふふふふ……」

 レーザー加工機でフレームの形を削り出しながら、石川が不気味な笑い声を漏らす。その顔は薄暗いタープの影でより一層不気味さを増し、まるで怪しいマッドサイエンティストそのものだった。

「石川さん、なんか笑い方が怖いんですけど……」千葉が若干引きながら言う。

「ふふふ……この眼鏡が完成すれば……人類は新たな進化を遂げるのだ……」

「いや、眼鏡一つで人類は進化しませんよ!」

「見よ!このレンズの曲率!この精密な研磨!まるで神の御業!いや、私が神なのかもしれない……ふはははは!」

「石川さん、落ち着いてください!」

 石川の手元では、小型のレンズ研磨機が高速で回転していた。火花が散り、甲高い音が響く。その光景はまるで怪しげな秘密研究所のようで、富山は顔を覆って現実逃避していた。

「次はセンサーの取り付けだ!この赤外線センサー、紫外線センサー、そして……熱線発射ユニット!」

 石川が取り出したのは、親指ほどの大きさの謎のデバイスだった。赤く光る小さなLEDが、まるで悪魔の目のように不気味に輝いている。

「石川さん、それ本当に大丈夫なんですか?なんか……すごく危なそうなんですけど」

「大丈夫大丈夫!出力は調整してあるから、せいぜい焚き火に着火できるくらいの威力だよ!」

「それ普通に危険じゃないですか!!」千葉が叫ぶ。

「細かいことは気にするな!さぁ、基板に半田付けだ!」

 ジュゥゥゥという音とともに、半田の煙がもくもくと立ち上る。石川の手つきは驚くほど器用で、まるで何年もこういう作業をしてきたかのようだった。

「石川さん、もしかして本職はエンジニアとか……?」

「いや、ただのキャンプ好きだよ!でもキャンプのためなら何でも学ぶ!それが俺の信念だ!」

「その信念、方向性がおかしいですよ!」

 作業は順調に進み、日が傾き始める頃には、眼鏡の形がほぼ完成していた。

 それは一見すると普通の黒縁眼鏡だったが、よく見るとフレームの各所に小さなセンサーやLED、そして謎の突起物が取り付けられていた。レンズは不思議な虹色の光を反射し、まるでSF映画の小道具のようだった。

