イジトク 番外編

べこたろ

心配、だから平気。


 東雲静しののめしずかは定期的に毒を摂取しなければ生きられない。

 今日は、乾燥させたトリカブトの根を加えた自作のハーブティーを飲んでいた。

 その様子を黙って見守っていた雷斗らいとが、そっと口を開く。

「……静、体は平気?」

 ティーカップを置き、静は普段通りに微笑みかけた。

「ええ。いつもと変わりないですよ、雷斗くん」

 その言葉を聞いて、雷斗はホッと息をつく。

「良かった。……いや、大丈夫ってわかってるんだけど。やっぱり、どうしても心配になっちゃうんだよなぁ」

 雷斗が少し気恥ずかしそうに笑う。

 静の脳裏にふと、昔の記憶がよぎった。


◇ ◇ ◇


「うわっ、ムカデ!なあ東雲、これ食って退治してくれよ!」

 クラスメートの男子が、校庭の花壇で見つけたムカデを指さして、からかうように声を上げる。静は苦い顔を浮かべた。

「……僕は毒が平気なだけで、毒虫を食べるわけじゃないよ」

「えー、でも毒の草とか食ってんじゃん」

 男子がもうひとり、口を挟む。

「必要だからそうしてるだけだよ。……それに、ムカデは何も悪さしてないでしょ。放っといてあげなよ」

 静は目を伏せ、拳を軽く握り込んだ。

「あーあ、東雲ってほんとノリ悪いよなー!」

「異能持ちのクセに、つまんねーヤツ」

 クラスメートたちは白けたようにその場を離れた。

「……別に、好きで毒を摂ってるわけじゃない」

 ぽつりと呟いた言葉は、誰にも届かず宙に消えていった。


◇ ◇ ◇


「……ふふ、確かに大丈夫ですが……雷斗くんの気持ち、すごく嬉しいですよ。気にかけてくれて、ありがとう」

「へへっ。それが静の普通なんだし、余計なお世話かもって思ったけど……それなら良かった!」

 雷斗も満面の笑みでうなずいた。 


 ――雷斗くんがそうやって心配してくれるから、僕も平気でいられるんですよ。……本当に、ありがとう。


 静はティーカップを手に取り、残りのハーブティーをゆっくり飲み干した。

 温かさが、胸の奥までじんわり沁みていくようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る