マジックアイテム売りは必ず勇者の前に現れる

ロヒ

《始まりの町》

「初めまして勇者!魔王を倒しに行くんだろ?旅の前にウチでお買い物はどうかな?」


初めましては軽快に。マジックアイテム全盛のこのご時世に、マジックアイテム売りは見栄え重視の、ガラクタが覗く巨大なリュックサックを横に置いてこう言った。

彼の前には多様な商品が置いてある。


「私は勇者ウィンドル。初めましてね」


正面にいるのは、数多くいる勇者一行の中の1パーティ。真面目そうな勇者に大人な魔法使い。体格のいい戦士になぜか遊び人。

何で遊び人。誰だチョイスしたの。


「どーも。大陸任命、正規のマジックアイテム売りさ。それ以外も売ってるけどね」


マジックアイテム売り———もしくは旅の商人の名は“タカラ・ミササギ”。漢字で書くと御陵宝。何を隠そう転生者だった。


ちょっと女神が融通を効かせてくれれば勇者になれたかもしれない転生者だったが、ミササギにはそれほどの悲壮感はなかった。

一般市民は富は欲しいが、地位と名誉はそれほど興味を惹かれないものなのだ。富は欲しいが。富さえあればいいが。


そんなこんなで今に至る。


「…意外と安いのね」


勇者ウィンドルが商品を眺めていると、珍しい少年戦士がこちらに突っかかってきた。


「ウィンドル!やめておけ。こんな怪しい奴から買うのは」

「ちょっと聞き捨てならないなー!僕の商品はなんかすごいんだよ!」


有名らしい老人、金持ちの貴族、裏社会の住人———色々なところでわらしべ長者してきた品々だからだ。実際の価値は知らない。簡単な説明しか聞いていなかったが、なんかすごい品しか交換していない。


「見ろ、コイツの身なりを。全てにおいてボロいぞ。こんな奴の売る質なんて高が知れている。靴底がここまでベリベリなのは初めて見た!」

「やめなさいゴヴァ。それは個性よ」

「個性じゃなくてお洒落ね」


と言いながらもミササギはこっそり靴の裏を見た。

アンティークが好きなのでボロい物をよく身に付けているが、靴底がベリベリの話は知らない。ベリベリした覚えはない。でもベリベリだ。

そっとブランケットをかけて隠す。


「ゴヴァ、そんなこと言ってないでちょっとぐらい見ましょうよ。この盾とかカッコいいわよ」


うん。魔法使いらしい。


「え!ほんとだ…!じゃなくて」


少年戦士の年相応な部分が出てきたね。よきかな。


「いや、陛下から早く魔王を倒して来いって言われてるじゃないですか。早く行きましょう」


なぜお前が1番やる気あるんだ遊び人。


「ごめんなさい。騒がしくて。貴方にも無礼な物言いをしてしまったかしら?」

「愉快で結構。旅は楽しくてナンボだからね」

「何かオススメの商品はあるかしら」

「傷薬は定番だけど、見たところお前らの装備は整っているからね。うーん、これなんかはどうだろう」


リュックの小さなポケットから、金属製の針を取り出した。


「…ただの針にしか見えないけど」

「マジックアイテムだよ。“防御貫通のダメージが与えられる針”」

「すごい!防御貫通の武器なんて少ないのに…ダメージってどれぐらいなのかしら」

「針を刺した程度のチクっとした痛みが走るよ」


この針は売れ残り品だ。しかし売っているのには訳がある。


「武器じゃなくてお守りとして売っているんだ。この針は幸運の針でね、何度も持ち主を助けている。針が転がった方向に探し物があったとか、強盗が触って逃げる隙ができたとかね!」

「そう?じゃあ記念に買っておくわ」


勇者ウィンドルはそんな根も葉も怪しい話を聞いて笑った。そして予想していた通り買って行った。

知っている。旅の始まりはくだらない物を買いたくなるものなのだ。


「まいどありー」

「みんな、行くわよ。魔王を倒しに!」


《始まりの町》から出ていく4人の姿を見て、いつもとは違う声がけをした。


「大丈夫!お前らは絶対魔王に勝てるよ」

「ええ、ありがとう。必ず勝つわ、商人さん!」


勇者の顔は眩しい。金稼ぎも好きだが、やはり一番のやりがいはこうやって人の手助けをすることだろう。


針は売れ残り品だがそれはそれだ。

在庫処理のつもりはない。


◾️


「おっ、ミササギ!どうだい、今回出発した勇者は。勝てそうかな」


勇者と分かれてから数時間後、同業者に声をかけられた。


「勝てるだろうねー」


だって勇者、強いで有名な王族だったもん。

他の奴らは知らないが、確実に姫様だもんね。

なんか1000年に1度の逸材らしいじゃん?


「まー姫様にしては、良いお心をお持ちのようだけど……とりあえず靴買い替えるか…」

「あ、わざとじゃなかったのか」

「…」


5年間連れ添ってきたこのボロリュックに誓って断言する。

あいつらに商人の助けは要らない。勝手に進んで勝手に魔族を滅ぼすだろう。姫以外の身元は知らないが、どうせ腕の立つ護衛だ。ポーションがなくても、アイテムがなくても、武具を買い揃えなくったって平気だ。実家が太いのだから。


「なんでわざわざ勇者って体にしたのか気になるけど…いいか。別の客を探さなきゃね!」


ガチャガチャと音を鳴らすリュック。吟遊詩人のような羽付きの帽子。様々な魔術が仕込まれているローブ。


彼は転生してから5年目のベテラン転生者。そしてベテラン商人だ。勇者に憧れはあったが、何せスキルが金稼ぎに向いていた。


何かしらの物を持って【顧客探し】のスキルを使う。そうすると、その物を欲している人のところへ移動する。それをどんどん繰り返して手に入れた商品達を売っている。


ミササギに商売の才能は全く無いが、それを欲している人の元へ移動するスキルで人に売ることは容易い。


「【顧客探し】」


今日もマジックアイテム売りは顧客の元へと足を運ぶ。スキルとは大変便利だ。移動系は楽さが分かりやすい。


「…よし着いた今回の顧客は———」


まず最初に来たのは驚きだった。


「このウルフ全然懐かない…」


ここは《最初の森》。凶暴なウルフが大量にいる、初めての冒険の地にしては中々トラウマになりやすい場所として有名だ。

驚きなのはその凶暴なウルフがとある人物に向かって平伏していたこと。


その人物は勇者ウィンドルだった。

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