死にたがりの龍とドラゴンケアラー
Shiromfly
第1話 火口にて
『もうダメだ。死にたい。死なせてくれ。もういいだろうこの辺で』
「まーた始まった。何度も言ってるじゃないですか、簡単に死なれちゃ困るんですよ……」
『……小娘め、私の肩ほどの背の癖に、態度だけは尊大だ』
「それはお互い様でしょう」
『疲れた。腹が減った。眠い』
「火口までもうすぐです。それまで頑張って。もしかしたら今度こそ死ねるかも」
『その台詞、もう592回目だぞ』
「よく覚えてますね」
『龍だからな』
「とにかく、あなたは正しい場所と時に死ななきゃいけないんです。龍は正しく死なないと、世界の運命系が覆る……だから私は、正しくあなたを葬れる場所を探している」
『その説明は28回目……判っているとも。ボケ老人扱いするな』
「判ってるなら、すぐ諦めないでくださいよ」
『お前こそ龍葬の巫女を名乗るなら、さっさと死に場所を決めてくれないか』
「そうしたいのは山々なんですけど、私、一族の最後の生き残りなんですよね。ろくな引き継ぎも受けてないんで、細かい手順が……」
『それでよく偉そうに説教できるな』
「自覚はしてます。ほらほら、歩きますよ。もうすぐですから」
『593回目。もう歩きたくない』
「歩かないと死ねません」
『理不尽だ、この世界は……』
――――――
「つきましたよ」
『……熱そうだな……』
「何言ってんですか、湯加減じゃないんだから……」
『で、どうだ?』
「うーん……ここじゃない気がしますね。でも試しに飛び込んでみては?」
『断る』
「はい。じゃ次に行きましょ!」
『はあ……』
「その溜息も千回は聞きました。もうちょっと前向きになれません?」
『死というのはそういうものじゃない、もっとこう……眠るような、穏やかな波に揺られるような……』
「そうは言っても、あなた、龍なんですから」
『私はその定義と存在そのものを断ちたいんだ。何も残さずに消え去りたい』
「龍ってのはそういうもんじゃないんです。神話の代名詞であり、イデアの結像なんです」
『しかしその末路はどうだ? 伝説と言いながら広まるのは単なる噂やデマばかり。私には判るぞ。私の死後、人間どもは面白おかしく、私の名を穢し続ける。そんな恥辱には耐えられない――』
「手遅れですって! 散々暴れ回っておいて、それは我儘すぎやしません?」
『若気の至りだ。今は反省している』
「もう、いっそ国のひとつかふたつを道連れにして華々しく散るってのはどうです?」
『軽々しく言ってくれるな。しんどいんだぞアレは』
「まあ、今はもう飛ぶのも一苦労ですしね……」
『それに、それもまた結局、私を討った勇者の物語の添え物になるだけだ。ヤだ。ムカつく』
――――――――――
「さて、次は……北に行ってみますか」
『アバウトすぎる』
「仕方ないじゃないですか、都市を避けて遠回りしないと――」
――おい龍! ついに見つけたぞ。覚悟しろ! この俺たちが貴様を倒し、世界を救う――
「――ほら、こういうのに見つかるから……」
『ああ……またか……』
「またですね」
『頼む』
「はいはい」
――なんだお前は、女……!? ぐわー! 強いぞ、逃げろ! 覚えてやがれ!
「終わりました」
『早いな』
「もう慣れちゃいましたよ……」
『人間どもは、どうしてこうも……学習しないんだ。いつまでも龍を追い回して』
「それだけ龍が重要な存在ってことですよ。名声への憧れってのは厄介ですね。あなたの素材も高いですし」
『やめろ。想像したくもない。死後の私がまた歪む』
「だから私が代わりに撃退してるんです」
『……まあいい。それで、次はどうするつもりだ?』
「歩きながら考えましょう。世界は広いんですから」
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