◆精霊蝗虫◆
茶房の幽霊店主
第1話 精霊蝗虫(ショウリョウバッタ)
※(店主と知人の体験談です)
※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)
昔、勤めていた会社の先輩の話です。
※※※※※
2025年から、自由気ままな「怪談蒐集」のフィールドワークを始め、小説・手記などの文章に落とし込んでいます。
先輩には日本の「三大怪談」の一つを調べていた際、舞台となった場所の案内をしていただきました。
その帰り道で、昔懐かしい喫茶店へ入って早めの晩ごはんを食べながら、奇妙な体験談を聞いたのです。
先輩の故郷は、今回フィールドワーク先に選んだお城が見える城下町ですが、小学生の限られた数年、私と同じ市・町内で住んでいました。
『これ、今も夢だったのか、まったくわからないんだけど』
夏の夕方、いつも一緒にいた同じ小学校の友達と、アパート近くのお茶の木に囲まれている空き地で遊んでいたそうです。近所でお茶の木はそこでしか見たことがなく、私も知っている場所でした。
『○○神社の敷地が見える、H瀬君が住んでいたアパートの近くですよね』
『そうそう!懐かしいな。あそこ、横に畑が少しだけあって、奥の方は草引きしてないから鬱蒼としててさ。“かくれんぼ”するときよく潜ってたんだ』
同じ空き地で自分も奇妙なものを見た記憶があるのですが、話の腰を折りたくなかったので静かに耳を傾けていました。
『夕方に友達とかくれんぼしていて、あと、1回で解散しようって感じだった。
体感で20分か30分。最後まで誰にも見つからなかったから、背丈を超えている草むらから立ち上がって、みんなの姿がないか探していた。
草の短い原っぱになっているところまで出て、鬼役が走り回っている気配もしないし、「あ。これ、おいてけぼりにされた」って、そのまま家に帰ろうとしたら、真後ろでガサガサって人がいるのかってぐらい、音がしたんだよ。
「誰か同じ場所に隠れていたのか?」振り返ったんだけど、折れ曲がった草の上に模型みたいにでっかいバッタがいたんだ。大きさは50センチぐらいかな?
びっくりしすぎて呆然としていたら、ものすごい音を立てながら神社の方角へ飛んで消えていったんだよ。アレ、幻覚だったのかな?それともあんなでかいバッタが実在しているのかな?……変な虫を見たって話』
『そのバッタ、ショウリョウバッタでしたか?』
『そう!草みたいなヤツ!えぇ!?なに?それって霊視したとか?』
『いいえ、霊視はしていません。心当たりがあったので』
『マジか!?他にも誰か見たとか?』
頷いて、過去、お茶の木に囲まれた空き地で同じように「巨大バッタ」見たことを話しました。
『飛び去るとき、束ねた小枝を折るような、バキバキという音に近い羽音を立てていました』
『……じゃあ、アイツはおばけではなく、実在していたバッタかもしれないってことか』
※※※※
先輩の話とは別に、同県で2件の目撃談がありました。これは語り手・本人とその母親から直接聞いたものではなく、同県に在住している知人からの又聞きです。
体験者の母親は1980年代に高校生だったとき、学校の帰り道で「巨大バッタ」に遭遇し、あまりの恐怖で自宅まで急いで逃げたが、窓の外を大きな羽音だけが聞こえ飛び去っていったとのこと。(これを聞いていた体験者の父親は「見間違いだ」と笑っていた)
数十年後、体験者本人は複数の人たちと、遮断機近くで貨物列車の通過を待っていた。そこへ体長1メートルぐらいのバッタが飛んできて、警笛とともに巨大バッタが轢かれるのを目撃、列車の運転手も衝突したものを確認したが、原形を留めておらず、しかし、確かに実体を持った「何か」がぶつかった体液・内臓(?)らしき痕跡が列車にも残っていた……。
駆けつけた人もいたが、「巨大なバッタが飛んできた」以外何も分からなかったようです。
※(周辺で人間の遺体が発見されるなどはなく、人や犬が飛び込んだものでもなかった)
後日、本人や現場にいた人物以外の近隣住民の話で、園芸用プランターの上に見たこともない大きさの昆虫らしき後ろ足の部分、その片方だけが残っていたとの噂話もあったが、場所が特定できずこれについての真偽は不明。
体験者は、農薬で突然変異を起こしたバッタだったかもしれないと考察していたそうです。
また、時間の経過で出来事の詳細が薄れていきそうなので、「本当に見たのだろうか?」と自身の記憶を疑うこともあり、同じようなバッタの目撃者がいないか問いかけていた。
聞いた限りの情報で種類はわかりませんでした。
同県で生息しているバッタの種類は以下。
トノサマバッタ、ショウリョウバッタ(日本最大級)、クルマバッタ、オンブバッタ、マダラバッタ、ヒシバッタ、など。
このうち、大型のバッタは「ショウリョウバッタ」。
メスの方が大きい個体が多く、全長14~18センチにもなるそうです。
先輩と私が同じ場所で見た「巨大バッタ」は、子供の頃の記憶なので、物の大きさを正確に把握できていなかったかもしれません。
神社の周辺は開拓業者が避けていて、自然が手つかずで残っていました。
ですので、産業廃棄物の影響、農薬もそれほど使用されていなかったと思います。
しかし、同県の目撃談では、母親は高校生時代、遮断機前で待っていた本人は中学生、同じ場所にいたおばあさん、騒ぎを聞いて駆けつけたおじいさん、近隣住民、電車の運転手など、年齢もさまざまだったので、この町に「1メートル前後の何か」がいたとしか思えない状況です。
ウイルス感染による脳炎や片頭痛で起こる【アリス症候群】は、周りの物が大きく(拡大視)、または小さく(縮小視)見える、壁や道が歪んで見える。などの症状がありますが、「巨大バッタ」を目撃した全員が同時期に、「何らかの要因で脳炎」を起こしていた確率は極めて低いと思われます。
関西の他の地域でも「30センチほどのバッタを見た」という話もあるので、ショウリョウバッタに似た、別の種類が昔は生息していた可能性もあります。
※※※※※
「自分だけが見ていたわけじゃなかったと知ったら、ちょっとスッキリした気がする。腑に落ちたかな。こういう体験は、気軽に話せる内容でもないし」
「気持ちの整理がついたのならよかったです」
「いつまで怪談を書くつもりなんだ?」
「……まあ、とりあえずは99話か100話。その先は考えていません」
駅まで見送ってくれた先輩に一礼してから電車へ乗り込み、この度のフィールドワークは、先輩の体験談を聞くことで終わりの時間を迎えました。
◆精霊蝗虫◆ 茶房の幽霊店主 @tearoom_phantom
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