その音は

野崎しいな

第1話

「続いてのニュースです。今月に入ってから五件、旭駅近辺で空き巣が頻発しています」


 それは私の住むアパートの最寄り駅の名前だった。


 ふと、机に向かい南国の生き物達を描いていた手を止める。宮古島にあるリゾートホテルの館内やホームページに起用する、デザインコンペに応募する作品を制作していたのだ。

 椅子に座ったまま上体をテレビに向け、男性アナウンサーの落ち着いた声音に耳を傾けた。

「犯人は日中でも鍵が開いている家に侵入し、物品を持ち去っており、在宅中でも戸締まりをするなどの警戒が必要です」

 田舎育ちの私には身に刺さる言葉だった。

 なぜなら私は一階の部屋なのにもかかわらず、窓を開けたまま昼寝をすることがあるからだ。

 ――たぶん、この犯人に狙われてる。

 私は静かに椅子から立ち上がると、玄関のドアの施錠を確認した。


 あれは五日前のこと。

 深夜二時になると玄関の方からカチャカチャと、ドアノブを回す音と同時に、鍵穴をこじ開けようとしているかのような金属音が部屋の静寂を破った。

 人の気配と不規則な金属音で目を覚ました私は、瞬時に身を起こし玄関のドアへと走る。


 ――泥棒?

 ――寝る前にチェーンロックは掛けた?


 寝ぼけ頭はフル回転だ。だが1Kの部屋だと思い出すよりも先に玄関にたどり着く。


 ――ロックは掛かっている。


 私の立てた物音のせいだろうか、確認できた時にはドアノブがゆっくりと逆回転し、元の位置に戻りだしていた。

 私はその様子をバクバク鳴る激しい動悸の中、息を殺し見つめる。


 ――大丈夫、ちゃんと鍵も閉めてある。絶対入ってこれない。


 手を胸の前で握り自分を宥めるように、大丈夫、大丈夫と繰り返し心の中で唱える。

 経過した時間はわからない。しばらくその場で立ち尽くしていたが、恐る恐るドアスコープを覗いてみた。


 ――誰もいない……いや、まだいる。


 恐怖のあまりにそう感じるのか、どうしても外に人がいる気がしてならない。

 息を殺したままゆっくりと後ずさり、部屋へと戻る。枕元に置いてあるスマホを手に取り、充電ケーブルを抜くと内緒話でもするかのように声を抑えて警察に電話をした。

「事件ですか?事故ですか?」

 警官のその問いかけに私は戸惑いながら「事件です」という返答をしたのをハッキリと覚えている。

 まだ外に人がいる気がするのだ、自分でドアを開けて確認する勇気なんてありはしない。しかし、このまま部屋でじっとしているのも怖かった。

 駆けつけた頼もしい男性警官二人に、家の前と周辺に不審者がいないことを確認してもらいその日を凌ぐ。

「なにか異変を感じたら迷わず連絡して下さい」警官の一人がそう言葉を残して去って行った。


 この日を境に同じようなことが毎晩続いた。

 二日目以降から深夜二時頃には警官が巡回してくれることになる。

 私の虚言だと疑われなかったのは鍵穴にひっかき傷が確かにあり、日に日に増えていっているように見えたことと、近辺で不審者情報があるためだった。

 親友の理恵にこのことを話すと「怖くてどうしようもなかったら言って! 私、舞の家にお泊まりするから」と手を握り、心強い言葉を返してくれた。

 できることなら犯人が捕まるまでの間、私が理恵の家に泊まりたい。しかし、実家住みの理恵の家に泊まることは不可能なのだ。


 ニュースを見終えた私は、再び机に向かい制作作業に取りかかる。この作業をしている間は気が紛れていい。


 ――今日、犯人は来るだろうか。

 

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