空からなんでも見渡せる相棒は、さっき罠にかかっていた

脳筋ツキネ

第1話

——あ、これ、かなりまずい。

見渡す限りの森、見覚えのない木々、湿った土の匂い、やけに澄んだ空、

夢にしては感触が生々しすぎる。

立ち上がって確認する。身体は無事。だが、ポケットは空っぽだった。

スマホも財布も、何一つない。私服のまま、完全に手ぶら。

「……冗談きついな。」

異世界転移、なんて単語が頭をよぎるが、即座に否定する。

そんな非現実的なこと、あるわけがない。

……あるわけが、ないはずだった。

「ギャァァァァァ!!死ぬぅぅぅ!!」

唐突な絶叫が森に響き渡った。

「……幻聴か!?」

「幻聴じゃねぇ!!助けろぉぉ!!」

即レスが返ってきた。

思わず声のした方を見ると、そこには地面に仕掛けられた罠と、逆さ吊りにされて必死に暴れる小さな人影があった。

子供……に見える。が、状況がどう考えてもおかしい。

「罠にかかっちまった!!このままじゃ三日で干からびる!!」

「いや飢える前に死ぬぞ」

思わずツッコんでしまった。

「細かいこと言うな!!俺様の命がかかってるんだぞ!!」

……俺様?

日本語は通じている。だが言動が微妙におかしい。

まぁただの変なやつかもしれない。

「助けてくれ!!礼はする!!たぶん!!」

「たぶんかよ……」

関わる気はなかった。

だが、完全に目が合ってしまった以上、無視するのも寝覚めが悪い。

「……面倒だ」

そう呟きつつ、罠に近づく。

「今面倒って言ったな!?」

「言った」

「俺様の命が関わってんだぞ!」とか聞こえたが無視してロープを確認する。構造は単純。

少し力をかけて結び目を解くと、逆さの体がどさっと地面に落ちた。

「っはぁ……助かった……」

さっきまでの大騒ぎが嘘みたいに、その小さな人物は起き上がった。

そして俺をじっと見て、腕を組む。

「まあ、悪くない働きだったな」

「礼は?」

「言外に滲み出てただろ?」

「出てない」

「細かいな人間」

……今、さらっと人間って言ったな。

それに突っ込もうとした、その瞬間だった。

そいつの背中が、わずかに膨らむ。

服の内側で、何かが動いた気配。

次の瞬間、羽毛のようなものがふわりと零れ落ちた。

「……お前」

言葉が詰まる。

「やっぱこの姿、窮屈なんだよな」

軽い調子でそう言って、そいつは肩を回す。

よく見ると、耳の後ろに小さな羽根が生えていた。

「……お前、人間じゃないのか?」

「違うけど?」

まるで「朝飯食った?」くらいの軽さで言いやがる。

「……で、お前は何者だ」

「さあな」

即答だった。

「は?」

「俺様は俺様だ。名前はピィルだ」

そう言って、ピィルは森を一瞥する。

「それより、人間」

「俺にはアキトって名前がある。名前で呼べ」

「アキトこの森、素人が一人で歩く場所じゃねぇ」

「俺様は空を飛べる」

そう言って、ピィルは木々の上を指さした。

「上から見りゃ、この森は全部丸見えだ」

「……便利だな」

「だろ?」

ピィルが胸を張る。

「街まで案内してやるよ。生きてたらな」

さっきまで罠にかかっていたやつとは思えないが、他に選択肢はなかった。

ピィルが急に黙った。

「……伏せろ」

「は?」

次の瞬間、森の奥で枝が折れる音がした。

低く、重い足音。

「言っとくけど」

ピィルが小声で言う。

「あれ、人間食う」

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空からなんでも見渡せる相棒は、さっき罠にかかっていた 脳筋ツキネ @Turiia

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