カマルマン(QMARMAN)

@SHOZO1021

第1回 壊獣

2066年7月17日19:00

世界中の天体観測所で月からの激しい重力波を観測した。これを期に日本で月から異常な大きさの生物、「特異大型生物」が月より降り立つ事が頻繁に起こるようになり、政府はこの事案を災害として兵器などを使用し、対処することが急がれていた。

この特異大型生物は通常兵器を多く消費すれば駆除が可能である一方、問題となったのは、その死骸による感染症の蔓延と、これによる防衛費増額である。

SNSではこの「特異大型生物」を「日常を壊す物」としてもともと日本に言葉としてあった「怪獣」を組み合わせて、「壊獣」と呼称されるようになり、地震、津波、台風などの自然災害と並び親しまれるようになった。

その頃から月では度々80m級の人型の生命体の影が観測されるようになり、国連はこれを極秘事項として対応する方針をとっていた。


2071年4月2日

—おい、早く逃げろ‼

奈々原都奈々原市にて壊獣の上陸事案発生。

人々は最初の上陸から急ピッチで整備された懐獣用シェルター(壊獣上陸を前提に設計された地下避難施設)へと避難する。


-同時刻、日本国会-


「大臣、当該地区の住民の避難、完了いたしました。登録住民300万人、観光客5000人、逃げ遅れは現時点で確認されていません。」


「あぁ、報告ご苦労。あとの対処は防衛省に引き継ぐ。」


俺は秋山俊樹、懐獣事案で新しく設立された特異巨大生物国民安全保障庁(略称:特巨庁)の大臣を務めている。とは言うものの、実質防衛省の下請けであり、我々は防衛省に逆らえない通称落ちこぼれ省庁なのだが。

「では黒田進防衛大臣、この引継ぎ書にサインを。自衛隊出動等の壊獣の上陸マニュアルに沿った適切な対処をお願いします。」


「了解。ご苦労さん。こちらも既に第1種特異大型生物災害対策要領に則て対処を進めてる。既に海上自衛隊は近郊の奈々原湾にてイージス護衛艦によるミサイル準備完了、陸自も10式戦車による壊獣戦用意完了だ。」


「いつも通り、準備が早いですね。」


「あぁ、壊獣が月から上陸する特性上、予測できるからな。他の災害より対応は容易だ。だが予測できるからこそアメリカによる必要のない支援での支払いとか研究材料の譲渡の圧力が止まらないんだが。


「予測できない方がかえって良いのでは」


「それはいつも思うよ。じゃ、秋山くん、壊獣駆除完了したらまたそっちに報告行くからよろしく」


「了解しました。失礼します。」


黒田大臣は日本で初めての壊獣事案からずっと対処し続けているベテラン政治家だ。俺の特巨庁も彼が国会で提唱した「国民の保護についてのプログラム」より設立された。

俺が本当に尊敬する人の一人だが、壊獣事案をこなしすぎて世間では壊獣大臣やら言われている。

実際のところ壊獣を担当してる壊獣大臣は俺なのだが。


「秋山大臣、よろしいでしょうか」


「何だ?」

彼は特巨庁の壊獣事案分析官の星野勇くん。

5年前の壊獣初上陸の時に壊獣に心を打たれ、特巨庁を目指し始めたという、特巨庁の通称変人だ。


「初上陸の前に観測された例の激しい重力波とともに観測される月の80mの巨人の件なのですが。」


「あぁ、いつものやつか。定例報告入れといて」


「いえ、普段の壊獣事案では毎回2分程度観測できるのですが、今回の壊獣事案は2ミリ秒間しか観測できておらず。」


「そもそもそいつ壊獣との因果関係が不明瞭だし、国連も秘密にする方針だろ?無視できる事案じゃないか?」


「まぁ、そうかもしれませんが、こいつがもし仮に上陸したらまずくないですか。月から地球まで届くような重力波発生させるような奴ですよ」


「まぁ、その時は第0種としてマニュアル通りに進めるしか...」


「……第0種、ですか」


星野は一瞬だけ言葉を選んだ。


「第1種が“駆除可能”、第2種が“未確定脅威”。 第0種は――」


「――“対処不能想定”だ」


俺が先に言った。

マニュアルの該当ページが、嫌でも頭に浮かぶ。

『当該事象は発生しないものとして扱う』

そう明記された、唯一の分類。


「現実に起きた場合は?」


星野の問いは、質問の形をしていなかった。

「……その場合は」

言葉が、一拍遅れた。

「国連と協議の上、 情報は制限。国内対応は防衛省主導。特巨庁は――」


「“補助及び記録”ですね。」


「その通り」

そんな会話を長々としていると、防衛省の人から連絡が来た。


[特巨庁の報告にない空中に浮かぶ謎の球体観測。早急に特巨庁の研究部門に正体を問い、対処についての説明を依頼したい]


「一体何の話だ?」


我々も現地調査の時にそんな事象確認していないし、そんな事案過去5年間で観測したことがない。

ということはマニュアルにも載っていない。

分析官の星野くんも、元は大学の壊獣研究学で教授を務めていたが、そんな彼も頭を抱える。


「一体俺の知らないところで何が起こってるんだ?」



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