両眼を刳り貫かれた男

たち

欠損という事実

眼を失った男がいた。因果がある訳でも、象徴である訳でも、神がいた訳でもない。ただ、忽然とその事実だけが存在していた。男は途方も無く、人生を進む。


眼を失った男は、意味も無く窓の外を眺める。眼の縁の患部には、抉り取られた様に、影だけが残っていた。人々は其れを悍ましく思い、男を憐れみながらも非道ひどい扱いを続けた。男はこの無残な人生に、在る違和感を憶えた。


自分は何時からこの様な眼を持っていたのだろう。

男は、皮肉にも目の前に広がる暗闇に対し、疑問を滲ませている。


男は思い出そうとした。

だが、何を思い出せばよいのかが分からなかった。

世界を見ていた頃の自分が、どこに立ち、何を見落としてきたのか。

それらは形を結ぶ前に、暗闇の中へ溶けていった。

ただ、もう過去に眼を向ける事は出来ない。

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両眼を刳り貫かれた男 たち @ier_tachi

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