「完成だぁぁぁっ!!」

 石川が眼鏡を掲げると、夕日を背景にそれはキラリと輝いた。

「おぉー!すごい!本当に完成しちゃいましたね!」千葉が拍手する。

「で、でも……それ、本当に機能するの?」富山が恐る恐る聞く。

「当然だ!さぁ、早速テストだ!誰かモルモット……じゃなくて、被験者はいないか?」

 石川が周囲を見回す。その目は獲物を探す肉食獣のようで、実に危険な光を放っていた。

 その時。

「あのー、すみません」

 声がした方を見ると、キャンプ場の管理人さんが立っていた。50代くらいの穏やかそうな男性で、チェックシャツにジーンズという典型的なアウトドア好きの格好をしていた。

「何やら賑やかだなぁと思って様子を見に来たんですが……何を作ってらっしゃるんです?」

「おぉ、管理人さん!ちょうどいいところに!」

 石川の目がギラリと光る。富山が「やめなさい!」と制止しようとしたが、時既に遅し。

「実はハイテク眼鏡を開発したんですよ!よかったら試してみませんか?無料ですよ!」

「へぇ、眼鏡ですか。最近老眼が進んでねぇ……ちょっと見せてもらえます?」

「どうぞどうぞ!」

 石川が満面の笑みで眼鏡を手渡す。管理人さんは何の疑いもなく、それを受け取った。

「ちょ、ちょっと待って!それは……」富山が止めようとしたが、管理人さんは既に眼鏡をかけていた。

 瞬間。

 ピピピピッ!という電子音とともに、眼鏡のレンズが虹色に発光した。

「お、おぉ……?」

 管理人さんの表情が変わる。

 目が見開かれ、口が半開きになり、そして──

「おおおおおぉぉぉぉっ!!」

 突如、管理人さんが奇声を上げた。

「何だこれは!何だこれはぁぁぁっ!!世界が!世界が違って見えるぞぉぉぉっ!!」

 管理人さんが両手を振り回しながら跳ね回る。その動きは先ほどまでの穏やかな雰囲気とは真逆で、まるで何かの薬物でキマってしまった人のようだった。

「あの木の葉脈が見える!一枚一枚の葉っぱの細胞が見えるぞぉぉぉっ!」

「管理人さん、大丈夫ですか!?」千葉が慌てて駆け寄る。

「大丈夫?大丈夫だと!?大丈夫どころじゃないぞぉぉぉっ!これはキマるぜ!ひゃっはあああああぁぁぁっ!!」

 管理人さんの人格が完全に豹変していた。先ほどまでの温厚な表情は消え失せ、目は血走り、口角は不自然なまでに吊り上がっていた。

「うわぁぁぁ、石川さん!管理人さんがおかしくなっちゃいました!」

「これは……予想以上の効果だな!」石川が満足そうに頷く。

「満足してる場合!?」富山が叫ぶ。

「見ろぉぉぉっ!あそこに鹿がいるぞぉぉぉっ!」

 管理人さんが指差す方向を見ると、確かに林の中から野生の鹿が顔を出していた。

「赤外線モードオン!体温が見える!心臓の鼓動が見える!血流が見えるぞぉぉぉっ!」

「管理人さん、それサーモグラフィーですよ!落ち着いて!」

「落ち着く?落ち着けるかぁぁぁっ!これは人類が手にしてはいけない力だぁぁぁっ!」

 そう叫びながら、管理人さんが何かのスイッチを押した。

 瞬間、眼鏡のフレームから赤い光線が発射された。

 ビシュウウウウゥゥゥッ!

「うわぁぁぁっ!熱線だぁぁぁっ!」千葉が叫ぶ。

 熱線は鹿の横の木の幹に命中し、ジュゥゥゥッという音とともに焦げ跡を作った。鹿は慌てて逃げ出し、林の奥へと消えていった。

「すごいぞぉぉぉっ!俺は神だぁぁぁっ!」

「管理人さん、眼鏡外してください!お願いします!」富山が必死に叫ぶ。

「外す?なぜ外さなきゃいけないんだぁぁぁっ!これは最高だぁぁぁっ!」

 管理人さんが走り出す。その動きは異様に機敏で、まるで若返ったかのようだった。

「あ、危ない!追いかけるぞ!」

 石川、千葉、富山の三人は、ハイテンションになった管理人さんを追いかけ始めた。

 キャンプ場を駆け回る管理人さん。その姿はまるでターミネーターのようで、他のキャンパーたちは何事かと驚いて見ていた。

「紫外線カットモード最高だぁぁぁっ!夕日が眩しくないぞぉぉぉっ!」

「そ、それは普通のサングラスでもできますよ!」千葉が息を切らしながら叫ぶ。

 その時、事件が起きた。

 隣のサイトで、明らかにマナーの悪そうなグループがいた。大音量で音楽を流し、ゴミを散らかし、周りの迷惑を顧みない様子だった。

「おい、そこのおっさん!何走り回ってんだよ!うるせぇな!」

 その中の一人が管理人さんに向かって怒鳴った。

 管理人さんが振り向く。

 眼鏡のレンズが、怪しく光った。

「見たくないものを……消去する……」

「え?」

 ボソッと呟いた管理人さんの眼鏡が、ピピピッと電子音を鳴らした。

「おい、何だよその眼鏡……」

「貴様ら……この美しいキャンプ場を汚す愚か者たちよ……」

 管理人さんの声が低く、重くなる。まるで裁きを下す審判者のようだった。

「裁きを受けよぉぉぉっ!!」

 ビシュビシュビシュゥゥゥッ!

