サンタクロースの独唱
K村
序章 サンタクロース長にまつわるくつかの事柄
二千九十年のクリスマス、子どもたちの枕元にプレゼントはなかった。
日本のサンタクロースの長が失踪したからだ。彼の失踪は世界中のサンタクロースを震撼させた。彼こそが、世界中に散らばるサンタ組織のトップ。彼がいなければ世界中のサンタクロースが活動することが不可能であるのは明白であった。世界中の子どもを持つ人々の顔がさっと青ざめる。今年はサンタが来ない。クリスマスムードに染まりかけていた街の空気が目に見える程どんよりと重くなったのを感じたのを、今でも覚えている。
しかし、それだけであれば、世界中の親が子どもに「今年はサンタさん来なかったの」なんて言って丸く収めるか、彼らがサンタになりきって身銭を切ってプレゼントを用意するだけで済む。だがその日はそれだけでは済まなかった。サンタ長の失踪は、センセーショナルなニュースとして、世界中のサンタクロースだけでなく、一般の大人達をも震撼させた。
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夕凪ニュース二千九十年十二月二十二日記事 「日本のサンタクロース長 殺人事件に関与」より抜粋
警察から、きょう午後13時頃、●●県にある〇〇川の川下で、✕✕高校の制服を着た二人の男女の遺体が発見されたと発表があった。
発見当時二人は故意に雪に埋められた形跡があり、現場近くにサンタクロース長の身分証明書であるサンタ手帳と、遺体の衣服からサンタクロース長のものと思われる毛髪が見つ
かったことから、警察は殺人事件として捜査を進めている。
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週刊事実web二千九十年十二月二十五日記事 「現サンタクロースが語る!サンタクロース長失踪の恐るべき事実」より抜粋
サンタクロース失踪と、サンタクロース長の殺人事件の関連が騒がれて久しい今日。我々週刊事実は、今現在サンタクロースとして働いているとある人物(プライバシー保護のためイニシャルのみ取ってAさんとする)に話を伺うことができた。そこで明らかになった衝撃の事実を、こうして記事として書き記すことにした。ぜひ、あなたの目で確かめてほしい。
事件の概要(前述のニュース記事のとおりであるため省略)
サンタクロースAさんにインタビュー
(中略)
----サンタクロース長の失踪を受けて、なにかサンタクロースの組織内で起こった変化などありますか?
「はい。かなり。彼がサンタのトップなわけですけど、やっぱり彼へのヘイトが浮き彫りになったように感じます」
----「浮き彫り」に?ヘイトが「溜まった」ではなく?
「そもそも長い事長へのヘイトはいろいろな場面で、小さいながらも溜まってたんだと思います。器の中にちょっとずつちょっとずつ溜まっていって、表面張力ができるくらいになったところに、サンタクロース長の失踪という大きな石が投げ込まれて、思いっきり溢れた。そんな感じです」
----具体的にはどんなことが起こったんですか?
「まずは小さなところですけど、彼への陰口?というか暴露みたいなものが増え始めました。『実はあいつ〇〇にミスするたびに暴力振るってたんだぜ』『お気に入りの自分の部下にセクハラしてたんだって』とか、根拠のわからない噂が流れ始めました。別に日常でその話をされたら、はいはい、って流せるんですけど、というかバカにすんなって注意もできました。けどやっぱり、あの殺人事件のニュースが立て続けに出たのも相まって、だんだんとムードができ始めていました」
----サンタクロース長を攻撃するような?
「そうですね。彼なら攻撃してもいいみたいな。いろんな日々のストレスの矛先が全部彼にむいて。サンタクロース長が殺人犯であるっていうのは、サンタ内ではもはや確定した事実に過ぎませんでした」
----Aさんはサンタクロース長が犯人だと思っていますか?
「はい。そりゃああの証拠だけ出されたら、長が殺人犯だって誰だって思います。正直、行方不明になったり挙げ句に殺人したり、動機は全くわかりませんけど、彼が犯人なんだなっていうのは」
----なぜそう思うのですか?
「さっきも言ったように、証拠が指し示す人物がサンタクロース長しかいないっていうのと、みんなの話を聞いているとやりかねないのかもなって」
----パワハラとかセクハラだけですけど、それが殺人に発展しますかね?
「いやいやさっき言ったのが全部じゃないですよ。これ、人づてに聞いた話なんですけど、サンタクロース長の一家って昔から厳しいらしくて、長も長いことサンタを継がせるために親から暴力など振るわれていたそうなんです」
----虐待ですか?
