ダンジョン配信を見ていたら近所だったので助けに行ってみた
フレンドリーク
第1話 SOSは画面の向こうから
《D-Live コメント欄》
名無しさん:おい、これヤバくないか? 名無しさん:パーティメンバーどこ行った? kuma:置き去り!? マジで!? 名無しさん:後ろ! オーガ来てるぞ!!! シズク親衛隊:逃げてシズクちゃん!!!
薄暗い洞窟の中、スマートフォンの画面を流れるコメントが加速する。 だが、その速度よりも早く、私の心臓は破裂しそうなほど脈打っていた。
「は、はぁ……っ、うぅ……!」
私は、白雪しずく。しがないDランク探索者で、底辺配信者。 今日はBランク昇格を目指すパーティの「荷物持ち兼バッファー」として、この【代々木ダンジョン】の中層に来ていたはずだった。
それなのに。
『悪いなシズクちゃん! そいつの囮(デコイ)、頼んだわ!』 『MP切れた支援職とか、ただのお荷物だし~』
笑い声と共に、パーティメンバーは転移水晶を使ってさっさと逃げ帰ってしまった。 残された私の目の前にいるのは、身の丈3メートルを超える巨体。 赤黒い筋肉の塊――『レッドオーガ』。
「ご、ごめんなさい……みんな、ごめんなさい……」
震える手で配信用のドローンカメラを見つめる。 視聴者数は、皮肉にも過去最高の『1万人』を超えていた。私の処刑ショーを見るために。
「グルルルァァァ……!!」
オーガが棍棒を振り上げる。 風圧だけで吹き飛びそうだ。 魔法障壁を張るMPなんて、もう残っていない。
(あぁ、ここで終わりなんだ……)
私はギュッと目を閉じた。 せめて痛みを感じる前に終わってほしい。そう願った、その時だった。
『――おいおい、危ないだろ!』
ドォォォォォォン!!!!!
轟音。 そして、顔に吹き付ける突風。
「……え?」
痛みが来ない。 恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
さっきまで私の目の前にいたレッドオーガが、いない。 代わりに、洞窟の壁にめり込み、白目を剥いてピクピクしている巨大な赤い物体があった。
そして、私の目の前には――。
「ふぅ。間に合ったー」
スーパーのビニール袋を提げた、ジャージ姿の男の人が立っていた。
「あ、あの……?」
私が声を絞り出すと、その人はパッと振り返り、太陽のような笑顔を見せた。
「よう! 怪我はない? 配信見てたんだけどさ、ここ俺のランニングコースの近くだったから走ってきたんだ」
ランニングコース……? ここはダンジョンの地下15階層だ。 入り口から走ってきたとしても、普通なら1時間はかかる距離だ。 それを、配信を見てから来た?
《D-Live コメント欄》
名無しさん:は????? kuma:今なにが起きた? 名無しさん:オーガが吹っ飛んだぞ 武器マニア:彼、武器持ってなくね? 名無しさん:ジャージなんだがwww
「あの、その……オーガを、どうやって……?」
私が壁にめり込んだオーガを指差すと、彼は不思議そうに首を傾げた。
「え? どうって……こう、腰を入れて、『正拳突き』?」
彼はシュッと空気を切るような動作をした。
「魔法とかじゃなくて?」 「俺、魔法とか使えないし。MPゼロだからさ!」
あっけらかんと言う彼。 MPゼロ。それは現代において「無能」の烙印に等しい。 でも、彼は私の絶望的な状況を、たった一発の「拳」でひっくり返した。
「そ、それより! 早く逃げないと! あのオーガ、起き上がったら……!」
「ん? 大丈夫だよ」
彼は私の言葉を遮ると、めり込んでいるオーガに近づき、その太い腕をペチペチと叩いた。
「こいつ、結構いい音したから気絶してるよ。ここのモンスターって脆いよなぁ。鍛え方が甘いんじゃないか?」
「……(レッドオーガが、脆い……?)」
この地域のボス級モンスターだ。 Bランクパーティですら、苦戦を強いられる相手なのに。
彼は私の呆然とした顔を見て、何か勘違いしたのか、申し訳なさそうに頭をかいた。
「あ、ごめん! 怖がらせちゃった? 俺、剛田響(ごうだ ひびき)。とりあえず地上まで送るよ。あ、そのカメラ、回ったままでいいの?」
「は、はいっ! あ、私はシズクと言います……!」
「シズクちゃんね! OK! じゃあ行こうか。あ、これ持つよ」
響さんは、私が背負っていた重たいリュックを片手で軽々と持ち上げた。もう片方の手には、特売のシールが貼られた卵のパックが入ったビニール袋。
「卵、割れなくてよかったー。これ割れたら今日の晩御飯抜きだったし」
そう言って笑う彼の背中を見ながら、私は言葉を失っていた。 コメント欄は、もう文字が読めないほどの速度で流れている。
《D-Live コメント欄》
名無しさん:卵>>>レッドオーガ kuma:この男、何者!? 名無しさん:推せる。 シズク親衛隊:シズクちゃんを助けてくれてありがとう! 名無しさん:伝説の始まりを見た気がする
ダンジョンの常識を、物理ですべて粉砕する男。 この日、私の配信はバズり、そして私の探索者人生も大きく変わることになる――。
「よーし、帰りは軽く流して走るか! シズクちゃん、俺の背中におぶさってていいよ!」
「ええええ!?」
私の返事も待たず、彼は走り出した。 その速度は、まるで新幹線。
「きゃあああああ!!」
私の悲鳴と、響さんの笑い声がダンジョンに響き渡るのだった。
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ダンジョン配信を見ていたら近所だったので助けに行ってみた フレンドリーク @Quizk
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