逢魔が時の怪談語り

無月弟(無月蒼)

第1話 📹放課後の怪談語り

 太陽が西へと傾いて、校舎に影がかかりはじめる。


 教室を出た私は、真っ直ぐに部室棟へと向かう。

 うちの中学では文化部の部室は部室棟にまとめられていて、私の入っている動画研究部の部室も、例外じゃない。


 部室までやってきてドアを開くと、部屋の中には長方形のテーブルがあって、男子生徒と女子生徒が椅子に座ってテーブルについている。

 どうやら来たのは、私が最後だったみたい。


「ごめんね、遅くなって。先生に用事を頼まれて、長びいちゃって」

「平気よ。そんな急ぐことじゃないし」


 返事をしたのはボブカットの女子、葵ちゃん。

 私と同じ1年生で、10年来の付き合いの親友。幼馴染みの女の子なの。


 私は椅子に座りながら今度は男子生徒、もう一人の幼馴染みの悠真くんに声をかける。


「悠真くん、今日はバスケ部の方はいいの?」

「ああ、休むってちゃんと言ってある。そろそろこっちもやっておいた方がいいからな」


 悠真くんはバスケ部と動画研究部を掛け持ちしていて、普段はバスケ部をメインに活動しているんだけど、定期的にこっちにも顔を出してくれているの。

 そのおかげでわが動画研究部は、なんとか廃部にならずにすんでいる。

 動画研究部の部員は、私達3人だけ。

 しかも3人とも1年生なんだよね。


 葵ちゃんと悠真くん、それに私、美月は、物心つく前から仲良しの幼馴染み。

 同級生からは昔から仲がよくて、部活まで同じだなんて羨ましいって言われてる。

 確かに2人は、私の自慢の友達だ。

 ……本当は他にも、そんな大切な幼馴染みがいたんだけどね。


「美月も来たことだし、撮影はじめようか。悠真、カメラを用意して」

「了解」


 私達は慣れた手つきで撮影の準備をはじめていく。

 といっても、なにも大がかりな撮影をするわけじゃない。

 今から撮る動画は、いたって簡素なもの。

 カメラで顔が映らないよう、椅子に座った1人を撮影しながら、その1人が話をしていくというもの。


 話す内容は、怖い話や都市伝説。

 いわゆる、『怪談朗読』ってやつなの。


 動画投稿サイトを見てみると、怪談朗読って結構人気があって。

 チャンネルによってはフォロワー数が千を越えてるところもある。


 すごいよね。

 私達の怪談朗読もネットに上げてはいるけど、知名度の低い中学の部活での配信。

 残念ながら視聴数もフォロワー数も、そこまで多くはないの。

 まあ、別に良いんだけどね。

 だって視聴数を稼ぎたくて、怖い話をしてるわけじゃないんだもの……。


 はぁ、入部した当初はもっと、『歌ってみた』とか『チャレンジしてみた』とか、色んな動画を撮っていたのになあ。

 だけど今は撮る動画のほとんどが、怪談朗読。

 しかも本当は私、特別怪談が好きなわけじゃないんだよね。


 それどころか、むしろ逆。

 それはたぶん、葵ちゃんも悠真くんも同じだと思う

 口にしたことはないけど本当は2人とも、この定期的にやってる怪談語りを、うんざりしているかもしれない。

 けど、やめるわけにはいかない理由があるの……。


 部室の外から、ザワザワと風の音が聞こえる。

 私がくるのが遅れたせいで、時刻はもう午後5時になろうとしているけど。

 さっきよりも外は少し暗くなっていて、怪談を語るにはちょうどいい時間かな。


「それじゃあ、今日は誰からはじめる?」


 悠真くんが言うと、葵ちゃんがスッと手を上げる。


「私から話すわ」

「やる気あるな。何か新しい話でも仕入れたか?」

「そういうわけじゃないけど、時間をかけても仕方ないでしょ。パパッと話して、パパッと終わらせましょう」


 なんとも投げやりな言い方。

 けど、私もそう思う。


「じゃあ葵ちゃん、お願いね」


 顔が映らないようカメラを向けると、葵ちゃんがゆっくりと喋り出す。


 時間は夕方。

 こうして今日も放課後の、逢魔が時の怪談語りがはじまった……。

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