やみませんね。
数多未
やみませんね。
「あ、雨」
そう言われて空を見上げれば、鼻先にポツリと、雲の欠片が落ちてきた。
ポツリ ポツリが、
やがてパラ パラ パラになって、
私たちがバス停に着く頃には、ザー ザーになっていた。
「ここ、田舎で良かったね」
「ね。都会じゃ屋根のあるバス停なんて中々ないもん」
君が、笑う。私も、つられて笑った。
不意に、私の顔に張り付いた髪を、君が整える。あ、まつ毛。思ったより長いんだな。
「ゆうちゃん、まつ毛長いねぇ」
心を覗かれた気がして、一瞬ドキッとする。そう言って私の顔を覗き込んでる君の方が、ずっと長くて綺麗だと思うけど。
「そんなことないよ」
「え〜?まぁ、ゆうちゃんツンデレだもんね」
「うるさい」
君が、あははと声を上げて笑う。私も、つられて笑った。
隣を見ると、濡れた髪を気にする素振りも見せずに、ただひたすらに、空を見つめる君がいる。なんだか、映画の中みたいだ。
「雨、やみませんねぇ」
「そうだね」
このままずっと、やまなければいいのに。そうしたら、この世界に君と私しかいないのに。君を取られる心配もなくなるのに。
「好きなんだよね」
やましいことを考えていた天罰か、腹の内から食道を伝って、口から本音が溢れ出た。
「うん?なにが?」
「君が」
「そっか。知ってるよ」
「いや─」
言おうとして、口を噤んだ。
君は、笑っていなかった。
真っ直ぐな瞳に、吸い込まれそうになる。
「私、ゆうちゃんとキス…できるよ?」
「…なら、今してよ」
「ファーストキスの場所が田舎のバス停でいいの?」
「…いいよ、別に。それに、決めつけないでよ、ファーストキスだって」
「決めつけてないよ。ゆうちゃんが他の人とキスするような関係になるの、私許さないもん」
ああ。本当に。
「そういうとこだよ」
私は君を愛してやまない。例え君がお遊びだとしても、構うものか。今この瞬間は確かに、君は私のものなんだ。
「はっきり言ってくれなきゃわかんないよ」
そう言って、君は私の肩に手を置いた。目を細めて、私に顔を近づける。私も目を閉じた。君が髪をゆっくりと撫でる。私は、何もしなかった。できなかった。
吐息がかかるほど唇が近づく。心臓の鼓動音がうるさい。聞かれてないかな。聞かれてたら嫌だな。
ギュッと瞼に力を込めたその時、君は額を私の額にスリスリと擦りつけ、神言を伝える天使のように言った。
「私、ファーストキスは大事にしたいの。バス、来たよ」
君はまた、笑っている。私は、つられて笑えなかった。
気づけば、雨は上がっていた。
やみませんね。 数多未 @Amatami-saikyo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます