ばっちり!ふるふる大事典

根古谷四郎人

1.雨を降らせたい!

「ジュン!」

 放課後のチャイムが鳴ると同時に、友人のカナトが僕の席に走ってやって来た。

「頼みがある!」

「断る。」

「まだ何も言ってない!」

 僕の机につっぷすジュン。だが、小一から中二の現在までの付き合いで分かってる。ジュンからの頼みはロクなことじゃない。

「いいかジュン。この話はお前にとっても悪い話じゃないぞ。なんせ、明日の持久走を中止にしてやるってんだから!」

 僕らの通う中学校では、毎年一月に持久走大会が行われる。僕やカナトのような運動オンチにとっては、ただの苦行。ところが、僕らの担任の石塚先生は、この大会に並々ならぬ情熱を傾けているので、体育の時間だけじゃなく休み時間まで練習させられている。

「だが、雨が降れば中止だ!だから、この俺が雨を降らせてやるってわけ!」

「……とうとう嫌すぎて変な事言いだした。」

「本気で哀れむな!よし、そこまで言うなら見てろよ!」

 顔を赤くしながら、ジュンが鞄から分厚い本を取り出した。光沢のある青い布地で装丁され、金色の文字で『ばっちり!ふるふる大事典』と書かれている。ジュンはそれをめくり、「小雨」と書かれたページを開いた。そして靴をぬぎ、足の先に引っ掛ける。

「何してんの?」

「今から雨を降らせてやるんだよ。いくぞ―『ばっちり!ふるふる大じてーん!』」

 ジュンが叫びながら靴を飛ばした。靴は孤を描きながら、靴底を上にして落っこちた。

「よっし!」

 とジュンがガッツポーズをしたのと、窓にぽつ、ぽつぽつ、と水滴がつき始めるのが同時だった。え、と思う間もなく、サーっという雨の音が聞こえ、グラウンドで部活中だった生徒達の騒ぐ声が聞こえて来る。

「どうよ?」

 したり顔でジュンがこちらを見た。偶然だろ、と言いたかったが、それにしてはあまりにもタイミングが良すぎる。

「雨が降って欲しい時のおまじないってあるじゃん?今の靴飛ばしみたいな。それを、この本を開いたまま、『ばっちり!ふるふる大事典』って唱えてやると、ホントに雨が降るってわけ!」

 ジュンがそう言って本の中身を見せた。小雨のページには、「靴飛ばしで靴が裏返る 一回」と書かれている。

「呪文を唱えながらこの条件を満たしたから、今雨が降ったって事か?」

「そう言う事!でも、持久走大会を中止するには、大雨が必要だ。見てくれ。」

 ジュンが大雨のページを開くと、必要な条件として、「靴飛ばしで靴がひっくり返る 三回 逆さづりのてるてる坊主 四つ 猫が顔を洗う 一回」とある。

「俺の友達で猫飼ってるのお前だけなんだ。な?今ので俺が嘘言ってないって分かっただろ?頼むよ。」

 すがるような目を向けるジュン。僕はまだ半信半疑だったが、確かに持久走は嫌だ。これでもし、本当に中止になるなら……。

「おーいお前ら!いつまで残ってる。」

 石塚先生がやって来た。「明日は待ちに待った持久走だぞ。早く帰って体休めておけー!」

「はーい。」

 と返事はしつつも、内心「待ち望んでるのはお前だけだ!」と悪態をつく。横を見れば、ジュンも苦虫をかみつぶしたような顔をしている。

「ジュン。」

「ん?」

「今日の帰り、うちに寄って。」

「―ありがとよ親友!」

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