恵まれてただけですので
まんぷくねこ
序章
序章
都内某所、8月の中旬。
蝉の鳴き声が気温をさらに
押し上げるような真夏日。
冷房の効いた一流ホテルの広間で、
人より一段高い場所に立つ青年がいた。
日本の二大出版社のひとつ、A社。
そのA社が年に一度開催する短編小説コンテストの授賞式の最中だ。
周囲の貴賓たちは、青年を“未来ある若者”として見るというより、“玄人”を見るような空気をまとっている。
授賞式ではあまり見ない光景だ。
インタビュー係の社員が青年にマイクを向けたことで、
その奇妙な雰囲気の理由が分かった。
「なんと、ここ数年で複数のコンテストに入賞されているそうで。
暗めの世界観で統一されているもののジャンルも幅広いとか——」
この事が業界内で少し話題になっているらしい。
A社のホームページに掲載するインタビューだということで、せっかくならと入賞のコツを尋ねられた青年は、
眉ひとつ動かさず、にこやかにも真顔にも見える表情で答えた。
「コツなどはありませんよ。恵まれてただけですので」
その言葉の真意に気づく者はいるだろうか。
ホームページには、
この青年の過去作の“あらすじ”も特別に掲載されるという。
少し覗いてみることにした。
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