After the lights

泡沫夢。

After the lights (Prologue・短編)

『After the Lights』

俺は外の七色のネオンの光が自然と吸い込まれるような暗い駅の改札に立っている。

駅は暗いのに、切符売り場だけは外の光を受けて輝いているように見える。

俺は思わず苦笑した。

自分の足音が駅の静かな構内に、低く重く響く。

「もうあの頃には戻れない。これが自分の選択なんだ。」

そう自分に言い聞かせても、過去に思いを馳せずにはいられない。

***

ある冬の日だった。もう日付は覚えていない。何かの記念日だったのかもしれない。

最寄りの駅にイルミネーションがあるからということで彼女が俺を連れ出した。

駅のイルミネーションは燃えるように自己主張する赤と赤に照らされて輝くような少し淡い黄色が目立っていた。

「綺麗だね。どっちの色が××くんは好き?」と、俺に聞いてきた。

「俺は黄色かな。照らされて輝く感じが1番俺に合ってる」

「私は赤色。火が燃えるように輝く感じがいいの。」

「今年も、ちゃんと見れたね」

「俺は寒いのが苦手だから..でも、一緒に来れてよかった。」

どこからか音楽が流れているみたいだ。低いけど、それでいて甘い。

人の歩く足音と完全に調和していて、一体となって曲を演奏しているようで、美しい。

「寒くない?大丈夫?カイロあるけど使う?」

「今、手繋いでるんだから、あったかいよ。」

「俺の手、冷たくないの?」

「冷たいけど、手が冷たい人って心が温かいっていうじゃない?」

「俺の心はそんなに温かくないよ。」

2人で声をあげて笑う。

気づいたら、光に混じって白いものが落ちてきた。

「あ、雪だ。」お互い同時だった。

歩いていると俺はいつのまにか笑っていた。

「あそこの売店で、ココア買おうよ。」

彼女は可憐で、親切だ。俺のことをいつも気遣ってくれる。

でもその親切さがおせっかいに感じられるようになったのはいつからだろう。

あの時は手袋なんてしなくたって、雪が手のひらに降ったって、互いの手の温度を感じられたのに。

***

わたしは暗い駅の構内に立っていた。

彼と前行った時はイルミネーションがあって、光が感じられた。

でも今は、暗闇に包まれている。

光は自分の緑色のメッセージ画面と、無機的な白い電灯だけだ。

彼にメッセージを送っても、電話をかけてももうきっと届かない。

あの約束も忘れちゃったのかな、彼にとって私はもう邪魔なのかな。

黒い想像ばかりが私の頭を駆け巡った。

それを否定する材料を見つけるために、わたしはあの日のことを思い出していた..

***

ある日の夕方。わたしは学校から帰る途中、××くんと一緒にホームに立っていた。

「ねぇ。××くん。 何見てるの?」問いかけてみた。

「ああこれ?情報誌だよ。」

だったそれだけ。でもわたしは”誰”が”なぜ”彼にそれを渡したのか知っている。

今にも燃え落ちるような太陽と夕焼けを見つめながら、わたしは”爆弾”を投下してしまった。聞けば、終わってしまうかもしれない。それでも聞かずにはいられなかった。

「××くん。わたしのこと本当はどう思ってるの?」

2人の影が夕日の光を隔てるように感じた。

遮られた光はもう2度と交わらない。その事をわたしは知っている。

でもその事実自体を受け入れられるほど、わたしは大人でもなかった。

彼は黙ってしまった。彼に辛い事を強いる事は強い罪悪感があった。

でも。この機会を逃すとずっと聞けない気がした。

「1ヶ月後に答えをわたしに教えて。待ってるから。」

すぐ後に、電車の警笛が響く。

「ごめんね。もう行くから。」彼は1人で反対方向の電車に乗り込んでしまった。

「待って。××くん。わたしの気持ちは変わ…」

わたしの言葉をかき消すように電車のドアが音を立てて閉まる。

彼はいつもだったら「またね」と最後に言ってくれるのに。どうして。

赤いマフラーが風にたなびいて、目元をちょっとだけ隠した。

辺りは暗くなり始めて、ぼやけた電車の赤いテールランプが私の目に入った。


***

△○公園。ここが最も駅から近い場所だ。

誰もいない公園は静けさに包まれ、まるで墓場のようだった。

互いに示し合わす事なく、来るとしたらこの場所以外にない。

近くにある

自販機で買ったブラックコーヒーで暖をとりながら、公園を見回した。

遊具がある。白い街灯の光を反射している

ふと最初に会った時、赤いマフラーを巻き、はにかんでいた彼女の姿を思い出した。

「待ったよ。もう遅いから、手短に済まそう。」

「うん。」

彼女の顔は白かった。

その姿にほんの一瞬だけ迷いを覚えたが、すぐに次の言葉を早口で告げる。

「もう一緒にいられない。ごめんね。」

「それから、悪いけどこれはもういらない。」

俺は茶色いクマのぬいぐるみを彼女の方に勢いよく投げたが、音を立てて茶色いクマのぬいぐるみは彼女の手から落ちて砂で少し汚れてしまった。

彼女は雷に打たれたように身動き1つしないまま固まっていた。

「じゃあね。」

俺は公園を出て、暗い駅の構内に向かった。

彼女のか細い声が冷たい風に乗って聞こえてきたけれど、俺はもう後ろを振り返らなかった。月の光はほぼなく、電池の切れかかっている白い電灯だけが駅を照らしていた。

***

「もう一緒にいられない。ごめんね。」

その言葉を聞いた時、わたしは階段から急に落とされたような衝撃を感じた。

頭では意味が理解できるのに、心では納得できない。

急にぬいぐるみのようなものが「ドン」と投げ渡され、わたしはそれを落としてしまった。砂で汚れる茶色いぬいぐるみ。わたしはそれを急いで拾った。

彼はそれを見た後、わたしに背を向けて去っていく。

何か言おうと思っても、言葉にならずただ言葉にならない声と白い息が口から漏れる。

後ろから抱えている茶色いぬいぐるみのお腹の部分に何か入っている。

ベンチに座り、茶色いクマのぬいぐるみの

白いお腹のチャックを開けてみる。

整った黒い字に赤い便箋が止めてある。

「またね。」

わたしの目の錯覚なのかもしれないけど、そう書いてあるように見える。

月の光はなかったけれど、私は僅かな星の光に照らされていた。

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