失恋促進モデルVer.1.0――東大首席のデータ解析女子、おなら一発で失恋に失敗する――
青二才
第1話:失恋とは、単なる計算ミスである
失恋とは、単なる計算ミスである。
確率の読み違え。感情の過大評価。意思決定の誤差だ。
——という話を、合コンで力説したときのこと。
場の空気が、凍りついた。
みんなグラスを持ったまま硬直し、誰かの氷が「カラン」と鳴った。
私はその音を聞き逃さず、静かにメモを取る。
> 沈黙時間:平均8.3秒
> 社会的距離:臨界点突破
以来、友人たちは私を「恋愛バグ修正女」と呼ぶようになった。
悪口のつもりなのだろうが、統計的には誤っていない。
恋愛とは、欠陥だらけの感情プログラムだ。
だからこそ、私はそれを制御しようと決めた。
私、鷺沼梨々香、二十八歳。
製薬会社の研究職で、専門はデータ解析とモデル構築。
高校時代は「学校一の秀才」と呼ばれ、東大理学部を首席で卒業。
……事実なので仕方がない。
論理は裏切らない。
統計は公平で、データは嘘をつかない。
唯一不確定なのは——恋愛中の人間だ。
たとえば、離婚には社会的・経済的損失が伴う。
財産分与、精神的ダメージ、周囲への説明。
一方、交際の破局は軽すぎる。
数回のデートで始まり、「やっぱ違った」で終わる。
なぜ、結婚は重く、別れは軽いのか?
同じ“関係の破綻”なのに、理論がまるで一貫していない。
——だから私は、“失恋しない”と決めた。
ただし、私の場合の「しない」は、物理的に起こらないという意味だ。
私は絶対に告白しない。
まず自分の価値を最大限に引き上げ、相手に「逃したら損だ」と思わせる。
そして、向こうから告白させる。
スタートから主導権を握り、万一離脱の兆候が見えたら先に切る。
感情よりプライドが先に動く。
それが、私の“敗北回避戦略”。
「そんなの恋じゃないわよ」
友人の美香は言う。
彼女はいわゆる恋多き女。
感情のローンを組んででも恋をするタイプだ。
私はそんな彼女を尊敬している。
——観察対象として。
「恋なんて理屈じゃないの、心で感じるものなの!」
「心? 心拍数ならApple Watchでも測れるわよ」
「そういう事じゃないの。もっとこう、計算できないキラキラしたやつ!」
「予測不能な資産変動を、世間では**『投機』あるいは『バクチ』**と呼ぶわ」
「……あんた、恋愛を何だと思ってんの?」
「出口戦略のない不良債権」
「出たよ」と呆れて笑う。
でも私は笑えない。
恋愛は勝敗のある競技だ。
優位に立てば穏やかに終われる。劣勢になれば痛みを伴う。
——失恋とは、プライドの敗北である。
だから私は、絶対に負けない。
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