SCENE#187 藤原家、壮絶バトルロワイヤル?!
魚住 陸
藤原家、壮絶バトルロワイヤル?!
第一章:栄華の絶頂、あるいはパワハラの極点
西暦九九五年。平安京の空気は、春のうららかな陽気とは裏腹に、どろりとした「権力の欲望」で煮詰められていた。
「いいか、道長。よく聞け。この世はな、椅子取りゲームだ。それも、ただのゲームじゃない。椅子に座れなかった奴は、歴史の教科書からシュレッダーにかけられ、存在そのものが『なかったこと』にされる、極めて残虐なリアル・サバイバルなんだよ…」
そう嘯(うそぶ)きながら、金箔をこれでもかと貼り付けた扇で自らを煽ぐのは、藤原氏の頂点に君臨する関白、藤原道隆(みちたか)である。彼は現在、自らの長男である伊周(これちか)を次期関白の座に据えるべく、やりたい放題の「超絶親バカ政治」を突き進めていた。伊周が若くして内大臣に抜擢された際、宮中では「あんな若造が……」「親の七光りが眩しすぎて網膜が焼ける…」という陰口が飛び交ったが、道隆はそれらをすべて「雅(みやび)な賛辞」として変換する、無敵のポジティブ脳を持っていた。
対する末っ子の藤原道長(二十九歳、趣味は和歌の添削と権力の観察)は、貴族社会の片隅で、死んだ魚のような目をして牛車に揺られていた。
「……やってられないよ、本当に。兄上たちは毎日、高級な酒を浴びるように飲んで『俺たち藤原家、マジ最高!』なんて自画自賛の和歌を歌い合っているけれど、その裏で僕は、末端の膨大な事務処理に追われているんだ。藤原家に生まれたからって、みんながみんな、満月を見て『望月の歌』を歌えると思うなよ。こっちは新月の暗闇で、誰にも評価されない予算書と睨めっこしてるんだから…」
道長は、平安貴族という名の「ブラック企業」における、窓際ギリギリの万年平社員のような気分だった。兄たちの眩しすぎる栄華は、彼にとっては単なる「過剰な光害」でしかなかった。しかし、運命は突如として、血塗られたサイコロを京の都へ投げ込んだ。都を襲った空前の疫病(天然痘)により、権力を独占していた道隆、そしてその跡を継いだばかりの弟・道兼までもが、わずか数ヶ月の間に「歴史的なスピード退場」を遂げてしまったのである。
「え、チャンス到来……? というか、上が全員いなくなった!? これが本当の『デッドマンズ・スイッチ』かよ!」
道長の目の前には、突如として空席となった「関白」という名の、世界で最も座り心地が良く、そして最も周囲からの返り血を浴びやすい椅子が残された。だが、その椅子を狙っているのは道長だけではなかった。道隆の息子であり、道長にとっては「生意気な甥」にあたる伊周が、ギラついた瞳で、最高級の沈香(じんこう)が香る扇をパッと広げた。
「叔父上、そこは僕の指定席ですよ。パパが僕のために予約しておいてくれたんです。老兵は死なず、ただ消え去るのみ。……あ、叔父上はまだ若いんでしたっけ? でも、センス的にはもう隠居ですよね?」
平安京を舞台にした、藤原一族による史上最悪、かつ最も陰湿な親族間抗争――「藤原家バトルロワイヤル」の火蓋が、雅な雅楽の音色とともに、盛大に切って落とされたのである。
第二章:和歌(わか)は弾丸、扇(おうぎ)は盾
伊周の攻撃は、平安貴族のエリートらしく、極めて「陰湿」かつ「知的」なものだった。彼はまず、道長を社会的に抹殺するため、宮中での「和歌(わか)による組織的なネガティブ・キャンペーン」を開始した。
「道長様は、昨日の宴で『あ』と『い』の区別がついていなかったらしい…」「彼が詠む和歌のセンスは、もはや平安時代以前の、ただの叫び声に近い!」「道長様の顔は、牛車の車輪に似ている…」といった、根も葉もない、しかし破壊力抜群の怪文書が、十二単(じゅうにひとえ)の袖から袖へと、光速で渡り歩いていく。当時の宮中は、さながら「紙ベースのSNS」と化していた。
「……あのクソガキ、SNS(すずめ・ニュース・サービス)を使いこなしやがって。若さに任せて情報を拡散させるなんて、卑怯だぞ!」