 眼鏡から連続で熱線が発射された。それは迷惑キャンパーたちのテントやタープを次々と狙い、あちこちに小さな焦げ跡を作っていく。

「うわぁぁぁっ!何だこれ!」

「テントに穴が!」

「逃げろぉぉぉっ!」

 迷惑キャンパーたちは荷物も置いて逃げ出した。その慌てぶりは滑稽で、まるでコメディ映画のワンシーンのようだった。

「や、やった……管理人さんが迷惑キャンパーを撃退した……」千葉が呆然と呟く。

「いや、それどころじゃないでしょ!完全に犯罪よこれ!」富山が頭を抱える。

「ふはははは!正義は勝つのだぁぁぁっ!」

 管理人さんが高笑いする。その姿はまるでヒーローのようで、周りのキャンパーたちからは拍手まで起こっていた。

「よくやった管理人さん!」

「あいつらずっと迷惑だったんだよ!」

「最高だぜ!」

「いや、みんな褒めないで!犯罪だから!これ犯罪だから!」富山が周囲に向かって叫ぶが、誰も聞いていなかった。

 その時、第二のハプニングが発生した。

「何だぁぁぁっ!?あそこに巨大な熊が!」

 管理人さんが指差す方向を見ると、確かに林の中から大きな熊が姿を現していた。体長は優に2メートルを超え、その威圧感は凄まじかった。

「うわぁぁぁっ!本物の熊だぁぁぁっ!」千葉が悲鳴を上げる。

「みんな逃げて!」富山が叫ぶ。

 周りのキャンパーたちも熊に気づき、パニックになり始めた。子供たちの泣き声が響き、大人たちは慌てて車に避難しようとする。

「ふふふ……面白い……」

 しかし、管理人さんだけは落ち着いていた。いや、落ち着いているというより、完全にハイになっていた。

「来るがいい、熊よ!この眼鏡の力、とくと見せてやろう!」

「管理人さん、危険です!逃げてください!」石川が叫ぶ。

 熊が近づいてくる。その歩みは重く、地面が振動するようだった。

 管理人さんが眼鏡に手をかける。

「スコープモード……オン!」

 ピピッという電子音とともに、眼鏡のレンズに十字線が表示された。

「距離50メートル……風速秒速2メートル……ターゲット、ロックオン!」

「いや、ロックオンって!まさか!」

 富山の予感は的中した。

「熱線……最大出力!」

 ビシュゥゥゥゥゥゥゥッ!

 これまでとは比べ物にならない太い赤い光線が、眼鏡から放たれた。それは空気を震わせながら熊に向かって一直線に飛んでいき──

 熊の足元の地面に命中した。

 ドゴォォォンッ!

