たまには王道だっていいじゃない ~異世界からやって来た魔法少女が王道王道うるさいんだが~

黒品おかか

第1話 パンを咥えて曲がり角でぶつかるのは王道です


『勇者様、いいですか? 『王道』とは起こるべくして起こる物語ファンタスティックのことです』


 そう僕に告げると、彼女はパンを咥え……十字路に突進していったッ!


 剣と魔法あふれるこの世界で『魔法少女』なる彼女が求める『王道』とは一体なんなのか。

 もしかして、コイツとだったら、なにかとんでもない世界が見られるんじゃないか。スゲェーものが待ち受けているんじゃないか。


 まだ見ぬ果てしなき物語を追いかける。

 だって、僕たちの冒険はまだ始まったばかりなのだから!


 ――――ドガンッッッ。


「なんだぁこの娘っ子は。路地裏から急に飛び出してきやがって」


「すいませんすいませんすいませんすいません」


 何度も頭を下げる僕。

 肉付きいい男がチッと音を鳴らし、僕たちを睨みつけながら去っていく。


「チゼイ、もうやめようよぉ。こんなことして、新しい仲間が見付かるわけないよ」


「ほぉんなことはひゃひません、ふうしゃひゃま! プァンをくあえばばらはひり、はあひかどでひひとぶつほる」


 何事もなかったかのように彼女は胸を張る。


「もぉ~~、なに言ってるか分からないよ~。パンを頬張ったまま喋らないで」


「そんなことはありません勇者様! パンを咥えながら走り、曲がり角で人とぶつかる。これは新たな出会いなのです! これは王道なのです!」


 王都の真ん中で、臆することなくチゼイが声高に叫ぶ。

 通りすがる人々がチラチラとこちらを振り返る。


「ちょ、ちょっ、恥ずかしいからやめて! こんな一番の大通りで、なにもぉ急に。みんな注目してるよ……」


 僕の顔はきっと熟れた果実よりも赤いだろう。

 彼女の言動にもそうだが……なにより、僕たちならとんでもない世界が! なんて、さっき少しでも思った自分にも猛烈な面映ゆさを覚える。


「なにを恥ずかしがることがありますか。仲間探しに恥ずかしいことなんて何一つありませんよ!」


「仲間探しじゃなく、してる行為になんだけどな……。というかさ、行為自体もそうなんだけど……その格好しないとダメなの?」


 チゼイは人目など、一切気にしない。

 言動だけにとどまらず、格好がすでに只者ではないそれだからだ。


 おへそ丸出しな、上下に分断された服。薄紅に染まった布だけで覆う胸。装飾などが施されてはいるが、この辺りではまずお目にかからない格好だ。

 奇抜なのはさらに下半身だ。大きく膨らんだ裾まわりが、これでもかと視線を釘付けにする。


 なんでもチゼイ曰く『魔法少女の正装とはこういう物なのです!』とのことらしい。


「さぁ勇者様、そんなことよりも今一度やりますよ! わたしの王道センサーが告げています。新たな街で新たな出会い……それは王道なのだと!」


 そう彼女は告げると、左右に結われた桃色の髪をなびかせ路地裏へスタスタと入っていく。

 僕の静止を振り切り、パンを咥え直すチゼイ。


 して――再び走り出す!


 悲鳴と共に、今度は買い物中の主婦にぶつかっている。籠から転がった野菜を拾い集めながら、平謝りを繰り返す僕。


「――――なかなか見付かりませんね」


「当たり前だよ! 単なる迷惑行為だからね、これって。曲がり角で人にぶつかって見付けるなんて、初耳だよそんな方法。しかもパンまで咥えて……。君のいた世界では本当にこうやって仲間を探すの?」


「運命の出会いとは……唐突に起きるものなのですッ!」


「いや、唐突って。ぶつかりに行ってるだけだよね……衝突の間違いなんじゃ……」


 呆れて肩を落とす僕には目もくれず。連なる敷き石をコツンコツンと踏み鳴らして、定位置に戻るチゼイ。

 靴音が止み、構える彼女を見て不安がよぎる。


 こんなことを続けていたら、不審者だと思われてしまう。衛兵でも呼ばれたらなんて言い訳したらいいのか。実際、見た目からしてもう十分怪しいのに。


「ねぇー、そこの冒険者ギルドに行ってさ、そこで冒険者さんに声かけようよーー」


 そもそも仲間探しと言ったらギルドで探すのが常識。田舎育ちの僕でも持ってる知識だ。

 するとチゼイが立ち上がる。僕が指し示す先を一瞥すると、とんでもないことを言ってのけた。


「勇者様……。それはに反しますッ!」


「は、はいぃぃぃーーー!?」


 腕を伸ばして、掌をめいっぱい広げて拒絶する彼女。

 淡紅たんこう輝く瞳が僕を射抜く。いつものクリッとしたおめめはどこへやら。

 そんな真剣な眼差しを向けるチゼイを見ていると、僕の現実的な提案のが間違いなの? とさえ思えてくる。


 いやいやいや、圧倒されてる場合じゃない。


「王道に反するってなによ。もぉチゼイには何が見えてるの……。お願いだから現実路線でいこーよぉー」


「分かりました勇者様……。勇者様がそこまで仰るのならば、仕方ありませんね」


「あ、ありがとうチゼイ! 分かってくれたんだね!」


 ちょっと変わった子ではあるけど、理解を示してくれて嬉しいよ。何だかんだ言ってもチゼイは優しい子なんだよね、きっと。

 胸を撫でおろした僕は『それじゃぁー、冒険者ギルドへ向かぉー!』と右手を挙げた。

 すると、チゼイは踵を返して少しばかり歩いたかと思うと、姿勢が見慣れた体勢へとみるみる変化する。


 なんで……?


 首を傾げる僕に向けられてたお尻が持ち上がると――三度みたび駆け出した!


 走る彼女の背中が遠ざかる。分かり合えたと思った、僕の気持ちと体を置いて。


「キャーーーッ!!!」


 しまった、感傷に浸っていないで追いかけねば!

 大通りとは全く逆。まさに裏道の曲がり角に大急ぎで向かうと。


「かかりました勇者様ッ!!!」


 今日一番の大声が路地裏にこだます。


 かかりましたって……。魚じゃないんだからそんな言い方しないでよ。

 辿り着いた僕が目にしたものは、チゼイの背中と、その足元で倒れ込む一人の少女。


 そしてあたかも対峙するように、複数の男が群がる光景だった――――



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