道長は、自らの和歌の才能が、お世辞にも「壊滅的」であることを自覚していた。彼が詠む歌は、情緒という概念をどこかに置き忘れたような、あまりに直球なものばかりだった。『酒うまい、月も丸いし、俺最高。明日もたぶん、俺は最高』。そんなレベルの歌を堂々と披露する道長に対し、周囲の貴族たちは、もはやツッコミを入れることさえ諦めていた。
「紫式部! 清少納言! 誰でもいい、僕のゴーストライターになってくれ! 今すぐ、伊周の自尊心をズタズタにするような、超絶技巧のディスり和歌を書いてくれ!」
道長は叫んだが、当時のインテリ女性陣は、伊周の家系に仕えているか、あるいは道長のあまりのセンスのなさと「雅(みやび)」への無理解にドン引きして、誰も筆を執ろうとしなかった。そこで道長が取った戦略は、平安貴族のタブーを恐れない「物理的な嫌がらせ」であった。
伊周が参内(さんだい)するルートを事前に察知し、そこにわざと牛の糞を大量に撒き散らしたり、伊周が愛用している一本数万円は下らないであろう最高級の扇の骨を、夜中にこっそり一本だけ折って「あ、あれ……? 今日は扇ぎにくいな……」という、地味すぎて誰にも相談できないレベルのストレスを与え続けたりした。
「叔父上! 貴族の争いに牛の糞や器物破損を持ち込むなんて、マナー違反ですよ! 伝統に対する冒涜です!」
「何を言うか。これは『大地の恵み』を可視化し、自然へのリスペクトを示しただけだ。それに伊周、お前の和歌は飾りが多すぎて、プロセッサが追いつかないんだよ。俺の歌は、五・七・五のバイナリデータだ。無駄がないんだよ!」
二人の争いは、ついに一条天皇の御前での「直接対決」へと発展した。しかし、それは剣を交えるような野蛮なものではなく、どれだけ「雅な言い訳」を並べ立てて相手を論破できるかという、究極の屁理屈合戦であった。
「道長様は、真面目な公務中に鼻をほじっておられました! 天皇陛下を軽んじております!」
「それは鼻の中に詰まった、宮中の『邪気』を一心不乱に払っていたのだ! 掃除の一部だ!」
一条天皇は、このあまりに醜く、かつ低次元な親族喧嘩を見守りながら、そっと自らの耳を扇で塞いだ。平安京の平和は、藤原家の「幼稚なバトル」によって、音を立てて崩れ去ろうとしていた。
第三章:呪詛(じゅそ)の嵐と、三流陰陽師の憂鬱
バトルのステージは、目に見える世界から、いよいよ「目に見えないドロドロとした世界」へと移行した。平安時代といえば、そう、避けては通れないのが「呪詛(じゅそ)」である。伊周は、一族の私財を湯水のように投じて、京で指折りの一流陰陽師を数名雇い、道長の屋敷に「呪いのわら人形(平安セレブ仕様・シルク製)」を、毎晩のように送り込み始めた。
「道長の腰を物理的に砕けさせ、和歌の語彙をすべて『うまい』と『まるい』だけに限定せよ。あと、ついでに髪の毛の生え際を、一ヶ月で二センチほど後退させろ!」
伊周の注文は、具体的かつ、現代社会においても訴訟レベルの残酷なものだった。道長の屋敷「土御門殿(つちみかどどの)」では、毎晩のように怪奇現象が多発した。天井から謎の、しかし高級そうな香りのする粘液が滴り、牛車が誰も乗っていないのに「関白にならせろ!」と叫びながら街中を暴走し、庭で飼っている愛犬がなぜか「五・七・五」の韻を踏んだ鳴き声で吠え始めた。
「……気持ち悪いんだよ! 呪いのデザインが凝りすぎてて、逆にイライラする! 誰か、今すぐ安倍晴明を呼んでこい!」
「道長様、大変申し上げにくいのですが、晴明様は現在、伊周様からの『年間呪詛パッケージ』の案件で、半年先まで予約が埋まっております。キャンセル待ちも三千人です!」
「な、なんと!? あいつ、独占禁止法違反だろ! 独占禁止法を平安時代に導入しろ!」
仕方なく道長が雇ったのは、自称・安倍晴明の遠い親戚の、そのまた近所の知り合いの、元・寺男だという、ひどく胡散臭い陰陽師・安倍ノリユキ(仮名)であった。
