第8話 治る、とは言えなかった
回復能力者は、
思ったより早く現れた。
担架の横で、
医療班がざわつく。
「来たぞ」
「本当に?」
若い女だった。
年齢は、
俺と同じくらいだと思う。
顔色が悪い。
震えている。
それでも、
逃げなかった。
「……回復、できます」
小さな声。
でも、
はっきりしていた。
医療班が、
即座に確認に入る。
「どの程度だ?」
「傷を、
元に戻す……」
言い切る前に、
言葉が途切れた。
「……時間は、
かかります」
それでも、
空気が一瞬、軽くなった。
希望だ。
少なくとも、
“ゼロ”じゃなくなった。
幼馴染が、
微かに目を開ける。
「……来たか」
女は、
頷いた。
「やってみます」
回復が始まる。
手をかざす。
淡い光。
確かに――
傷口が、塞がっていく。
血が止まる。
呼吸が、少し安定する。
「……効いてる」
医療班が、
息を飲む。
俺も、
息を吐いた。
助かる。
そう思った。
「……待て」
一人の医師が、
眉をひそめた。
「再生速度が、
遅い」
「出血は止まってるが、
内部損傷が――」
女が、
歯を食いしばる。
「……これが、限界です」
声が、震える。
「全部は、
無理……」
光が、
弱くなる。
女の膝が、
崩れた。
医療班が、
慌てて支える。
「……能力疲労」
誰かが言った。
「回復力は高いが、
持続しないタイプだ」
幼馴染は、
まだ生きている。
だが――
治ったとは言えない。
止血。
応急再生。
“延命”。
「……足りないな」
誰かが、
ぽつりと呟いた。
否定できなかった。
医療班が、
俺を見る。
「複数いれば、
話は違う」
「解毒、
再生、
循環補助……」
「役割が、
分かれてれば」
役割分担。
それは、
戦闘の話じゃない。
治療の話だ。
女は、
床に座り込んだまま、
必死に言う。
「ごめんなさい……」
「もっと、
できると思った……」
誰も、
責めなかった。
責められるはずがない。
彼女は、
できることを
全部やった。
幼馴染が、
小さく息を吐く。
俺と、
目が合う。
「……悪い」
謝っているのは、
多分――
自分の怪我じゃない。
その瞬間、
俺は理解した。
回復能力は、
“答え”じゃない。
パーツだ。
一人では、
足りない。
善意だけでも、
足りない。
奇跡一つでも、
足りない。
この戦争は、
人を削る。
削れた分を、
元に戻すには――
もっと多くのものが必要だ。
医療班が、
通信を開く。
「回復能力者、
追加募集を継続!」
「条件変更!
単一能力でも構わない!」
声が、
指揮所に響く。
俺は、
静かに画面を開いた。
【スキル編集】
【制約を追加しますか?】
軽い制約は、
失敗した。
中途半端は、
意味がなかった。
「……次は」
誰にも聞こえない声で、
呟く。
足りないなら、
足りるまで削るしかない。
それが――
自分自身でも。
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