第41話 回復は、順番を間違えると死ぬ

回復プロセスは、

静かに始まった。


掛け声もない。

カウントダウンもない。

ただ、数値だけが動き出す。


隔離区画の中央。

透明な壁の向こう。


主人公の身体は、

ほとんど“身体の形をした問題”だった。


「……始めます」


医療担当の声は、

淡々としている。


最初に動いたのは、

状態異常解除能力者だった。


「放射線、

 まず削ります」


「一気には無理」


「……一段階だけ」


能力が発動する。


空気が、

わずかに歪む。


モニターの数値が、

ゆっくりと下がる。


「……下がってる」


誰かが、

息を吐いた。


だが。


「……止まった」


数値が、

途中で止まる。


「……これ以上、

 押すと」


解除能力者が、

低く言う。


「神経が、

 完全に死ぬ」


医療担当が、

即座に判断する。


「中断」


「次、

 回復を入れる」


回復能力者が、

前に出る。


「……正直に言います」


「今の状態で回復を掛けると、

 壊れたまま固定される」


それは、

最悪の宣告だった。


「……どういう意味だ」


幼馴染が、

低く聞く。


「焼けた組織を、

 “正常”として

 保存する形になる」


「再生じゃない」


「上書きだ」


それは、

回復ではない。


永久的な失敗だ。


「じゃあ、

 先に何を――」


「神経です」


自然治癒強化型が、

口を挟む。


「神経が、

 生きていないと」


「回復も、

 意味を持たない」


「だが」


「神経は、

 放射線の影響を

 一番受けている」


矛盾。


解除すれば、

神経が死ぬ。


回復すれば、

壊れたまま固定される。


維持すれば、

時間切れで壊死が進む。


「……詰んでるな」


誰かが、

小さく言った。


幼馴染は、

拳を握った。


「……続けろ」


「まだ、

 全部は試してない」


医療担当が、

一瞬だけ躊躇う。


「……次は、

 自然治癒強化」


「微弱で」


能力が、

発動する。


数値が、

わずかに動く。


「……あ」


誰かが、

声を上げた。


「逆だ」


「壊死速度が、

 上がってる」


自然治癒が、

“壊れた状態”を

 全力で維持している。


「……止めろ!」


即座に中断。


部屋に、

重い沈黙が落ちる。


誰も、

失敗を責めない。


なぜなら。


失敗が、

 理屈通りだったからだ。


「……順番が、

 決まらない」


医療担当が、

呟く。


「どれも、

 単独では使えない」


「同時に使うと、

 干渉する」


「……最初から、

 想定外だ」


幼馴染は、

隔離壁の向こうを見る。


動かない。

反応もない。


「……なあ」


「こいつ」


「生きてるよな」


医療担当は、

数値を見つめたまま答える。


「……はい」


「生きています」


「ただし、

 “戻れる”とは

 言っていません」


その言葉が、

重く落ちる。


回復能力者たちは、

互いを見た。


誰も、

帰ろうとはしなかった。


だが。


誰も、

「大丈夫」とも言えなかった。


「……今日は、

 ここまでだ」


医療担当が、

判断する。


「これ以上は、

 取り返しがつかない」


装置が、

停止する。


部屋に残ったのは、

数字と、沈黙だけだった。


幼馴染は、

壁に手をついた。


「……失敗、か」


誰も、

否定しなかった。


「でも」


幼馴染は、

歯を食いしばる。


「まだ、

 終わってない」


それは、

根拠のない言葉だった。


だが。


この場にいる全員が、

同じことを考えていた。


理屈が通らないなら、

 次は“理屈を一つ、

 壊すしかない”。


回復プロセスは、

始まった。


だが。


前半は、

 完全な失敗だった。

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