正月は確認だけでいい

ちあきっこ

1話完結

(2016/01/01)

今朝も、五時に目が覚めた。

習慣というのは怖いもので、正月だというのに、いつもの納豆と十六穀米と味噌汁を用意しかけて、台所で「いかんいかん」と我に返る。今日は、正月だった。


六時ごろから、母と二人でお雑煮を作った。

少し前まで喧嘩をして、距離を置いていた。仲直りの言葉は、まだ交わしていない。でもここは家族だ。長年の、少し歪なチームワークで、言葉少なに作業は進んでいく。これを仲直りと呼んでいいのかは、よくわからないまま。


父も起きてきて、ほんの少しの日本酒で乾杯した。

我が家のお雑煮には、昔から牡蠣が入っている。顆粒だしに薄口醤油、小さな丸餅。どこの地方のものかは、はっきりしない。広島の島出身だった祖父の影響だろうか。理由は曖昧だけれど、味だけは、昔から変わらず確かだ。


片付けを終えて、今年は長田神社へ初詣に行った。

「店がたくさん出てる方が楽しいやろ」

父の一言で行き先が決まるあたりも、いかにも我が家らしい。


車移動ばかりで電車に不慣れな父の様子が、少しおかしかった。朝九時ごろの境内は思ったより空いていて、参拝もおみくじも驚くほどスムーズだった。結果は、父と私が吉、母だけ末吉。父は、遠慮なく声を出して笑っていた。


露店では、はしまきとベビーカステラと、爆発したような栗を買った。

正直、どれも割高だ。でも、露店にクオリティを求めてはいけない。雰囲気を味わうものなのだと、毎年のように自分に言い聞かせる。


帰り道、地下道で大人三人が揃って迷子になった。

先日の旅行先でも、似たようなことがあったなと思い出す。なんとか駅を見つけて、家に帰るまでが初詣だ。


帰宅後、年賀状を確認すると、やっちゃんから一枚届いていた。

そこには、「来年からは年賀状を出さない」ということが、丁寧な言葉で書かれていた。急にやめてしまう人も多い中で、こうして知らせてくれるのが、少し新鮮に感じられた。


私も来年からは、LINEで済ませようかと年賀スタンプを買ってみた。

手書きで図案を考え、相手の顔を思い浮かべながら書く年賀状が好きだった。でも、時代なのだろう。八十五円も、積もればそれなりになる。


来年のことは、今年の年賀状がすべて返ってきてから考えようと思う。

挨拶は大切だけれど、重荷になってはいけない。


正月は、何かが始まる日というより、

当たり前だったことが、少しずつ形を変えていくのを確かめる日なのかもしれない。


そう思いながら、今年も始まってしまったな、と

ひとり、小さく祝った。

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