第8話「建国宣言と森の亜人たち」

 公爵家私兵団との戦いに勝利した翌日、森はかつてない活気に包まれていた。

 朝霧が晴れていくにつれ、俺たちの拠点の周りには、森の住人たちが次々と姿を現し始めていたのだ。


 彼らは戦いの様子を遠巻きに見ていたのだろう。

 木の陰から、岩の裏から、恐る恐る、しかし期待に満ちた瞳でこちらを伺っている。

 その中には、シルヴィアと同族のエルフたち、ガルドと同族のドワーフたち、さらには小柄で毛深い獣人の姿まであった。


「フェン……これ、どういうことかしら?」


 リアが困惑した表情で俺を見る。

 俺はのんびりとあくびをし、尻尾を一振りしてから「わふ(ファンクラブ結成だな)」と答えた。


 実際には、強力な庇護者を求めて集まってきた難民のようなものだろう。

 この森は魔物が多く危険だ。

 しかし、人間社会からはじき出された亜人たちにとって、他に行き場はない。

 そんな彼らにとって、公爵家の兵士を撃退し、結界と食料と温泉を持つ俺たちの拠点は、まさに楽園に見えたに違いない。


 一人の長老格らしいエルフが進み出て、リアの前に膝をついた。


「森を脅かす人間たちを追い払ってくださったこと、感謝いたします。我らは安住の地を求め彷徨う者。もし許されるなら、貴方様の庇護の下、共に暮らさせてはいただけないでしょうか」


 リアは俺を見た。

 俺は即座に「わん!(許可!)」と吠えた。

 労働力はいくらあってもいい。

 それに、彼らを受け入れることは、国としての体裁を整える上で重要なステップだ。


 リアは優しく微笑み、長老の手を取った。


「顔を上げてください。私はリア。この子はフェン。私たちも追放された身です。共にこの森を開拓し、誰もが平和に暮らせる場所を作りましょう」


 その瞬間、森中に歓声が響き渡った。

 新たなウィンドウが俺の視界にポップアップする。


【クエスト発生:人口増加に伴うインフラ整備と、組織化を行え】

【報酬:領地管理システム解放、通信魔法具、調味料セット(極上)】


 やはり来たか。

 ここからは、単なるサバイバルではなく、本格的な街づくりシミュレーションだ。


 俺はガルドを呼び出し、都市計画の立案に入った。

 地面に爪で図面を描く。

 中央広場を囲むように居住区を配置し、風向きを考慮して工房エリアを離す。

 上下水道の整備は必須だ。

 近くの川から水を引き込み、生活排水はスライム(最近リアがテイムした浄化用スライムだ)を利用した浄化槽へ送るシステムを提案した。


「お前……本当に犬か? 頭の中どうなってんだ?」


 ガルドが呆れつつも、職人魂に火がついたようで、目を輝かせて図面を覗き込む。


「だが、こいつはすげぇ。合理的で無駄がねぇ。よし、ドワーフの仲間たちを集めて、すぐに取り掛かるぞ!」


 エルフたちは農業と狩猟、そして森林管理を担当することになった。

 獣人たちはその身体能力を活かし、運搬や警備を担う。

 それぞれの種族が得意分野を担当することで、開拓のスピードは爆発的に上がった。


 数週間後、そこには「村」と呼ぶには立派すぎる街並みが誕生していた。

 木の温もりと石の堅牢さを兼ね備えた家々が整然と並び、石畳の道が整備されている。

 夜になれば、マナを動力源とした街灯が温かな光を放つ。

 俺は完成した中央広場の噴水(リアの水魔法による永久機関だ)の前で、満足げに昼寝をしていた。


 そこへ、リアが駆け寄ってくる。


「フェン! 大変、みんなが広場に集まってきて……『宣言』をしてほしいって」


 そうか、けじめをつける時が来たか。

 俺は起き上がり、身震いをして気合を入れた。

 リアのドレスの裾をくわえ、広場に設けられた演台へと誘導する。


 数百人の亜人たちが、リアを見上げていた。

 その視線には、崇拝に近い信頼が宿っている。

 リアは深呼吸をし、俺の頭に手を置いて勇気を貰うと、高らかに声を上げた。


「今日、ここに新たな国の設立を宣言します! 種族を問わず、誰もが手を取り合い、笑って暮らせる国。その名は……」


 リアは少し悩み、俺を見た。

 俺は尻尾を振って「わふっ」と答える。


「……『フェンリル王国』。偉大なる守護獣の名を冠し、この森を永遠の安息地とすることを誓います!」


 うぉい!

 俺の名前かよ!

 照れるじゃないか。

 だが、民衆からは割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。


「フェンリル王国万歳! 女王リア万歳!」


 どうやら定着してしまったらしい。

 俺は苦笑しつつも、誇らしげに胸を張った。


【クエスト達成!】

【報酬を獲得しました】

【称号『建国の守護獣』を獲得しました】

【リアの職業が『女王』にクラスチェンジしました】


 リアの体がまばゆい光に包まれる。

 彼女の纏う空気が、優しさだけでなく、威厳とカリスマ性を帯びたものへと変化した。

 これで第一段階クリアだ。


 だが、国を作れば、当然ながら外交と経済の問題が発生する。

 森の奥で自給自足しているだけでは、いずれ限界が来る。

 特に、金属製品や紙、衣類などの物資は不足している。

 俺は次なる一手を考えていた。

 この国の特産品を作り、外貨を稼ぐのだ。

 リアの魔法で育てた野菜、ドワーフの武具、エルフの薬、そして……この極上の温泉。

 これらを武器に、商売を始める時が来た。


 ***


【現在のステータス】

 フェン

 種族:フェンリル・ロード(成長期)

 レベル:25

 スキル:守護獣の神託、領地管理、念話(契約者限定)、暴食


 リア

 職業:フェンリル王国・女王

 レベル:18

 スキル:全属性魔法(極)、カリスマ統率、精霊召喚、ゴーレム使役

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