世界は"勇者"を求めているけど、どうやら神は違うらしい
ミヤザキ
本編
第1話 何者でもない男は、勇者になりたくなかった
テオは、自分がこの世界で最も英雄から遠い場所にいる人間だと知っていた。
朝は町の井戸掃除から始まり、昼は倉庫の荷運び、夕方には酒場の床拭き。
剣と魔法の世界に生きてはいるが、剣は振れば腕が痛くなり、魔法は指先で小さな火花を散らすのが限界だ。
「まあ、こんなもんだよな」
誰に言うでもなく、そう呟く。
町の掲示板には、今日も『魔王復活!!勇者切望す』の張り紙が貼られている。
数百年ぶりに魔王が復活したらしく、町の話題はというと、神が誰を次の勇者に選ぶかで持ち切りだ。
テオはそれを見て、肩をすくめた。
「関係ない、関係ない」
勇者は選ばれし者だ。強く、正しく、希望を背負う存在。
そんな役割を押しつけられる人生なんて、まっぴらごめんだった。
望みは単純。目立たず、期待されず、誰の記憶にも強く残らずに生きること。
それが一番、楽なのだから。
倉庫の荷運びを終えた帰り道、親方から貰ったパンをかじりながら路地を歩いていたときだった。
視界の端で、空気が歪んだ。
まるで布をめくるみたいに、目の前の空間が”べろん”と裏返る。その空間の先には星々が広がる宇宙が見えた。
「…は?」
驚いて立ち止まっていると、空間から誰かが出てきた。
白とも黒とも言えない色の地味なロングコードをはおり、フードを深くかぶっている。
背丈は普通、フードから除く顔は年齢も性別も分からない曖昧な顔立ち。
なのに、その表情だけはやけに楽しそうだった。
「やあ!」
「……誰ですか」
「私は宇宙の神だ!」
テオは一拍置いたあと、静かに言った。
「忙しいので」
そのまま横を通り過ぎようとする。
「ちょっとちょっと!? 反応薄すぎない!?」
腕を掴まれ、無理やり引き止められた。
「普通さ、宇宙の神って聞いたらもう少し驚かない?」
「宇宙の神とやらは信じていないので。」
「うーん、手厳しい!」
その人物は肩をすくめ、笑った。
「まあいいや。本題に入ろう。君、今日から勇者ね」
「やめてください」
即答だった。
「え、即否定!?」
「はい。即否定です」
「いやいや、まだ力も称号も渡してないのに!」
「いりません」
テオは本気で困った顔をした。
「……あなた、詐欺師ですよね」
「失礼だなあ。本物だよ?」
「本物の神がこんな路地で声かけしますか」
「するんだよ、今回は」
宇宙の神は、にやりと笑った。
「だって君、ちょうどいいんだ♪」
「何がです」
「何も望んでないところが」
その言葉に、テオは少しだけ眉をひそめた。
「……帰ります」
「待って!」
宇宙の神は、楽しそうに手を叩いた。
「君が勇者になる話、もう町中に広めておいたから!」
「は?」
「王都、教会、酒場、噂好きのおばちゃんネットワーク。完璧だね!」
テオの手から、パンが落ちた。
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