第29話 詫びポ寄越せ

異世界連合との通信は、

即時に繋がった。


それ自体が、

事態の深刻さを示している。


通常、連合は即応しない。

返答には時間を置き、調整し、

責任の所在を曖昧にしてから話す。


だが今回は違った。


「要件を」


仲介官の声は、

いつも通り感情がない。


だが、

速度だけが異常に速い。


俺は、

深く息を吸わなかった。


ここで感情を整える必要はない。

整えると、

余計な言葉が混じる。


「クレームだ」


俺は、

はっきり言った。


一瞬、

空気が止まる。


「……内容を」


「アメリカ戦線」


俺は、

端的に切り出す。


「切り札の投入を、

 事前に共有しなかった」


「結果として」


「地球側は、

 対抗策の設計時間を失った」


仲介官は、

すぐには否定しなかった。


「共有義務は――」


「ある」


俺は、

遮る。


「“秩序維持のための介入”を名乗るなら、

 情報の非対称性は、

 重大な瑕疵だ」


言葉は、

丁寧だった。


だが、

逃げ道を潰していた。


「……結果として」


俺は、

続ける。


「アメリカ戦線は、

 軍事的に壊滅した」


「だが、

 それ以上に問題なのは――」


「地球側が、

 “勝てない存在がいる”と

 理解したことだ」


沈黙。


これは、

軍事の話じゃない。


秩序の話だ。


「秩序は、

 予測可能性で成り立つ」


「だが今回」


「人類悪は、

 予測の外側にいた」


「つまり」


「連合の秩序は、

 絶対ではないと示された」


仲介官は、

すぐに返さなかった。


その代わり、

別の存在が割り込む。


「……要求は?」


異世界連合、

上位調停官。


声が、

一段低い。


「単純だ」


俺は、

即答する。


「詫びろ」


言葉が、

そのまま落ちる。


「……謝罪か」


「違う」


「補填だ」


俺は、

画面を切り替えた。


表示されるのは、

被害推定。


士気低下率。

戦線再構築時間。

対抗策開発遅延。


「地球側は」


「今後、

 個人最強を前提とした戦争を

 強いられる」


「それは」


「初期設計に、

 存在しなかった負荷だ」


「だから」


「スキルポイントを寄越せ」


沈黙が、

長くなった。


「……理由は」


調停官が、

静かに問う。


「簡単だ」


「勝ち目がないからだ」


「相手が強すぎる」


「人数も、

 上限も、

 まだ分からない」


「なら」


「地球側が取れる合理的行動は一つ」


「全体の底上げ」


「それを、

 あなた方が阻害した」


「だから」


「詫びるなら、

 数字でやれ」


仲介官が、

視線を伏せた。


「……要求量は」


俺は、

少しだけ考える。


「全人類に、

 スキルポイント25」


ざわめき。


「……過剰だ」


「過剰じゃない」


「不足分の補填だ」


俺は、

冷静に続ける。


「一部に配るな」


「全体に配れ」


「そうすれば」


「責任は、

 個人ではなく、

 文明全体に分散される」


「秩序を名乗るなら、

 その方が正しい」


長い沈黙。


異世界連合は、

計算している。


政治的影響。

先例。

他世界への波及。


だが、

反論材料がない。


なぜなら。


彼ら自身が、

 秩序の破れを認めているからだ。


「……条件付きで、

 認める」


調停官の声。


「全人類に、

 スキルポイント25」


「ただし」


「これは、

 一度きりだ」


「当然だ」


俺は、

即座に返す。


「二度目があったら」


「それはもう、

 秩序じゃない」


通信が、

切れる。


指揮所に、

静寂が戻る。


誰かが、

小さく息を吐いた。


「……通ったな」


俺は、

椅子に深く座り直す。


通った理由は、

分かっている。


これは、

脅しじゃない。


秩序側が、

 負けを認めた瞬間だからだ。


そして。


俺のスキル画面が、

静かに更新された。


【追加スキルポイント:+25】


だが、

俺はすぐに使わない。


次に取る能力は、

もう決まっている。


保険運。


これは、

勝つためじゃない。


間違えたときに、

 世界を巻き込まないための能力だ。

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