魔法適性ゼロの落ちこぼれ、実は世界の魔法をデバッグできる規格外だった ~名を捨てた少年はゴミ箱クラスから理を書き換える〜
天代皋ゆかり
第1話:名を捨てた日
十二歳の誕生日。自分が落ちこぼれだと理解した。
その日を迎えるまで、誰も僕を落ちこぼれだとは言わなかった。
一歳になる前から言葉を話せた。
読み書きを覚えたのも二歳にも満たない頃だった。
三歳から始めた身体鍛錬は一日も欠かさず――今日に至るまで、十二年間、死に物狂いで研鑽を積んできた。
何をやっても優れていたし、他の子よりも成長するのが早かったから、誰もが僕を天才児だと疑わない。
だがそれは、僕が『この家』の長男として生まれたからこその、期待交じりの幻想だったのかも知れない。
僕の家は、遥か昔に勃発した『魔法大戦』で成り上がった平民の家で、当時の王はその時の功績を認め、『ラヴステラーク家』を貴族の一員として迎え入れたんだ。
それ故に、大戦時に成り上がった家系として魔法適性は絶対的な意味を持つ。
代々この血が流れる者は皆、複数の魔法適性を持って生まれてくる奇跡のような家柄で、現に三つ年上の姉は、四種類もの扱える天才魔術師だった。
優秀で、替えの効かない魔術師の家系。
それが世間の印象で、僕自身にもその血が流れているのだと信じて――自分に言い聞かせてた。
この世界では、血液を用いた鑑定で幼少期に魔法適性が判明する。本来なら属性に応じた光を放つはずの水晶は、僕が何度血を捧げても、ただの一度も反応を示すことはなかった。
……それでも、諦めきれなかった。
一般的に十二歳までに魔法が発現しなかった場合、その後に適性を得る確率は万に一つもないと言われている。
そして今日、その『期限』を迎えてしまった。
僕らの住まう世界――アルカディアでは、魔法が無ければこの地を生き抜くことは困難で、魔獣と呼ばれる化外は、普通の人間が太刀打ちすることなどまず不可能。
だから神は人々に魔法を授けた。
――が、その神さえもミスをする。
これら【魔法】という全ての根幹となるシステムは、複雑に組まれ、複雑な術式であるからこそ、綴られた世界の理に幾許かの書き損じが生じてしまう。
その証明が、僕のような『欠陥品』だと言われてた。
魔法が使えないということは、この世界では人権が無いと言っても過言ではない。神に拒絶された存在として蔑まれて当然だ。
ただそんな僕にも、皮肉なほど誇れる特異体質が一つだけあった。魔法は扱えないくせに、魔力の保有量だけが桁違いに多いらしい。
魔法適性の水晶が反応を示すことはなかったが、魔力測定用の水晶は粉砕した。
そりゃあ勿論、僕自身も期待する。
両親だって最後の最後まで奇跡を期待してくれていた。
――けれど、結局何も起きなかった。
同時に都合が良かった。
十二歳になれば全寮制の魔術学院への入学資格が得られる。本当の意味で落ちこぼれだと判明した僕にはもう――期待の目は向けられない。
けれど両親たちの態度は変わらなかった。
偉大な父は僕のことを「大事な息子」だと言ってくれて、母も「辛くなったら、いつでも帰ってきなさい」と優しい声で抱きしめてくれる。
それに卒業まで、学院に通うための費用は工面すると、笑顔で言ってくれた二人を、僕は心から愛している。
――だからこそ、これ以上の泥を塗るわけにはいかない。
貴族社会において、家名というのは重要な意味を持つ。
魔術学院は平民、貴族、王族といった様々な身分の生徒が在籍し、共同生活を送る場所。
当然、そこでも家名というのはそれなりの意味を宿していた。
由緒正しき血統を誇る貴族の令息や、高名な魔術師の令嬢たちが、その家名の威光を背負って競い合う。
そんな名門の系譜がひしめく社会の縮図において、魔法さえ使えない僕が『ラヴステラーク』を名乗るなど、あまりに分不相応でおこがましい。
だから僕は、名前を偽ることした。
愛すべき二人から与えられた名前を穢さぬように――僕はこれから、ただの平民として生きていく。
家を出る日、見送りは最小限にしてもらった。
元々は姉さんの時と同じように、盛大に祝うつもりだった両親を説得し、「絶対にやめてくれ」と頼み込んだ。
僕のために時間を使わせたくなかったから。
だけど両親と、幼い頃から世話を焼いてくれたメイドのシエルにだけは……少しだけ、甘えたっていいよね……。
「――じゃあ、行ってきます」
三人に別れの挨拶を告げ、御者に発進の合図を送る。
ゆっくりと、しかし確実に馬車は動き出し、大好きだった屋敷の門が視界の端へと遠ざかっていく。
窓から身を乗り出し、小さくなっていく三人の姿を必死に目に焼き付けた。
――その時だった。
「「「――ラヴィリオ様!! 行ってらっしゃいませ!!」」」
屋敷の門から、十数人もの従者たちが一斉に飛び出してきて、彼らは手に旗や布を振り、喉が張り裂けんばかりの声で、僕の名前を叫んでいた。
「っ……!」
胸の奥が焼けるように熱くなる。
魔法が使えない僕を、彼らは一度だって蔑まなかった。ただの一度も、不浄なものを見るような目を向けなかった。
ああ、やっぱり僕は――この上なく幸せ者だ。
彼らがくれた慈しみは、この世界のどんな残酷な理よりも温かい。
僕は振り返り、こぼれ落ちる涙を拭いもせず、遠ざかる家族と仲間たちへ向けて、ありったけの声で叫び返す。
「……行ってきます!!」
視界が涙で滲み、やがて愛すべき屋敷の姿は見えなくなった。
……涙を、拭う。
座席に深く座り直し、強く拳を握りしめた。
いつか、胸を張ってあの場所へ帰るために。
愛する人たちがくれた『ラヴィリオ』という名を、落ちこぼれの代名詞として歴史に刻ませないために。
明日からは誰も知らない、何者でもない。
ただの『ラビ』として生きていくことを、改めて僕は今日この日、胸に誓った。
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