魔王軍のおもてなし~転生サウナー、魔王城で癒やし施設を開業する~
待人 梢
第1話 始まり
「起きなさい。起きるのです。」
誰だよ。起こさないでくれ。なぜかものすごく眠いんだ。
「いい加減起きなさい。もうあなたは死んだのです。眠いはずがありません。」
眠いはずがないって言ったって、現に眠いんだ。さっきまで雪山を登っていて、クタクタなんだよ。あれ?登っていたはずなのに、なんで寝ているのだろう。ちっとも寒くないし、先ほどまでの疲れが少しも残っていない。
「良いから目を開けてみなさい。あなたがいた雪山ではありません。」
俺は横になったまま、目を開けた。雪もなければ山でもない。そこにはただ、平坦な地面な地面が広がるだけ。あたりは真っ暗だが
、一箇所だけ強く光っている場所がある。
「やっと起きましたね。」
先ほどから俺に語りかけてくる声は、どうやらそこから聞こえているらしい。
「なんだお前?どこから話しかけている?」
「私はあなたたちの世界では、神と呼ばれている存在です。」
光の中のその声は、とても優しい女性のように聞こえる。
「あなたは、雪山で滑落して死んだのです。捜索隊がもうすぐ探し始めることですが、谷底深くに落ちたので、少なくとも雪が溶けるまで見つかることはないでしょう。」
だんだん思い出してきたぞ。確かに、俺は山の稜線を歩いているときに、うっかり足を滑らせて・・・。
「ああああ!くそ!もう少しだったのに!!!」
「そんなに登頂したかったのですね・・・かわいそ・・・」
「登頂なんてどうでもいい!俺は、山頂でサウナに入りたかったんだ!」
「え、サウナ?」
そう、俺はサウナに目がない。銭湯から健康ランド、ジムの備え付けに屋外サウナ。その全てを愛している。
「え、山で死ぬものは登頂に強いこだわりを持っているというのに、あなたは違うのですか?」
呆れと戸惑いが、声から感じ取れる。
「さっきも言ったがどうでもいいんだ山頂は!俺は、山頂でテントサウナを立てて、積もった雪でクールダウンする、最高の整いを求めていたんだ。」
そう。俺は自分で言うのもなんだが、なかなかのサウナバカだ。サウナをテーマにしたドラマが流行る前から通っている。
「そうですか。人類を作ってから数百年以上。ある時から、入浴から派生してサウナが生まれ、魅了される人間は数多いますが、こんなにも以上な執着をもつ化け物を産んでしまうとは。」
そりゃそうだ。家族も恋人もいない。特別な趣味もない。そういう持ち合わせていない人間にも、サウナは平等に気持ちがいい。
「困りましたね。登山が趣味の人間を見繕い、山岳付近の村に転生させ、魔王軍から街を守ってもらおうと思ったのですが。」
転生?俺はそんなにすぐに生まれ変わるのか?
「転生ってアニメとかでよく見るあの?異世界転生ってやつ?俺、そういうファンタジーはあんまり知らないんだけどな。」
「そうです。ここは本来、村に転生する人を選別し、スキルを与えて貢献してもらい、ネクストライフの準備を整える場所です。最も、あなたは山登りのスキルがないため、違う部署に送ることになりますが。」
「他の部署ではどういうところに転生できるんだ?」
そうですね。と声は言い淀む。
「あなたの生前を見ると、農業も漁業の経験もなく、かといって一般社会人としては下の下。特別得意なこともなく、こういう人間はもう、家畜として転生し、人間に食べられるのを待つか、魔王軍に連れ去られるのを待つか」
自分の人生を振り返ってみてつくづく思うが、ろくな選択肢がない。就職活動の時も、自分の得意分野がなく、なんとなく入ったんだっけ。
「ちなみに、魔王軍に連れ去られた場合って・・・」
「食べられますね。」
「どのみち食べられる運命しかないんかい。」
「すみません、もうあなたには食料になる選択肢しかないようです。」
「そんなの嫌に決まってるよ。なんで、食料になること前提で、生まれ変わらなきゃいけないんだ。」
「そうですね。あとは、魔王軍をなんとかする為、命を使ってくれるという契約をしてくれるなら、特別申請を通すこともできますが。」
お、その特別申請システムっていうのは、聞いている限り、自己申告でいけそうだぞ?家畜として育てられているうちは、食っちゃ寝食っちゃ寝と、自堕落に過ごしていれば快適だが、出荷に怯えなくてはならない。それに比べて、嘘をついてでもやる気アピールをして、転生してからのんびり暮らせばいいじゃないか。
「わかった。使うよ。その村のために命をかけよう。」
「あれ、心なしか先ほどよりやる気ですね?」
「そりゃ、食べられるのは嫌だからな。」
「そうですか。辛く厳しい生活になるかも知れませんが、本人がそういうなら、山岳地帯の村近く位に申請します。」
「ああ、頼んだ。」
「それでは」と声がいうと、俺の体を温かな光が包み込んだ。
「言い忘れていました。特別申請の場合、スキルの付与はありません。」
「え?」
「勇気とやる気が武器なので」
「なのでじゃねえ!聞いてないぞ!」
「ですから、言い忘れていたといったじゃないですか。」
「なんて適当な神様なんだ。」
「まあまあ、餞別として前世で持っていた持ち物を一緒に送ります。少なくとも、食料が尽きる前に村に行き、衣食住を整えてください。」
俺の体が、下半身から徐々に消えていく。
「持ち物って言ったって、雪山キャンプ用の装備しかないぞ!食料もカップ麺とゼリーが残っているだけだ」
「そこまでは責任持てません。先ほども言ったように、困るようなら早く村にいくのです。村にはギルドがあるので、そこでしばらく目面倒を見てもらうといいでしょう」
もう、胸の辺りまで透けてきている。
「あと、もう一つ言い忘れていました。」
「ちょっと待て!キャンセルできないから、今全部デメリット説明してないか!?」
「そんなことありません。いい忘れは誰にでもあることです。」
もう、首下まで消えかかってきた。体の感覚はもう全て消えている。
「もう消える!早く言い忘れてたことを教えてくれ!」
「今から行く、ワースの村。そこに特別申請枠で送るのはあなたが初めてになります。」
「だから?」
「ですから、スキルのない人間が初めて村に行くことになるのです。突然現れたスキルなしの人を、快く迎えてくれるかわからないので気をつけて」
おいおい、一番重要なことを最後にぶっ込んでくるじゃないか。文句の一つも言いたかったが、既に鼻まで消えている。文句の一つも言えやしない。
「あと最後に、魔王軍には火、水、雷、植物を操る四天王、魔王に使える幻術使いがいるので、そちらの対策もお忘れなく。それでは良いセカンドライフを。」
薄れゆく意識の中で、最後の言葉を聞き取る。
やっぱり、一番重要なところ隠してたじゃねえか。
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