「道長様、ご安心を。この『開運・超次元印(サイン)』を毎日一万回結べば、どんな呪いもすべて、相手の親族まで含めて跳ね返ります。代金は、将来の参議のポストと、高級な牛車一台でお願いします。先払いで!」
「一万回!? 指が攣(つ)るわ! もっと自動化されたデバッグ方法はないのか!」
ノリユキは、屋敷の四方に「最強の結界」と称して、なぜか賞味期限が数年前に切れた、異臭を放つ干物を大量に吊るした。
「……これで、霊的なカラスや浮遊霊が、臭すぎて近寄れなくなり、呪いの通信環境が著しく悪化します。パケットが届かなくなるのですよ!」
「アナログすぎるだろ! 呪詛に通信障害を起こすな!」
だが、奇跡的にこの「干物結界」が抜群の効果を発揮した。伊周が送り込んだ、高貴で繊細な趣味を持つ生霊たちが、干物のあまりの「非・雅」な臭さに戦意を喪失し、「……こんな汚い、食べ物の管理もできない男を呪う価値もない。呪うこっちの品格が下がる…」と、自発的に退散していったのである。
「勝った……。俺の『不潔・低コスト戦略』が、呪詛のアルゴリズムを完全に破壊したぞ!」
道長は勝利を確信したが、屋敷の住人たちは、呪いよりも深刻な干物の臭さに悶絶し、半数以上が実家に帰ってしまうという、別の意味での崩壊が始まっていた。
第四章:入内(じゅだい)レース、あるいは娘たちの代理戦争
物理攻撃、情報戦、そして臭覚を刺激する精神攻撃。あらゆる手段を出し尽くした二人が辿り着いた、このバトルロワイヤルの最終局面。それは「自分の娘を、いかに早く、天皇の寝室へ送り込むか!」という、平安時代における究極の代理戦争であった。これは単なる結婚ではない。将来の天皇の外祖父になるための、千年にわたる利権をかけた、負けられない「投資」である。
伊周には、絶世の美女として宮中で名高い妹、定子(ていし)がいた。彼女はすでに一条天皇の寵愛を一身に受けており、その後ろ盾には「枕草子」を書き上げ、宮中のトレンドを完全に支配している才女・清少納言がついている。
「定子様の雅(みやび)さは、もはやOSのバージョンが違います。道長様の娘さんなんて、まだアナログ放送のノイズ混じりでしょう? 時代遅れも甚だしいですわ!」
清少納言の、キレ味の鋭すぎる毒舌が、宮中の長い回廊に響き渡る。彼女の書く文章は、すべてが「伊周陣営のポジティブ・キャンペーン」として、若手貴族たちのバイブルとなっていた。対する道長は、まだ幼さの残る長女の彰子(しょうし)を、最強のカードとして切った。
「彰子、いいか。お前はただ座っているだけでいい。あとのことはすべて、パパが『現代最強のクリエイター』をアサインしたから。お前のバックには、パパがついているんだから!」
道長がプロデューサーとして、三顧の礼をもって連れてきたのは、陰気で、思慮深く、しかし言葉の殺傷能力が異常に高い女性――紫式部であった。
「紫式部くん、君の仕事は一つだ。伊周の陣営が『雅(みやび)』という軽薄な感性で攻めてくるなら、こっちは『エモさ』と『圧倒的な物語の長さ』で勝負するんだ。天皇が寝る間も惜しんで読み耽り、睡眠不足で仕事に支障が出るような、超大作のメロドラマを書け。ついでに、その主人公を、ほんのり俺に似せたイケメンにしておいてくれ…」
「……道長様、注文が多すぎます。それに、あなたに似せたら、物語のジャンルがシリアスから『勘違いコメディ』になってしまいます。筆が止まりますので、黙っていてください!」
ここに、日本文学史上最大のバトル「枕草子 vs 源氏物語」が勃発した。定子と清少納言が「春はあけぼの、夏は冷房(平安にはないが)」と、瑞々しい感性で現代的な美しさを攻める中、彰子と紫式部は「人間関係はドロドロしてこそ価値がある、光源氏は今日も元気に浮気をしている」という、重厚かつ救いようのないメロドラマで、天皇の心の隙間にじわじわと入り込んだ。
「お、重い……。彰子のところに行くと、いつも全五十四帖の長い小説の続きを読まされる……。でも、続きが気になる……。浮気相手の生霊が出るシーンが怖すぎて、一人で寝られない……!」