「そうです。サンタクロースは原則サンタの末裔たちが代々継いでいくっていうのがルールみたいな感じであるんですけど、その中でも一定の試験があるんですね。まあ英語とかの検定試験みたいなものだと思ってもらえたらいいと思います。もちろんそのためには勉強だったりいろんなことをしなきゃいけないわけなんですけど、長はその成績があまりよくなく、そこで親から殴る、蹴るとかを日常的にされていたみたいです」
----そこから殺人に発展したと?
「違います。最後まで聞いて下さい。彼は日常的に暴力を振るわれていたことがきっかけになってか、弟にまで----彼長男なんですけど、自分の弟にまで、親から受けた暴力を返すように暴力を振るっていたそうです」
----......なるほど。
「だからこそ僕は彼が殺人をやりかねないと言ったんです。家族に平気で暴力を振るう人間がサンタクロース長なんて......今考えると恐ろしいです。さっさと捕まってほしいですよ、ほんと。子供殺すなんて、サンタとして最低です」
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サンタクロース失踪と時を同じくして、日本で殺人事件が起こる。クリスマス三日前、とあるカップルの死亡事件がニュースで報じられた。川下で、雪に埋められた二人の高校生カップルの遺体が見つかった。彼らの死が死亡事故ではなく殺人事件として報じられたのは、捜査の結果わかった情報からであった。彼らの近くに落ちていた手帳。サンタクロースにとっての身分証明である、そのサンタ手帳の持ち主が、件のサンタクロース長であったわけだ。その事故は彼の失踪と重なり、犯人ではないとしても何かしら彼らの死に関与している可能性があるだろうということで、サンタクロース長は捜査の対象とされた。さらに、遺体の衣服から彼のものと思われる毛髪が見つかったことで、警察や世間から一層サンタクロース長への疑いの目が向くこととなった。世間の認識はあっという間に、サンタクロース長=殺人犯というものへ変わっていった。
警察は容疑者をサンタクロース長として設定し、本格的な操作・捜索へと乗り出すも、現場に残されたもの以外の手がかりは見つからなかった。結果、捜査本部は便宜上設置されているものの、本部が動いたのは捜査開始から九ヶ月ほど。つまり一年足らずで捜査は実質打ち切りとなった。
世間からのサンタクロース長バッシングは激しいもので、事件から半年以上、SNSでの批判や誹謗中傷など相次ぎ、トレンドワードの一位が常に「サンタクロース長」で固定されているという異常事態が巻き起こった。人々のやり場のない不満が募った結果、ついにはサンタクロース組織本部前でデモが起こるまでに発展し、警察が出動する事態となった。
しかし、前述の通り事件は停滞。警察が事実上捜査を打ち切ったあたりから、少しずつ世間は落ち着きを取り戻し、事件から一年経ち、新たなサンタクロース長の就任が終わった頃には、すでに世間はこの事件への興味を失っていた。
忘れ去られたはずのサンタクロースの失踪と、カップル死亡事件から十年後、とあるテレビ局によって突如報道されたニュースにより、事件が大きく動き出すこととなる。
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〇〇テレビ内の番組 NEWS for YOU二千百年十二月二十日放送の一場面の文字起こし
「---ということで、十月に入って少し寒くはなりましたが、イベントは盛りだくさん!今月も......え?速報?これから天気予ほ......あ、マイク、(咳払い)失礼しました。えー.....速報をお伝えします。つい先程、我々〇〇テレビに封筒が届きました。封筒の中身についてですが、...え?あ、ええと、封筒には、サンタクロース長のものと思われるメモと付け髭が入っており......えー、メモの内容を読み上げます。『十二月二十五日 ジングルベル 独唱』......これはなにかの、予告状なのでしょうか?それともいたずらか、いや、少なくとも、今こうして我々がこの事実を報道している時点で、何かしら本物である根拠が......(聞き取り不可)。と、とにかくこれは、サンタクロース長再来の合図です!迷宮入りの事件が動き出します!(キャスターが机から身を乗り出す音)歴史的瞬間です!!(興奮した様子のキャスターがテレビカメラに掴みかかり、何やらカメラに向かって叫ぶ様子が数秒映し出された後、画面が切り替わり、『しばらくお待ち下さい』と書かれたテロップが表示される)(文字起こし終わり)」
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上記「」内の文章は、当時実際に放送されたニュースの文字起こしである。キャスターは興奮していた様子で、少しばかり聞き取れない箇所を脚色し、全く聞き取れない部分は記載していないことをご了承いただきたい。
