情報伝達史の時代区分

■ 概要


情報伝達史の時代区分は、情報がいかに生成され、いかなる媒体と経路を通じて伝えられ、どのような条件のもとで信頼・公開・保存されてきたかを、社会構造と技術条件の相互作用として把握するための枠組みである。


情報伝達史は、単なる通信技術の発展段階ではなく、誰が情報を発する資格を持つのか、誰がそれを受け取ることを許されるのか、どの程度の速さ・広さ・持続性が要請されるのか、という規範的条件の変遷として構成されてきた。


以下では、口承中心社会から、印刷・電気通信を経て、デジタル・ネットワーク社会に至る節点を基準として、情報伝達史を9つの時代に区分する。



■ 1. 口承共同体期(先史)


・時期

 先史時代〜概ね紀元前3000年頃


・特徴

 情報伝達は主として口承によって行われ、発話と同時に消滅する一過性を本質とする。

 情報は共同体内部で循環し、記憶・反復・儀礼を通じて保持される。


 情報の真正性は、語り手の人格・年長性・宗教的権威に依拠し、

 秘匿と公開の境界は共同体の内部規範によって定められる。


・主要装置

 口頭伝承、神話、儀礼、歌、証言


・思想的意義

 情報伝達史における原初形態として、

 「情報=関係のなかで生きるもの」というモデルが成立する。



■ 2. 文字定着期(古代文明)


・時期

 概ね紀元前3000年頃〜4世紀


・特徴

 文字の発明と定着により、情報が時間と空間を超えて保存・移送可能となる。

 情報は粘土板・石碑・パピルスなどの物質媒体に固定され、

 記録性が飛躍的に向上する。


 一方で、読み書き能力は限定され、

 情報へのアクセスは強く階層化される。


・主要装置

 文字、碑文、文書、書記制度


・思想的意義

 情報が「記憶されるもの」から「記録されるもの」へ転換し、

 情報伝達史は不可逆的な累積構造を持ち始める。



■ 3. 権威文書期(中世)


・時期

 概ね5世紀〜15世紀前半


・特徴

 宗教権威や封建的統治と結びつき、

 情報は正典・勅書・布告といった権威的文書として流通する。


 真正性は内容よりも発信主体と形式によって保証され、

 情報は公開されると同時に、解釈の自由を制限される。


・主要装置

 宗教文書、勅令、布告、写本


・思想的意義

 情報伝達史において、

 「情報=秩序を再生産する装置」という性格が明確化される。



■ 4. 印刷拡散期(近世)


・時期

 概ね15世紀後半〜18世紀


・特徴

 印刷技術の普及により、情報の大量複製と広域流通が可能となる。

 書籍・パンフレット・新聞が出現し、

 情報は不特定多数に向けて発信されるようになる。


 同時に、検閲・出版許可・異端審問など、

 情報統制の制度も強化される。


・主要装置

 活版印刷、書籍、新聞、検閲制度


・思想的意義

 情報伝達史において、

 広報性と秘匿性が恒常的に衝突する構造が成立する。



■ 5. 電気通信加速期(近代後期)


・時期

 概ね19世紀〜20世紀初頭


・特徴

 電信・電話の登場により、情報は物理的移動から切り離され、

 ほぼ即時に遠隔地へ到達するようになる。


 即時性が情報伝達史の中心的価値として浮上し、

 軍事・金融・行政において時間差の縮小が統治能力と直結する。


・主要装置

 電信網、電話網、通信局、時刻標準


・思想的意義

 情報伝達史において、

 「速さ」が独立した政治的・経済的資源として認識され始める。



■ 6. 大衆放送期(20世紀)


・時期

 概ね1920年代〜1970年代


・特徴

 ラジオ・映画・テレビの普及により、

 情報は一対多で同時配信されるマスメディア型構造を取る。


 情報の広報性は飛躍的に拡大する一方、

 発信主体は国家・企業・放送機関に集中する。


・主要装置

 放送局、新聞社、映画、テレビ


・思想的意義

 情報伝達史において、

 世論形成と情報操作が制度的に結合する段階が成立する。



■ 7. デジタル転換期(情報化社会)


・時期

 概ね1980年代〜1990年代


・特徴

 コンピュータとデジタル通信により、

 情報は離散的データとして処理・保存・複製される。


 記録性と検索性が飛躍的に向上し、

 情報は人間の記憶能力を超えた規模で管理される。


・主要装置

 コンピュータ、データベース、電子媒体


・思想的意義

 情報伝達史において、

 情報が「意味」だけでなく「計算対象」として扱われ始める。



■ 8. ネットワーク発達期(インターネット社会)


・時期

 概ね2000年代〜2020年代


・特徴

 インターネットとモバイル通信により、

 個人が同時に発信者・受信者となる構造が成立する。


 即時性・広報性・記録性が極度に高まり、

 情報は常時接続・常時更新される状態となる。


・主要装置

 インターネット、SNS、検索エンジン、クラウド


・思想的意義

 情報伝達史は、

 中央集権型モデルから分散参加型モデルへと転換する。



■ 9. 分散型ネットワーク期(予測的区分)


・時期

 2020年代後半〜(予測)


・特徴

 情報過剰・偽情報・監視資本主義への反省から、

 分散型ネットワーク、暗号技術、選択的公開が志向される。


 情報は「すべて共有されるべきもの」から、

 「条件付きで制御されるべきもの」へ再定義されつつある。


・主要装置

 分散型ネットワーク、暗号通信、データガバナンス


・思想的意義

 情報伝達史の焦点が、

 伝達効率から統治・倫理・設計原理へ移行する。



■ 締め


以上の9区分は、情報伝達史を技術進歩の直線的物語としてではなく、秘匿性・真正性・広報性・即時性・記録性という相反する要請が、社会制度と結びつきながら再編されてきた過程として捉えるための枠組みである。


情報伝達史とは、「何が伝えられるか」ではなく「何が伝えられるべきと判断されてきたか」という規範の歴史である。


この視点に立つと、現代の情報環境は到達点ではなく、再び選別・抑制・設計を問われる転換点として位置づけられる。


情報伝達史は過去の整理ではなく、現在進行形で更新され続ける社会的条件の記述なのである。

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