第2話

 朝のホームルーム前の教室。一番端っこで、日当たりのいい窓際の席。そこに座った俺は頬杖をついて窓の外を見下ろし、考えに耽っていた。


 昨日のあの子は一体誰だろう。


 昨日屋上で出会ったあの少女が、なぜかずっと頭から離れなかった。


 なんであんなところで泣いてたんだろう。そういや顔に土埃がついていたな。まさか殴られたんじゃ…いや、まさかまさか。違うだろう。きっとどっかで転んだんだろう。転んだだけで、普通あんなに怪我する?


 疑問ばかりだった。どれだけ考えてもはっきりした答えは見つからなかった。そして何よりもーー


「なんで、俺を見て逃げたんだ」


 そう独り言を呟いている時、誰かが俺の名前を呼んだ。


「おい、晴翔」


 顔を上げると、雄太が手を振りながらこっちきていた。

 雄太は俺の幼馴染だ。幼稚園の頃から高校まで、ずっと同じ学校に通ってきた。


「お前何をそんなに考え込んでんだ」

「別に、何でもない」

「嘘つくな。めっちゃ悩んでる顔でため息ついてただ」

「雄太、おはよう」


 雄太が言っている途中、今登校してきたばかりらしい女子生徒が、恥ずかしそうに雄太に手を振った。すると、雄太は話を止め、すぐあの子に手を振った。


「あ、おはよう」


 雄太の挨拶で女子生徒の顔がほんのり赤くなった。

 雄太は昔から人気者だった。イケメンで背も高く、性格もよくて雄太を嫌う人など、ほとんどいなかった。


「お前何その目は」

「お前がまた他の女の子をときめかせたって、雛にチクろうか考え中だった」

「マジで勘弁してくれ。昨日も拗ねらちゃって大変だったんだから」


 雄太は両手を合わせて必死に頼んだ。俺は「わかった。わかった」と答えた。どうせ最初から本気で言うつもりはなかった。


「それより晴翔。お前、恋愛しないの?」

「なんで急にそんなこと聞くんだ」

「いやさ、お前まだ恋愛経験ないだろ。する気ないの?」

「さぁな」


 一年後に死ぬのに、今更恋愛なんて。相手に失礼だった。あと何よりーー


「そもそも好きな人もいない」

「知ってる。今まで一回もなかったもんな。お前、そのままじゃ恋愛経験なしのまま死んじゃうぞ」


 雄太のその一言に、ギクッとした。


 まさか俺の寿命のこと知ってるのか?! いや、ありえない。多分冗談だろう。


 雄太は俺が一年後にすぬことを知らない。俺の寿命のことは、家族以外の人に話したことなかった。

 いつかは言わなきゃ、とは思ってはいるけど、その『いつか』がいつなのかは、まだ自分でもわからない。


「なんだ、お前そんなに驚いて」

「いや、その…本当にそうなったらどうしようって思って」


 俺は気まずそうに笑って誤魔化した。

 まだ寿命のこと話す勇気はなかった。でもいつかは必ず話そう。そう心の中で誓った。

 その時、教室のドアが開く音がして自然に視線がそちらに向いた。ドアの隙間から見える少女を見た瞬間、俺は思わず息を呑んだ。


 なんであの子がここに。


 昨日屋上で出会ったあの少女が、教室のドアの前に立っていた。

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