一条天皇は、定子の明るく知的な魅力と、彰子の(紫式部による)底なしの物語性の間で、板挟みになった。
「地方創生……じゃなくて、后(きさき)創生は素晴らしいことだ? いや、しんどい! 藤原家、もう勝手にやってくれ!」
天皇の胃壁は、藤原家の「創作活動」という名の代理戦争によって、ボロボロになっていった。
第五章:伊周の自爆、あるいは「法皇」の袖を射た矢
バトルロワイヤルには、往々にして「予想外の自爆」という唐突な結末が待っている。道長への対抗心に焦った伊周は、ある夜、取り返しのつかない致命的なミスを犯した。自分の意中の女性の屋敷に、夜な夜な忍び寄る不審な男の影。それを「自分の女を狙う不届きな恋敵!」だと思い込んだ伊周は、短気な弟の隆家に命じて、脅しの矢を放たせたのである。
「ヒュン……ッ! ドスッ!」
その矢は、暗闇の中で男の袖を正確に貫いた。だが、その男が顔を上げた瞬間、伊周の心臓は停止した。男の正体は、あろうことか「花山法皇(かざんほうおう)」――すなわち、すでに出家し、俗世を離れていたはずの、先代の天皇その人だったのである。
「……終わった。マジで終わったな、あいつ…」
報告を受けた道長は、口から飛び出しそうな爆笑を、必死の思いで「宮中で最も深刻で、同情に満ちた表情」の裏に押し込めた。
「伊周くん、君、なんてことをしてくれたんだ。法皇様に矢を放つなんて、それはもう『国家転覆罪』だし、不敬罪のデラックス版だよ。いや、個人的には君の将来が心配すぎて、明日の朝食も喉を通らないよ(と言いつつ、豪華な朝食を注文する)」
伊周は、真っ青を通り越して、もはや透明に近い色になって震えていた。
「叔父上、あれは、その……弓の練習をしていたら、法皇様がたまたま物理法則に従って、そこに袖を置いていらっしゃっただけで……」
「その言い訳は、検非違使(けびいし)の取調室で言ってくれ。君の全財産とポスト、そして妹の定子の地位も、すべて連帯責任で没収だ。これがバトルのルールの厳しさだよ…」
道長は、この千載一遇の好機を逃さなかった。彼は、伊周を大宰府へと「遠すぎる研修」という名目で追放し、その勢いで定子の影響力を根こそぎ削ぎ落とした。平安京の権力図は、一夜にして道長の「完全一強状態」へと強制的にアップデートされたのである。
「これが、バトルロワイヤルの勝ち方だ。正義が勝つんじゃない、最後に生き残って、歴史を書く権利を手に入れた奴が『正義』って名前を自分で彫るんだよ。フォントサイズ最大でな…」
道長は、追放される伊周の背中を、新しい金箔の扇をパタパタさせながら見送り、その日の夕食に「勝利の最高級アワビ」を追加した。
第六章:望月の歌、あるいは完全勝利の虚無
西暦一〇一八年。道長の勝利は、もはや絶対的なものとなっていた。彼の娘たちは三代の天皇の后となり、孫が将来の天皇になることが確定した。藤原家の北家(ほっけ)、その中でも道長の血筋だけが、日本のOSを握るマスターキーとなったのである。
ある秋の夜、道長は完成したばかりの豪華絢爛な自邸「法成寺(ほうじょうじ)」で、一族と取り巻きたちを集めて盛大な宴を開いた。庭の広大な池には、金銀で飾られた龍の形をした船が浮かび、最高の酒と、最高の料理、そして最高の(紫式部たちによる)音楽が流れていた。道長は、空に浮かぶ完璧な満月を、少し潤んだ目で見上げた。
「……なんか、詠みたくなっちゃったな。僕の魂が、メロディを求めてる…」
周囲の貴族たちは、一斉に緊張した。道長の和歌のセンスが、勝利と権力によって、少しはマシなものに改善されていることを、神仏に祈りながら。道長は、少し千鳥足で立ち上がり、朗々と歌い上げた。
「この世をば 我が世とぞ思う 望月の 欠けたることも なしと思えば」
(意訳:この世界、マジで俺のもの。この満月みたいに、俺の人生には欠けてる部分が一ミリもないぜ! 文句ある奴、大宰府行くか?)
