思わぬ援護
蒼空 秋
第1話
「よいしょ」
私はかけごえとともにゴミ箱をどかし、間に挟まっていたジュースの缶を拾う。照りつける太陽によってステンレス製のゴミ箱は焼き肉ができそうなほど熱をもっており、私は日焼け防止のスカーフだけでなく手袋までしてゴミ箱の掃除をしていた。
繁華街が近いわりにはこのコンビニの駐車場は広く、野外に設置されている自販機の数が無駄に多い。その空き缶捨ても業務に含まれており、涼しいと思っていた真夏のコンビニバイトの中では予想外の苦行だった。
あの男、またいる。
チラリと奥の自販機のゴミ箱の方に目をやると、私は気分が滅入るのを感じた。私と同世代の50歳前後とおぼしきアロハシャツを着た怪しげな中年の男は、いつも自販機の側の木陰でタバコを吸っているのだ。携帯灰皿を持っているので吸い殻をきちっと回収しているが、周囲にタバコの匂いがつく。そもそもあの男は真っ昼間から、何をしているのだろう。女の私でさえ、好きなママさんバレーを辞めてまでして必死に働いてるというのに。
「ふう」
私は全身の汗を拭いながら一息ついた。暑い中での業務は嫌だったが、子供たちにとっては今が大事な時期だ。
中学生になった息子二人の学費(あと食費)は、予想以上のものだった。夫はローンで手一杯な上に無関心で、「塾なんていらないだろ?」と平然という。中学生の殆どが塾に通っているという事実すら知らないらしい。まったくあてにはできなかった。
長男は中三の受験生、次男は中一になる。長男は初めての子どもでロクに叱らなかったためか、やんちゃな性格に育ってしまっていた。そして常におとなしい性格の次男をひっかきまわしていた。次男が中学生になり、二人とも同じ塾に通うことになった。私はようやく見つけた時間で、このバイトを始めたのだった。
私は駐車場の方に目をやる。街路樹の下に、中学生くらいの子ども二人の姿が見えた。息子たちと同世代に思える二人はそれぞれボールとスケボーを手に持ち、夏休みだというのに外でブラブラ遊んでいるようだ。我が子にはあんなふうにはなってほしくない、と思った矢先、私の視線は彼らに釘付けとなった。
私は何度も自分の目を疑った。
母である私が見間違えるはずのない。なんと彼らは我が長男と次男の姿だったのだ。
私は全身が火のように熱くなるのを感じた。
「一郎、次郎、何しているの?!」
私はスカーフを剥ぎ取ると、思わず二人を怒鳴りつけた。この時間は塾の夏期講習に行っているはずだ。
「やべえ!」
そう叫んだ長男は手に持ったボールを捨てると、次男が持っていたスケボーを奪い取る。そしてスケボーに乗って自分だけ逃げだした。あっさり弟を見捨てるあの薄情さは、夫に似たに違いなかった。
「とまりなさい!」
私の命令に、次男は素直にその場で立ち止まるが、スケボーに乗った長男は駐車場をスイスイと滑るように逃げていく。
とても追いつけない。
と思った矢先、けたたましい金属音が駐車場に鳴り響いた。
見ると無数の空き缶が駐車場中に転がっていた。タバコを吸っていた男が、空き缶のゴミ箱を転がしたのだ。
「ちょっ!」
進路上に空き缶が散らばり動けなくなった長男は、たまらぬとばかりにスケボーを飛び降りる。そしてスケボーを捨てて、今度は缶を避けながら走って逃げようとする。
「次郎、ボールをよこしなさい!」
「は、はい。母さん」
私の命令に、次男は転がっていたボールを拾うと、私に向けて放り投げる。
ただのパスではない。やや高めの楕円形の軌道を描いたもの、それは私がもっとも得意とするコースだった。
私はボールを見据えながら両足に力を込めて高く跳躍し、渾身の怒りを込めて右手でボールを強く叩きつけた。
ママさんバレーのエースであった私が放ったアタックが外れるはずなどない。ボールは吸い込まれるように長男の背中に激突する。
「ふぎゃっ!」
長男は妙な声をあげてその場に倒れ込んだ。
深呼吸とともに悪を討った余韻に浸りながらも、私は全身の筋肉が悲鳴をあげているのを感じた。明日以降、筋肉痛が襲ってくるのは間違いない。
そんな私をみたタバコの男は、右手拳を突き上げてガッツポーズをしていた。
思わぬ援護 蒼空 秋 @reo0720
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