四つ葉のクローバー

「私、生まれ変わったら四つ葉のクローバーになりたいんです」

 夕焼けがじんわりと病室を満たしてきた頃、浅葱色のカーテンの向こうから、あなたのか細い声が聞こえてきました。あんまりにも唐突だったので独り言かと思いましたが、影がそっとこちらを向く気配がして、私はしゃんと背筋を伸ばしたのです。

「……なんでまた、四つ葉のクローバーなんです?」

 そう聞くとあなたは、

「特別になりたいから。私とあなたみたいに悪い意味で特別なんじゃなくて、四つ葉って、良い意味で特別じゃないですか」

 と言って、ゴホッと咳を一つしました。

──悪い意味で特別。

 私とあなたは、末期がんでした。だからあなたは、『悪い意味で特別』なんて言い回しをしたのでしょう。

 丁度、地平線に日が沈みました。世界が輪郭を失う瞬間は、正に私たちの人生を表しているようで陰鬱な気持ちになりましたが、黄昏時の美しさに、なかなか悪くないとも思いました。

「でも、四つ葉のクローバーっていいことばかりじゃないんですよ」

 なんとなく返す言葉が見当たらなくて黙っていると、あなたは言葉を零すように続けます。

「──四って不吉じゃないですか?」

「なんだ、そんなことか」

 考えていたよりしょうもないことだったので思わずクスッと笑うと、あなたも笑って、暗くなった病室が私たちの笑い声で満たされました。といっても病室ですし、その頃は二人の病状も深刻なものでしたから、端から見れば小さなモスキート音にしか聞こえなかったでしょう。

「私たち、生まれ変われますかね?」

「どうだろう」

「生まれ変わっても、また隣同士だといいですね」

「そうですね」

「じゃ、眠いんで寝ますね。おやすみなさい」

「はい。おやすみなさい」

 それが最後の会話でした。それまで全然眠くなかったのに、あなたの寝息を聞いていると無性に眠くなって、私もまたすぐ眠ってしまいました。

 目を覚ますと、頭上には快晴が広がっていました。私は吹き抜く風を身体全体で感じ、同時に幸せを掴んだような感覚に浸っていました。

 周りは、クローバーで埋め尽くされています。ふと横を見ると、葉っぱを目一杯伸ばして佇むあなたがいました。頭には、四枚の葉っぱが乗っています。

 私はどうだろうと気になって頭に手を置くと、三枚あるようです。

 その時、辺鄙な考えが浮かびました。

 四枚と三枚。隣同士。

「七なら、縁起もいいんじゃないでしょうか」

 あなたは笑顔で、風に揺られ続けていました。

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