会場は、一瞬の静寂に包まれた。あまりに直球。あまりに傲慢。あまりに雅(みやび)という概念を無視した、「剥き出しの欲望」の塊。しかし、次の瞬間。
「素晴らしい!」
「さすが道長様!」
「なんてパワフルで、現代的な歌なんだ!」
おべっか使いの貴族たちが、一斉に割れんばかりの拍手を送った。道長は満足げに頷いたが、その横で、実務の鬼として知られる実資(さねすけ)だけは、自らの日記「小右記(しょうゆうき)」に、震える筆でこう書き記した。
『……なんとひどい歌だ。和歌の心が、今日、完全に死んだ。だが、勝てば官軍、詠めば名歌。これが藤原家バトルロワイヤルの、美しくも醜い結末か。俺は絶対にこの歌を返歌(返しの歌)にはしない。黙って記録だけしてやる』
道長は、月の光を浴びながら、ふと、ある種の虚しさを感じていた。椅子を奪い合い、兄弟を蹴落とし、甥を追放し、娘たちを政治の道具として使い倒し、辿り着いたこの場所。
「……結局、僕は月を見ているんじゃない。月を見ている『自分』を見ているだけなんだな。紫式部くん、この哲学的な気持ち、次の章の源氏物語の隅っこに書いておいて!」
「道長様、源氏物語はもう完結しましたし、あなたの気持ちなんて一文字も入れる余白はありません。いい加減、自分の人生の続きは、自分で考えてください…」
第七章:栄華の残骸、そして歴史のシュレッダーへ
それから数百年が過ぎ、藤原家が築いた「雅なバトルロワイヤル」の舞台は、やがて武士たちの「物理的に首が飛ぶバトルロワイヤル」へと取って代わられた。藤原道長が自慢した法成寺は火災で跡形もなく失われ、彼が自慢した金ぴかの扇も、今や土の中で朽ち果てている。しかし、道長が権力に物を言わせて無理やり「書かせた」源氏物語や、定子が守り抜いた枕草子の言葉だけは、千年後の現代まで、デジタルデータとなって読み継がれている。
「皮肉なものだ。道長が一番欲しがった『権力』という椅子は消え去り、彼が一番苦手だった『言葉』だけが、彼の名前を現代に繋いでいるんだからね…」
歴史の授業で居眠りをしている中学生は、藤原道長の名を聞くと「あぁ、なんか満月の歌をドヤ顔で歌った、調子に乗ってるおっさんでしょ?」と笑う。
道長がもし現代に蘇れば、「おじさんじゃない! 情報武装した藤原家グループの最高経営責任者だ! あと、この月の歌、TikTokでバズるだろ?」と怒るだろう。
藤原家、壮絶バトルロワイヤル…
それは、平安という優雅な仮面の下で、全力で「不都合」を相手に押し付け合い、全力で「自分勝手」を貫いた、愛すべき人間たちの喜劇。彼らが和歌で殴り合い、呪詛で通信障害を起こそうとし、娘の入内でKPIを稼ごうと必死になった日々は、今も日本文化の底流に、静かに、あるいはドタバタと流れている。
「……ま、終わりよければすべて良し、ってね!」
道長の霊は、今も月が出る夜、宇治のあたりで、下手な和歌を詠み続けているかもしれない。
「この世をば、我が世とぞ思う……いや、やっぱり、スマホが欲しい!」
藤原一族が残した最大の教訓。それは、「どんなに権力を握っても、和歌の才能と、歴史家による評価だけは金で買えない」ということ。そして、「歴史とは、最も図々しく生き残り、最も長く物語を書かせた者の勝利宣言である」ということ。
今日も、夜空には満月が浮かんでいる…
それは千年前、道長が見上げた月と同じもの。しかし、今の月は、誰の所有物でもない。ただ静かに、かつてここで狂ったように椅子を取り合った藤原たちの残骸を、白く、冷たく照らし続けているだけだ。
藤原家バトルロワイヤル、これにて一旦、閉幕…
また、どこかの時代で、誰かが椅子を取り合う音が聞こえてきたら、それは彼らの亡霊が、現代の椅子取りゲームに参加しに来た合図かもしれない。
「次、誰が座る? 僕は予約済みだよ!」
SCENE#187 藤原家、壮絶バトルロワイヤル?! 魚住 陸 @mako1122
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