第2話 ゴブリン語を覚えた

 五歳の僕はゴブリンがいた森の奥にまで入るようになった。いるのはいつも僕が助けたゴブリンだけだったので当然危険もなかった。



 その時、たいていあのゴブリンがいて、一緒に遊んだりしたものだ。



「あれ? 今日はほかのゴブリンも来てるな」


「グゲ」


「グゲー!」



 僕が以前に助けたゴブリンの後ろには、ほかの男女のゴブリンが一人ずついた。僕が助けたゴブリンよりさらに小さい。



 男のゴブリンと比べると女ゴブリンは髪の毛が多いし、服も人間のもの近い。男のゴブリンは腰巻ぐらいしかしないらしい。それも見てる数が少なすぎるからなんとも言えないけど。



「グゲー」


「グガガ。ガー」


「ガガギー!」



「うわ、誰がしゃべってるかすらわからない!」



 ゴブリンたちが一斉にしゃべると、本当に雑音みたいになる。音の高さとかは違うはずなのに、意味を理解できないからか、簡単に混ざってしまうのだ。



 しかし、言葉は通じなくてもなんとなくコミュニケーションはとれるもので、僕たちは一緒に遊んだ。





 僕が以前助けたゴブリンは木の枝に石をくくりつけた紐を結んだ。



 そのへんに落ちてる石を子分的なゴブリン2体が拾って、その枝からぶらさがっている石に向かって投げる。



「ああ、あの的みたいなのに当てればいいってゲームだね」



 僕も早速、そのゲームに参加した。石を拾って投げるだけだから、本当にすぐ始められる。



 なかなか当てられなかったけど、十投目でようやく僕は的の石に当てることができた。





 一方、女子ゴブリンは小さいのに、二度の失敗から先は三投連続で当てた。



「グー! ゲゲー!」



 その女子ゴブリンも得意になっているのがわかる。



「すごい、すごいよ! とんでもない命中率だよ!」





 他方、小さい男ゴブリンは投げた石が全然当たらなかった。こういうのにも得意・不得意ってあるんだな。



 ただ、この小さい男ゴブリンも、かくれんぼの時はすごかった。どこの茂みに隠れても、即座にほかの相手を見つけてしまう。



「ギッギ。ギギゲ」



 一番目に捕まった時、僕はその小さい男ゴブリンの様子を見ていた。何か独り言を言いながら、木の枝で図のようなものを書いている。



「ギゲゲゲ!」




 そして、小さい男ゴブリンの中で結論が出たのか、そうっと草むらのほうに行くと、そこに捕まえたバッタをぽーんを投げ入れた。



「ギゲーッ! ギゲギゲギゲー!」



 女子ゴブリンがびっくりして飛び出した。

 そこを小さい男ゴブリンが指差す。かくれんぼとしては勝利だ。



「虫を使って驚かせて、場所を確認したのか……。頭いいな……」





 こんな感じで、小さなゴブリン二人もそれぞれ特徴があった。そんな二人をまとめているのが、僕が助けたゴブリンだった。たまに全員分の木の実を持ってきてくれたりして、それをみんなで食べたりした。



 友達がゴブリンばかりというのは変なのかもしれないけど、兄さん夫婦は僕にあまり関心がないせいか、それも知らないままだった。



 同居している兄さん夫婦がそんな有様だから、ましてほかの村の人たちも僕がゴブリンと遊んでるなんて、まったく知らなかった。



 僕としても幼いながらに、ゴブリンと遊んでることをおおっぴらに言うべきじゃないということはわかっていた。もう遊びに行くなと言われてしまうと困るし。



 ゴブリンも人間より貧しいとしても、人間みたいに暮らしてはいるのだから、助けてあげた僕に悪いようにはしない。獣だって助けてくれた人間になつく奴はいるというから、知能がもっと高いならそういうこともある。




 だけど、五歳の僕の説明なんて大人はバカにして聞いてくれないだろう。

 今は黙っているべきだ。













 何度もゴブリンたちと会って遊んでいるうちに、僕はゴブリンの言葉を覚えた。向こうも僕の言葉を覚えた。



「じゃあ、ゴブリンの村は300人ぐらいなんだね。僕らの村より多いや」


「ゴブリンは小せえからな。それぐらいは集まって暮らせるんだよ」



 僕の言葉に答えたのは、僕が助けたゴブリンだ。名前はドドという。



 子供の僕でもゴブリンの言葉は簡単だと思った。おそらくだけど、文法というものが村の人間が使う言葉とよく似ているのだ。



「俺たちゴブリンはかつて言葉を知らなかっんだってよ。そこで大昔のゴブリンは、人間が使っていた言葉を真似て使いだしたらしい。だから、文法もきっと似てくるんだろ」


「なるほどね。だったら音が違うだけってわけだ」


「ゴブリンはゴブリンとしか話さないからな。ちょっとずつ発音が人間からかけ離れちまって、人間はゴブリンの言葉なんて誰も知らないってことになったんだろ」



 たしかに、ゴブリンの言葉を研究しようなんて考えたことのある村人は誰もいないだろう。そんなことを言い出したら、本当に悪い魔法使いに精神支配の魔法をかけられていると疑われるかもしれない。



「それにしても、人間の言葉も覚えてみれば、簡単なんですねえ。文法が同じ、発音も元は近かったという説も説得力がありますよ」



 こちらは小さいほうの男ゴブリンのケケだ。



「にしても、ゴブリンの名前ってシンプルすぎるよね。ドドにケケか」


「ゴブリンにとって名前は記号でしかありませんからね。でも、スクルドさんの名前も記号という点では同じですけど。せいぜい神話の英雄に由来するかどうかってことだけの違いです」



 ケケは賢そうな顔で僕にそう言った。ゴブリンってもっと怖そうなイメージがあったけど、このケケは顔つきからして知的だ。



「まあ、嫌な名前だったら変えちゃえばいいんだよ。少なくともゴブリンの掟に名前を変えちゃダメなんてものはないしね~」



 女子ゴブリンのリリはそう言いながら、細い木の枝に向けて石を投げている。石の当たった枝はぽきりと折れた。やはり命中率は高い。



「リリは将来、立派な射手になるんだ。そしたら偉くなれるからさ!」


「偉くなれるって、そういえば、ゴブリンの村も身分の高い低いがあるんだね」


「そりゃ、あるよ。村長に当たる存在はゴブリンロード。たまに近くのゴブリンの村と戦争することもあるけど、普段はいいもの食べられるしさ」



 多分、僕は、世界屈指のゴブリンの知識を持ってるんだろうなと思った。村の人はゴブリンなんて、ちょっと知能が高くて厄介な野生動物ぐらいにしか考えてない。



「ほかの二人もリリみたいに何か夢とかある?」



 僕は男のゴブリン二人に聞いた。



「ぼくは人間の本を手に入れたいです。本にはたくさんのことが書いてありますからね。ぼくはもっともっと賢くなりたいんです」



 ケケが少し早口で言った。よほど、その想いが強いんだろう。



「だったら、ちょっと離れてるけど、本がある場所は知ってるぜ。崖の下にある」



 ドドが言った。



「本が崖の下になんてところにあるわけないですよ。ドドさん、変なことは言わないでください」


「いいや、たしかにある。だったら、明日ちょっと早く集合して本を探しに行こうぜ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月12日 12:07
2026年1月13日 12:07
2026年1月14日 12:07

無実の罪で大聖堂を追放された天才治癒魔法使い、モン娘の国の指導者になって楽しく生きる! 森田季節 @moritakisetsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画