第2章 甲子園予選 第1戦目 三重異能戦
第11話 三重異能戦 直前
三重異能戦当日。試合開始30分前
「ユイ。女子の方のまとめを頼む」
ナナシがそういうと男子のトレーニングルームに向かう
「これから足柄と星崎に話してくる」
「わかりました。伝えておくことはありますか?」
「ないな。ただ、少しでも体調に変化があればすぐ伝えてくれ」
「了解です」
(生理とかは……キャプテン、さすがに聞けないもんね)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「星崎、足柄。いるか?」
「「はい」」
二人の声が揃う。
「悪いが、二人は控えに回ってもらう」
一瞬、空気が張り詰める。
「後半、必ず出番は来る。星崎は外野かキャッチャーか分からんが、準備は怠るな」
「「はい」」
「じゃあ、先にミーティングルームへ行ってくれ」
「わかりました」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「みんないる?」
ユイが声をかける。
「いますよ~」
アリスが軽く手を上げる。
「「ここに~」」
神無月姉妹も揃って返事。
「調子は?」
(……緊張はしてるけど、まだピリッとはしてない)
「絶好調です」
「二遊間でしたら、いつでもいけます」
「了解」
ユイは一度、全員の顔を見渡してから、静かに言った。
「先に言っておくね。今日は――一つのエラーで、甲子園が消える試合」
空気が変わる。
「相手は甲子園常連校。必要以上に大きく見るつもりはない。でもね」
一拍。
「凡ミスは、一生心に残る傷になる。覚悟して、グラウンドに立って」
三人の表情が引き締まった。
「じゃあ、ミーティングルームへ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「痛っ! だからいてぇって!!」
鬼頭が痛みを嘆くが、トオルは容赦しない。
「こうしないと柔軟にならないだろ」
「柔軟して、何になるんだよ!」
「無理なゴロからの捕球、送球。変化球への対応――」
「そうじゃねぇ! 日常生活にだ! いってぇ!」
隣で伊吹とショウタが柔軟しているが、うるさくクレームが入った。
「……何してんの?」
ショウタが呆れた声を出す。
「柔軟」
「SMプレイにしか見えないけど」
「堅いなら仕方ないよ」
伊吹が言った。
「ショウタ、こっちはこっちでやろう」
「はい」
ショウタは自然に、しなやかに体を伸ばしていく。
「伊吹さん、ヨゾラ押すの代わってください」
「オッケー。ショウタ、一人で大丈夫?」
「大丈夫です」
トオルとショウタは別スペースで、黙々と柔軟を再開する。
「師匠……優しくしてくださいよ」
「それはできないな」
「なんでですか!? 日常生活に役に――」
「立つよ」
「!?」
「柔らかいとね。いろんな体勢を試せて楽しい」
その時鬼頭に電流が走る。
様々な女性との絡み、これから想像できる煩悩を糧に、鬼頭に気合が入る。
「……わかりました。これから柔軟、怠りません」
「相変わらず、不思議な関係だよね」
ショウタが苦笑する。
「欲に忠実なだけだろ」
ナナシがトレーニングルームに入り、集合の合図を送る。
緊張感のなさにやれやれと思うが、いつも通りという感じでもある。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「全員揃ったな」
ナナシがミーティングルームで前に立つ。
「スタメンは試合前に発表する。その前に確認と敵の情報整理だ。体調に問題がある奴は挙手」
沈黙。
「全員大丈夫だな」
「先発はトオル。必要なら叢雲がリリーフ」
アリスが静かにうなずく。
「理想は完封だが、流れ次第だ」
「問題は守備での1・3・4番」
ナナシはホワイトボードを指す。
「1番はカットイン系異能。一瞬止めて、軌道を読む。だが、トオルとの相性は悪くない」
「3番、キャッチャー。テレパス系だ」
トオルを見る。
「実際、どうだった?」
「先読みされてる感じはありました」
正直な感想。
「でも、分かっていれば何とかなると思います」
「叢雲とユイなら対応できるだろう。上位打線は任せる」
そして――
「4番、木村」
場の空気が一段重くなる。
「日本代表クラス。守備・投手・打者、全て一流。異能は巨大化」
「明確な敬遠じゃなく、申告敬遠で封殺する。今のお前たちなら、勝負すれば6割で打たれる」
一拍。
「異能を使われれば――10割だ」
春の甲子園でみたバットを巨大化させる異能。
はっきり言えば、コースをずらすだけでは打たれる。
チェンジアップなどの緩急系で空振りを取るしかないが、どうしてもアリスは癖が抜けず、これから変化球を投げますよとなってしまう。
その場合、今まで甲子園で戦った斎藤であれば、緩急系のボールとすぐばれる。
それでは勝てない。打ち取れない。三振を取れない。
だから、この策には2人とも同意できた。
「はい」
「はい」
「投手は神成と木村の二枚看板。どちらが来るかは不明だが、どちらも右の本格派」
「木村は落ちる系。神成は変化球が多いが、守備はやや劣る」
「……ウチは、何点取れますか?」
トオルが聞く。
「よくて2点」
即答だった。
「守備系異能が多い。ビッグイニングはまず無理。上振れすればそれ以上もあるが――」
「完封される可能性もある」
「……なら」
トオルは静かに言った。
「おれが、0に抑えればいいだけですね」
誰も笑わなかった。
それが、このチームの答えだった。
「スタメンを発表する!」
ナナシの声が球場全体に響き渡る。選手たちは円陣を組み、肩を並べる。
緊張で肩をすくめるアリス、ニヤニヤと笑う鬼頭、深呼吸をするユイ――新チームになって初めての公式戦。それも相手は全国屈指の強豪、三重異能高校。
この三か月、誰も異能には頼らず、ただ野球を突き詰めてきた。その成果をぶつけるには、これ以上ない舞台だ。
「一番キャッチャー、ぼく。二番センター雫石」
「はい!」
ナナシがマスクをかぶる。それだけで、トオルの胸は熱くなった。
身体に自然と力が入り、心が沸き立つ。
「三番ピッチャー、熊無!」
「はい!」
つい勢い余って大声になると、周囲が少しざわついたが、ナナシは構わず淡々と読み上げていく。
「四番ライト叢雲」
「……はい」
動揺しつつも、アリスはぎゅっと拳を握り、笑みを浮かべる。
「五番ファースト鬼頭」
「ちーっす」
「六番サード服部」
「お任せください」
「七番レフト中村」
「今日は下位打線か。思い切ったね」
「八番セカンド、九番ショートは神無月姉妹」
「「はい!」」
「相手は三重異能。ミーティング通り、先制点を取って主導権を握る。そのための上位打線だ」
全員がうなずく。
「後半、足柄と星崎の出番が必ず来る。星崎は外野かキャッチャーか分からんが、準備は怠るな」
緊張気味の一年生たちも、静かにうなずく。
甲子園予選とはいえ、相手は甲子園常連校。ネット中継も複数社が入っている。誰ひとりとして、平常心でいられるわけがない。
「絶対勝つぞ!」
「おお!!」
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