第4話 邪教狩り
「おい!早くしろ!」
「馬の準備はまだか?」
鐘道たち南伯隊が里へ戻ると、兵舎は右往左往する守備兵たちと、白い鎧を着た近衛兵たちとでごった返していた。
「なんだなんだ?いったいどう言う状況だ?」
南伯がその巨体で人波を掻き分けて叫ぶ。
広間の奥にいた女性が、南伯に気づいてこちらを向いた。
「南伯か!良いところへ戻った。
帰って早々で悪いが、仕事だ。すぐに準備しろ!」
どこか幼さを残しながら、それでいて研ぎ澄まされた刃のように尖った声が広間に反響する。
前髪を右の眉の上で分け、そこから左下がりにカットした独特な髪型をしたその女性は、髪と同じ深い藍色の目を光らせ厳しい表情をしていた。彼女は近衛部、近衛兵団の団長を務める董鶴だ。
「はっ!董鶴様!ただちに準備して参ります!」
南伯は両腕の拳を胸の前で合わせて、一礼をすると、振り返り鐘道たちを見る。
「と言うわけだ。各自装備を整え、ここへ戻れ!」
花魚ががっくしと肩を落とすのが、見なくてもわかった。
鐘道たちが武器庫から戻ると、董鶴が遅いと言わんばかりの形相で腕を組み待っていた。
その横に南伯が立っている。
南伯の向かい側にもう一人、艶やかな黒い長髪を後ろで一本にまとめた背の高い男が立っていた。
長いまつ毛に切れ長の黒い瞳、透き通るような白い肌、すらっと伸びた手足。身長さえなければ女に見間違われるかもしれない。
その美貌の持ち主は、鐘道、花魚、鉄江の順に、まるで値踏みでもするかのように眺めると、静かに口を開いた。
「遅いぞ。」
少し鼻にかかった声で、冷たく言い放つ。
「まぁ良い。
董鶴がそれを止める。
月晶と呼ばれた男は、近衛兵団の副団長である。
纏う気配が、刃物みたいに冷たい。
鐘道は息を吸いそこねた。
鐘道を見下ろし月晶が言う。
「守備隊か。
君たちには期待しているよ。」
予想に反する柔らかい言葉に、鐘道の肩の緊張が一瞬緩んだ。
「ーー弓除けくらいにはなってくれると助かる。」
すぐに鐘道は、月晶に一瞬でも気を許したことを後悔した。
月晶の悪い噂は守備隊の中でも有名だ。
厳しい訓練で部下を再起不能にしたとか、熊退治の際に見殺しにしたとか、隊士が話していたのを聞いたことがある。
滅法腕が立ち、仕事ができることから、団長の董鶴からは重宝されているようだが、性格は最悪だ。
この月晶と言う男が、守備隊を労るなど、するわけがない。
ひるむ守備隊の中で鉄江だけが、即座に兜を脱ぎ、見開いた目から火花を散らす。
鐘道はそれを後ろ手に制止しながら言った。
「あまり我々をいじめないでください。副団長殿。」
鐘道の目は笑っていなかった。キリキリと歯を食いしばりながら、月晶を睨む。
月晶は相変わらず冷たい目をしていたが、その口元が微かに吊り上がるのを鐘道は見逃さなかった。
一触即発の空気が漂う。
狙ってか狙わずか、そこで董鶴が声を上げた。
「急遽召集してすまない!
噂に聞いた者はいるかもしれないが、竜を討たんとする邪教の輩が近くの廃倉庫に潜伏している。人数は不明。武装している可能性が高い!
これは竜を鎮めんとする我々、竜人の里と、それを支持する全世界に対する重大な叛逆である!」
董鶴が高らかに叫ぶ声が、広間の冷気を切り裂いた。
「近衛小隊と守備隊は、今から邪教の隠れ家に急行し、ただちに制圧しろ!
指揮全権は守備隊の南伯へ預ける!」
董鶴の右腕が南伯を指し、南伯が一歩前へ出る。
「部隊を預かる南伯だ。
今回の作戦を、反乱分子の制圧だからと甘く見ないで欲しい。俺たちの手に世界の命運がかかっていると思え。
近衛と守備兵、力を一つにして戦おう。
行くぞ!世の秩序と安寧のために!」
南伯の鬼気迫る鼓舞を受けて、近衛も守備兵も関係なしに、兵たちの血が一気に沸騰する。
広間は熱気に溢れ、おうと応える猛々しい声が所々に上がった。
「すごいな。南伯さん。」
鐘道が言う。
「お前知らなかったっけ?」
鉄江が言った。
「近衛からしたら、守備隊はバカにされがちだけど、南伯さんは別。元近衛で、前副団長だからな。
董鶴様も口には出さないが、頼りにしてるよ。」
「へぇ。」
鐘道は壇上の南伯を見る。
南伯の目は、じっと正面を見つめて微動だにしない。
自分もいつか南伯の描く理念や正義を理解して、良き部下として共に歩ける日が来るのだろうか?
無意識に鐘道の背筋が伸びる。
月明かりが優しく照らす中で、兵たちはそれぞれの馬に乗り、邪教のアジトへと駆け出した。
半竜の巫女ーーそれでも、君に生きていてほしかった 離歌 @rika_2026
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