第8話 エース争い 万能の天才VS野球の天才
「背番号をかけた勝負って……」
ナナシが帽子のつばを指で押さえながら言った。
トオル自身バカなことをしている自覚はある。
「絶対、ケガすんなよ」
「わかってますよ」
トオルは軽くうなずく。
「受けてくれてありがとうございます、先輩」
アリスが一礼する。
「俺も今の実力を知りたい。それに練習試合もしてないだろ。緊張感の中で、自分の投球ができるか確かめたい」
「……だから、4月にワタシとの勝負を断ったんですね」
「ああ」
トオルは周囲を一度見回した。
「全員が見てる。だからこそ、結果に納得できる。それに――三重異能戦に投げる投手を決める。一番大事だ」
「みんなが納得するなら、どんな形でも」
アリスは静かに言った。
「ルールはどうしますか?」
「サドンデスだ」
ナナシが即答する。
「常に2アウト満塁を繰り返す。一球の重さを知るには、ちょうどいい」
「わかりました」
「オッケーです。守備は全員ホログラムですか?」
「入れたいメンバーがいれば自由。ただし、打撃は二人だけだ」
「星崎を入れます。先輩は?」
「おれはいい」
「先手後手は?」
(プレッシャー的には後攻が有利……最初にアウトを取れれば、次はヒットでいい)
「アリスが決めていい。それくらいはハンデだ」
「じゃあ、後攻で」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
トオルの投手練習中。
「叢雲、ちょっといいか?」
星崎が声をかける。防具を身に着け、いつでも守備の準備が出来ている。
それはそれで少しむかつく。
「なに?」
「多分、初球はアウトコースのボール球。それと、インコースのボール球は絶対に来ない」
「理由は?」
「トオルさんはケガをさせない。危険球は投げない人だ」
「……なるほど」
(さすが相棒。なら――)
(腕を伸ばす異能? いや、動体視力を強化して踏み込む方がいい)
「リード、頼むよ」
「任せろ」
「やっぱり星崎って……」
「ん? なにかあった?」
「なんでもない」
打席に向かいながら、アリスは言った。
「芸術家より、野球の方が向いてると思って」
星崎が目を見開く。
(叢雲が人を認めるなんて、そうないぞ……)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――初球。
アウトコース。ボール球だが、関係なく打ち込む。
「……星崎の言う通り」
流し打ち。
きれいに三遊間を抜け、レフト前に落ちる。
「マジか。初球から来るか」
トオルは小さく笑う。
(打席前に星崎と話してたな……厄介だ)
二打席目。
高めのボール球。
続いてインコースのストレート。
アウトコースのボール球――空振り。
「……少し遊ぶか」
トオルは指を立てた。
(変化球、何か来る?)
(中指と人差し指で挟んで……けど、装置のせいでストレートになるはず)
だが、実際のボールは違う。
「無回転……?」
次の瞬間、ボールが落ちた
空振り。
「フォーク……!」
「どうだ」
トオルが言う。
「アメリカから輸入した海外製ボール。これならおれでも変化球が投げられる」
「それ、卑怯じゃ……」
(違う。三重異能・斎藤の決め球はフォーク。それを見越して、実戦で……)
「よく思いついたな」
ナナシが腕を組む。
「試合では投げられんが、打つ側の準備になる」
「あー、まあ。ちょっとした遊びとフォーク対策っす」
「……わかった」
ナナシがアリスを見る。すでにバットを置き、守備の準備を始めた。
「結果に納得は――」
すでにアリスはマウンドに向かう姿を確認すると、ナナシはつぶやく。
「聞く必要ないな」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アリスの投球練習。
(どうして俺は、あそこに立ってない)
足柄は歯を食いしばる。
(スバルはバッテリーを組んでるのに……いつの間に、抜かれた)
「悔しい?」
伊吹が声をかけた。
「……めっちゃ悔しいです。顔に出てます?」
「出てる」
伊吹は即答した。
「でも、エースがどっちでも、俺たちの役割は変わらない。守備と攻撃だ。冷静に」
「……少し落ち着きました。バックネット際の処理、練習お願いします」
「了解」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「今日は右なんだ」
両利きのアリスは打者によって利き腕を選べる。一般的に打者と同じ利き腕のほうが投手有利になりやすい。
理由は単純で、逃げる変化球で空振りを取りやすいからだ。
(ストレートも変化球も悪くない)
星崎は冷静に観察する。
(特にカーブの落ちがいい。先輩にもバレてるな……)
トオル、打席へ。
(立ち位置は普通。初球は――インハイのストレート)
ボール。
(動じない……)
(次はアウトコースにスライダー)
ファースト線に切れ、ファール。
(1-1。次はアウトハイのストレート)
見逃し。
(余裕を持って……? 狙いは変化球? いや――)
(魔球狙いか!!)
歓迎試合で打たれたフォークが脳裏をよぎる。
(なら――)
(内角低めのカーブ、その後に球速の出る魔球で――)
だが。
カーブはレフト線へ。
(切れる……!)
(いや、体が開いてない……ギリギリで落ちる)
「これは、完敗かな……」
強烈な変化をするボールだったが、それだけでは足りなかった。
白球は、レフト線に落ちツーベース。
ランナーは3人帰り3-2で叢雲アリスの負けが決まった。
試合終了。けれど、きっとこの悔しさは公式戦でいかせる。
結果的に身のしまったいい練習になった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「完敗です」
星崎が帽子を取る。
「狙いは変化球でしたよね」
「来た球を、素直に打っただけだ」
「……そうですか」
(高校レベルじゃない……)
「叢雲、悪い」
星崎が言う。
「もっと外すべきだった。次のストレートで仕留める予定だった」
「いいよ」
アリスは首を振る。
「ワタシなら、最初にカーブ投げて打たれてたから」
「……納得したなら、それでいい」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「これでエースは決まったな」
ナナシが宣言する。
「じゃあ、これからフォーク打ちの練習だ」
「トオル」
ナナシが続けた。
「さっきのボールの軌道をホログラムに学習させた。好きなだけ打て」
「了解しました」
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