内容をざっとまとめると、〇〇テレビのニュース番組中、テレビ局に封筒が届く。封筒の中にはとだけ書かれたメモと、サンタクロース長のトレードマークであった真っ白な付け髭が入っていた。この封筒の件はすぐさま「サンタクロース長の再来」として報じられ、またもや世間を盛り上げることとなった。警察も少しずつ捜査を再開していく中、SNSではメモの解読とサンタクロース長の捜索が始められ、一時期出所のわからない賞金・懸賞金が出る騒ぎにもなった。審議の不確かな情報が錯綜し、ついにはサンタクロース長と似た容姿の全く関係のない人物が暴行を受けるなどの刑事事件にまで発展し、混乱を極めることとなった。しばらくしても手がかりが見つからぬまま、ついにメモに書かれた十二月二十五日を迎えた。
結論から言うと、当日は何も起こらなかった。いや、訂正する。何も起こらなかったわけではないが、世間の望むようなことは起こらなかった。
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夕凪ニュース二千百年十二月二十五日記事 「サンタクロース長 遺体で発見」より抜粋
警察から、きょう午後三時頃、●●県にある〇〇川の川下で、サンタクロース長のものと思われる遺体が発見されたと発表があった。
現場には彼のもの以外の持ち物は何もなく、目撃情報もなかったことから、警察は自殺として捜査を進めている。
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十二月二十五日、二千百年のクリスマス。サンタクロース町の突然の死によって、結局のところ、世間の期待していたサンタクロース長の再来と事件の真相はわからずじまいであったが、世間は二人のカップルを殺したことを悔やんで自死を選んだのだとある種筋の通った結論で自らを納得させた。
私はライターの仕事をしている。職業柄なのか昔からの趣味なのか、こういった未解決事件や不可解な事件に関する興味は人一倍強い。そういった記事や動画などは、中学生の頃から今に至るまで、日常的に触れてきた部類だ。だから、単純な興味の範疇ではあるが、私はこの事件の真相を知りたいと、強く強く願った。(以前雑誌にサンタクロースに関する特集記事を書いていたのもあるだろうが)それには興味だけでなく、また別の理由もあった。
私はこの事件が報じられているのを実際に見て、ただ、妙だな、と思った。まず、動機がない。調べてみたところ、そもそもサンタクロース長と彼らカップルに、ほとんど接点はないことがわかった。もちろん、サンタ長が彼らカップルへのプレゼント担当に当たっていた可能性もあるにはあるが、かと言って年に一回ほどの付き合いのはず。少なくとも、殺すに至る動機は作りようがない。さらに、わざわざ手帳を落としていっていることにも違和感がある。もちろん、単に落としてしまったということかもしれないが、本当に直感程度だが何やら作為めいたものを感じた。それと、この事件には強く私の興味を引くなにかがあった。ただ、このときはまだ私も、「気になる」程度の認識であった。が、テレビ局に届いた例の封筒がきっかけで、その興味が最高潮に達することとなる。さらに違和感も確信に変わる。明らかにこの事件は、単なる殺人事件ではない。サンタクロース長のカップル殺しとして片付けるには、サンタクロース長の殺害動機やメモ、突然の死など、不可解な点が多すぎる。これらの事実は、私の興味を引き付け、私の生活に侵食してくるには十分すぎるほどの力を持っていた。
この事件にはなにか裏がある。その確信を胸に、私はこの事件---便宜上、「クリスマス事件」とでもしておこう---の調査を開始した。途方もない調査を通して、数々のニュース記事や映像などから、私の周辺の人々、街の人々への聞き込み、果てはサンタクロース会社との接触記録からサンタクロース長本人のものと思われる手記など、様々な情報を手に入れることができた。そして、あるひとつの真実にたどり着いた。
このあとに続く文章群はすべて、私がこのクリスマス事件を調べたうえでわかった、調査と真実の記録である。読者の皆様にわかりやすく、直接的に真実を伝える目的で、多少の脚色が施された部分があることを(特に終盤、手記の内容に関して。詳しくは手記の章で述べる)ここで断っておきたい。そして、それらの脚色には意味があるということをご留意いただきたい。
どうかこの事件の顛末を、あなたの目で見届けて欲しい。たとえそれが、ある人間の生き様を、変えてしまうものだとしても。
次の更新予定
サンタクロースの独唱 K村 @Kmura_K
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