一作目 完璧すぎる犯罪(ミステリー)

大手保険会社に一人の男がいた。

完璧主義のエリート。

真面目すぎるがゆえに少し怖い印象もあるが、

抜け目のない仕事ぶりで周囲からも取引先からも信頼されていた。


私生活も完璧だった。

毎日同じ時間に起き、ジョギングから朝食まで分刻みのスケジュール。

デスクは常に整頓され、ペン一本の置き場所ですら決まっている。

持ち物にはすべて名前を書き、なくし物をしたことがない。


そんな男にも唯一の弱点があった。

生まれてから一度も恋をしたことがなかった。


完璧であるためには恋もしなければならないと考えた男は、

旧知の友にも相談し、

1ヶ月で100冊を超える恋愛指南書を読み、

ひとつの結論にたどり着く。


危険な香りのする男がモテる。


だが“危険”は完璧主義と相反する。

悩みに悩んだ末、男はある方法を思いつく。


横領。


犯罪であることは承知の上。

だが会社の規則も制度も熟知している男にとって、

会社の金を盗むことは難しくなかった。


半年以上計画を練り、

残業の理由づくりのために大きなプロジェクトを立ち上げ、

金庫の鍵、防犯カメラの死角、周囲のスケジュールを把握した。


犯行当日。

送別会で経理部が不在になる日。

男は一度退社したふりをしてから地下駐車場の脇道を通り、

防犯カメラの死角を縫って金庫へ向かった。


作った合鍵は難なく錠を通り、

金庫は静かに開いた。


男は“危険な香り”を演出するため、

ありったけの金を盗んだ。


帰宅後、金を単位別に分けて収納し、

使った備品は袋に分けて燃えるゴミへ。

今日も完璧だった。


翌日、初めての悪事によるものだろうか。

男は発熱で会社を休んだ。

週明け、彼が会社に来ることはなかった。

月末には、男は退職することになった。


ある家の片隅に置かれた新聞には、

大きな見出しが踊っていた。


大手保険会社の社員が横領か!?

不正に作られた名前入りの合鍵が決め手に

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