 爆発音とともに、土が舞い上がる。

「ガルルルルッ!?」

 熊が驚いて立ち止まる。そして、慌てて方向転換し、林の中へと逃げていった。

「やったぁぁぁっ!熊を撃退したぞぉぉぉっ!」

 管理人さんが勝利の雄叫びを上げる。

「いや、今の絶対やりすぎでしょ!地面爆発したよ!?」千葉が叫ぶ。

「石川さん、あなた一体何を作ったのよ!?」富山が石川の胸ぐらを掴んで揺さぶる。

「い、いやぁ……まさかここまで効果があるとは……」石川が冷や汗を流しながら笑う。

 周りのキャンパーたちは、呆然と立ち尽くしていた。何が起きたのか理解できないという表情で、ただ管理人さんを見つめている。

「すごい……」

「あの眼鏡、どこで買えるの……?」

「私も欲しい……」

 そんな声が聞こえてきた。

「ダメです!これは危険すぎます!誰にも渡しちゃダメ!」富山が必死に叫ぶ。

「ふはははは!この力があれば、キャンプ場の治安は完璧だぁぁぁっ!もう迷惑キャンパーも野生動物も怖くないぞぉぉぉっ!」

 管理人さんが腰に手を当てて高笑いする。その姿はまるでスーパーヒーローのようで、夕日を背景にシルエットが映えていた。

「管理人さん、そろそろ眼鏡外しましょうよ……」千葉が恐る恐る近づく。

「何を言っているんだ!この眼鏡は最高だぞ!眼精疲労回復機能も素晴らしい!目がすっきりして、まるで20代の頃に戻ったようだ!」

「それは良い機能ですけど、でも……」

「見たくないものを消す機能も最高だ!さっき通りかかったカップルのイチャイチャが自動的にモザイクになったぞ!」

「それ余計なお世話ですよ!」

「石川くん!この眼鏡、商品化しないか!?絶対売れるぞ!」

「管理人さん、それ絶対法律に引っかかるやつです!」富山がツッコむ。

 その時、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。

「あ……」

 三人が顔を見合わせる。

「まさか……」

「また警察?」

「いや、今回は消防車っぽい音もする……」

 案の定、数分後にはキャンプ場に消防車とパトカーが到着していた。

「通報があったんですが、爆発音がしたって……」

 警察官が呆れた顔でこちらを見ている。その目には「またお前らか」という諦めの色が浮かんでいた。

「あ、あの、これは……」石川が言い訳を始めようとしたが、

「ふはははは!私がやった!私が熊を撃退したのだ!」

 管理人さんが堂々と名乗り出た。

「管理人さん!?」

「この眼鏡を見よ!これは人類の英知が生み出した最高傑作だ!」

「眼鏡……?」警察官が眉をひそめる。

 そして管理人さんの眼鏡を見て、その異様な見た目に気づいた。

「それ、何ですか?」

「ハイテク眼鏡だ!視力増強!眼精疲労回復!各種光線カット!スコープ機能!そして何より……熱線発射機能だぁぁぁっ!」

「ねっせん……?」

 警察官が困惑した顔をする。その横で消防士が、地面の焦げ跡を調べていた。

「おい、これ……レーザーか何かで焼かれた跡だぞ」

「レーザー!?」

「はい!熱線です!最大出力で発射すると、こうなるんですよ!すごいでしょう!」

 管理人さんが誇らしげに説明する。警察官の表情がどんどん険しくなっていく。

「あの……それ、銃刀法違反になりませんか?」

「えっ?」

 管理人さんの動きが止まった。

 そして、ようやく我に返ったような表情になる。

「あ、あれ……?私、今まで何を……」

「管理人さん、気づきました?」千葉がホッとした顔で言う。

「眼鏡外してみてください」富山が促す。

 管理人さんが恐る恐る眼鏡を外すと──

 ガクッと膝から崩れ落ちた。

「つ、疲れた……なんだ、あの万能感は……まるで神にでもなったかのような……」

「眼鏡の効果で、脳内物質がドバドバ出てたんでしょうね……」富山が呆れながら言う。

「で、では……あの熊を撃退したのは……」

「全部管理人さんですよ」石川がニッコリ笑って言った。

「うわああああああぁぁぁっ!!」

 管理人さんの絶叫が、キャンプ場に響き渡った。

 結局、その日は警察の事情聴取を受けることになり、眼鏡は「危険物」として押収された。熊への発砲(?)については、正当防衛ということで見逃してもらえたが、今後このような装置を作らないよう厳重注意を受けた。

 迷惑キャンパーたちは既に逃走しており、被害届は出ていなかったため、その件はお咎めなしとなった。

 そして夜。

 三人は焚き火を囲んで座っていた。

「はぁ……疲れた……」富山がコーヒーを飲みながら溜息をつく。

「でも、楽しかったですね!管理人さんのハイテンションぶり、すごかったなぁ!」千葉が目を輝かせながら言う。

「楽しかったって……あんた本当にポジティブね……」

「まぁまぁ、結果的には迷惑キャンパーも追い出せたし、熊も撃退できたし、良かったじゃないか!」石川が明るく言う。

「良くないわよ!眼鏡没収されたし、また警察沙汰になったし!」

「細かいことは気にしない気にしない!それより、次回のキャンプはもっとすごいことしようぜ!」

「もっとって……これ以上何するのよ……」富山が頭を抱える。

「ふっふっふ……実は既に次の企画を考えてあるんだ……」

 石川が懐からメモを取り出す。そこには『俺達のグレートなキャンプ231 タイムマシンを作って過去のキャンプ飯を食べよう』と書かれていた。

「絶対無理でしょそれ!!」

 富山の叫び声が、星空の下に響き渡った。

 遠くで、管理人さんの「もう一度あの眼鏡をかけたい……」という呟きが聞こえた気がした。

 そして翌日、石川たちが帰った後のキャンプ場には、妙な都市伝説が残ることとなった。

「ハイテク眼鏡をかけると、人間は神になる」

 という。

 もちろん、誰もその眞偽を確かめることはできなかった。なぜなら眼鏡は警察に押収されたまま、二度と表に出ることはなかったからだ。

 ただ、後日談として──

 押収された眼鏡を調べた警察の科学捜査班が、「これは一体どうやって作ったのか」と頭を抱え、石川を「天才なのか狂人なのか」と評したという噂が流れた。

 そして石川のもとには、某国の軍事機関から「研究員として来ないか」というスカウトメールが届いたとか、届かなかったとか。

 もちろん石川は、そのメールを「怪しいから」という理由で削除し、次の「グレートなキャンプ」の準備に取りかかったのだった。

 こうして、石川たちの奇抜なキャンプ第230回は幕を閉じた。

 次回、「俺達のグレートなキャンプ231 タイムマシンを作って過去のキャンプ飯を食べよう」にご期待ください。

 って、タイムマシンって作れるの!?

 ──つづく(かもしれない)

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『俺達のグレートなキャンプ230 ハイテクすぎる眼鏡を開発しよう』 海山純平 @umiyama117

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