死にたがりの聖女を、僕は週に一度「殺す」ことにした。 ――彼女の絶望は、世界を救う燃料になる。

@ruka-yoiyami

第1話 私は、今日も殺される

私は、今日も殺される。

週に一度、決まった曜日に。


世界を救うために。


 


白い部屋だった。

窓はなく、装飾もない。あるのは、中央に置かれた簡素な椅子と、私が座るための拘束具だけ。


初めてここに連れてこられた時、私は泣いていたと思う。

でも、今は違う。


「……おはよう、ハル」


扉が開き、少年が入ってくる。

黒髪、無表情。年の頃は、私より少し下だろうか。


彼は私を見て、軽く会釈をした。


「おはようございます、セレスティア様。体調は」


「いつも通りよ。死にたい気分も、ちゃんとある」


そう言うと、彼はほんの一瞬だけ、視線を伏せた。

それが彼なりの、気遣いなのだと、私は知っている。


ハルは感情を無機物に変える異能者だ。

人の苦しみ、悲しみ、絶望――それらを《石》として取り出すことができる。


そして私は、世界で一番、苦しみを抱えた存在。


だから彼は、ここにいる。


「始めます」


淡々とした声。

手際よく装置を起動し、私のこめかみに手を当てる。


怖くはなかった。

むしろ、この時間だけが、私にとっての安らぎだった。


意識が遠のく直前、胸の奥が、少しだけ軽くなる。


ああ、また生きてしまったな、と思う。


 


――次に目を覚ました時、私はもう“別の私”だ。


苦しみは薄れ、記憶はそのまま。

でも、心だけが、綺麗に削り取られている。


「……成功です」


ハルが、透明な石を手に取る。

それは、さっきまで私の中にあった絶望。


「ねえ、ハル」


私は微笑んだ。

リセットされた直後だけ、私はこうして笑える。


「もし、私が本当に死んだら……世界はどうなるの?」


「……崩壊します」


即答だった。


「そっか」


私は、少し残念そうに息を吐く。


「じゃあ、今日も失敗ね」


「……」


沈黙が落ちる。

彼は何も言わない。ただ、その石を見つめている。


「ねえ」


私は、最後に一つだけ、聞いてみることにした。


「次に生まれ変われたら、普通の女の子でも、いいかな」


ハルの手が、ほんのわずかに止まった。


それが、私の知る――

彼の、唯一の“感情”だった。

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